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藤井聡太二冠(18)B級2組6回戦対局開始 作戦家・村山慈明七段(36)用意の横歩取りを受けて立つ 

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月21日10時。大阪・関西将棋会館においてB級2組順位戦6回戦▲藤井聡太二冠(4勝0敗)-△村山慈明七段(2勝2敗)戦が始まりました。

 本日のB級2組一斉対局、東京では5局、大阪では6局がおこなわれます。

 藤井二冠-村山七段戦が配されたのは関西会館5階・御上段(おんじょうだん)の間。

 9時42分。タイトルホルダーの藤井二冠は床の間を背にして、上座にすわりました。まずは手にしていた紙コップを席の右に置かれているお盆の上に乗せます。続いてかばんの中から扇子を取り出して座布団の前に置きました。

 続いて9時49分。村山七段も対局室に姿を見せました。ビニール袋からお茶と水のペットボトル、合わせて3本を取り出し、お盆の上に置きました。

 両者駒を並べ終えたあと、対局開始の時間を待ちます。

 10時。記録係が定刻になったことを告げます。

「それでは時間になりましたので、藤井先生の先手番でお願いします」

 両者「お願いします」と一礼して対局が始まりました。

 先手の藤井二冠はマスクをずらし、紙コップを口にします。そして7筋の歩を手にして、一つ前に進め、角筋を開きました。

 作戦家の村山七段。十二分の用意をして本局に臨んだものと思われますが、すぐには2手目を指しません。1分を使って気息を整え、3筋の歩を一つ前に進めます。これで両者ともに角道を開けたことになります。

 このあと、両者ともに飛車先の歩を前に進め、交換します。

 15手目。藤井二冠は飛車を左に寄せるモーションで、2手目に突かれた後手の歩を取ります。「横歩取り」と呼ばれる戦型のオープニングで、後手の村山七段が誘った上での進行です。

 横歩取りはここ90年ぐらい、基本的に先手よしと見なされてきました。

 ただし後手の側からもあれこれと工夫がほどこされ、その都度、「後手もやれるのではないか」と見直されてきました。横歩取りの歴史はその繰り返しです。最近は再びトップクラスの棋士も後手番を持って横歩取りを指す場面が多く見られるようになりました。

 どんな戦型でも勝率の高い藤井二冠ですが、横歩取りは比較的黒星が多く見られます。最近の豊島将之竜王戦(日本シリーズ)、羽生善治九段戦(王将戦リーグ)も横歩取りでした。

 ところで将棋界の最新トピックは、叡王戦のメインスポンサー交替でしょう。

 昨日からネット上では、叡王戦、そして電王戦に関する思い出話が多く見られます。

 村山七段は2015年、副将として電王戦に出場しました。

 相手のコンピュータ将棋ソフトは当時最強と言われたponanza。あらかじめ後手番と決まっていた村山七段は「相横歩取り」に勝機があるのではないかと、90手ぐらいまで深く研究していたそうです。実戦ではponanzaが変化して、残念ながらその順は現れませんでした。もし村山七段の研究通りに進んでいれば、村山七段は大舞台で歴史的な1勝をあげていたかもしれません。

 本局、藤井二冠は「青野流」と呼ばれる形を採用します。後手はこの青野流をどう打ち破るかが、現代横歩取りのメインテーマです。

 22手目。村山七段も飛車を7筋にスライドさせ、横歩を取り返します。一触即発。一気に終盤に突入するような激しい順は、常に含みとして互いに念頭に置かざるをえない進行です。

 互いに研究十分と思わせる進行が続いて30手目、村山七段がさらに飛車をスライドさせ、3筋の歩まで取ったところで12時、昼食休憩に入りました。

 12時40分。記録係が再開の定刻になったことを告げます。

「時間になりました」

 31手目。藤井二冠は三段目の飛車を五段目に浮きました。

 藤井二冠、村山七段ともに上着を脱いで、長袖のワイシャツ姿です。手番の村山七段は右手で扇子を持ち、前傾姿勢になって考えます。

 32手目。村山七段は22分を使って金を上がり、自陣の整備をします。ここまでの消費時間は藤井49分、村山1時間32分(持ち時間各6時間)。

 東京でおこなわれている▲佐々木慎七段(0勝4敗)-△横山泰明七段(3勝1敗)戦は先手の角交換型の四間飛車。休憩明けの12時50分、62手で千日手が成立しています。指し直し局は先後を入れ替え、残り時間を引き継いで、30分後の13時20分から始まりました。

 横山七段は8回戦、佐々木慎七段は最終11回戦で、橋本崇載八段との対戦が組まれていました。しかし橋本八段の休場により不戦勝。実質的にプラス1勝が確定しています。橋本八段の休場は昇級争い、降級点回避の争いに、かなり影響を与えることになるかもしれません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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