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ロシア軍の「日本海でのミサイル発射」は通常訓練で日本牽制の意図無し

JSF軍事/生き物ライター
ロシア国防省の公開動画からタランタル級から発射されたモスキート対艦ミサイル

 3月28日にロシア海軍は日本海で超音速対艦ミサイルを使用した演習を行ったと発表しました。しかしこれは通常訓練の範疇であり政治的な目的は一切無く、3月21日に岸田首相がウクライナに訪問したことに対する日本牽制の意図などは全く無い行動です。また3月28日に韓国の釜山に入港したアメリカ海軍の空母ニミッツへの牽制という要素も全く無いでしょう。

 何故ならタランタル級ミサイルコルベット(500トン級のミサイル艇)から発射されたミサイルはP-270モスキート(NATOコードネーム:SS-N-22サンバーン)であり、やや旧式の対艦ミサイルで、射程もあまり長くなく、対地攻撃能力もありません。発射されたのはウラジオストク直ぐ沖のピョートル大帝湾で、「日本海に向けて発射」と言っても100km先で沿岸から目と鼻の先です。これでは脅威と認識されません。

 しかも実は3月14日にも同じ海域で同じミサイルを用いる設定の模擬演習が行われています(Интерфакс, 14 марта 2023)。3月28日のミサイル発射は3月14日からの演習の続きに過ぎず、岸田首相のウクライナ訪問(3月21日)とは何ら関係がありません。

  • 2022年3月14日 ウラジオストク沖でミサイル発射模擬演習(モスキート)
  • 2022年3月21日 岸田首相がウクライナを訪問
  • 2022年3月28日 ウラジオストク沖でミサイル発射実射演習(モスキート)

追記:14日はモスキート発射の模擬演習であり、28日の実射演習の事前準備と見られ、21日の岸田首相ウクライナ訪問以前から発射が計画されていたことを裏付けている。

水路通報・航行警報ビジュアルページ - 海上保安庁・海洋情報部の公式サイトからキャプチャー
水路通報・航行警報ビジュアルページ - 海上保安庁・海洋情報部の公式サイトからキャプチャー

 今回のミサイル発射はウラジオストク沖100kmほどの海上で標的に当てていますので、外国漁船が来るような漁場ではありません。民間船はウラジオストクに出入港する船舶が該当海域を避けて通ることを注意するくらいです。

水路通報・航行警報ビジュアルページ - 海上保安庁 海洋情報部

 そして同時期に日本の自衛隊は若狭湾の北の広い範囲で射撃演習を指定しています。ミサイル発射が何でもかんでも政治的意図を持った牽制だというなら、日本の発射したミサイルもそうなるのでしょうか? それは違うのではないでしょうか。ミサイル演習は各国で日常茶飯事の様に行われていることなのです。

射撃訓練:若狭湾北方 - 海上保安庁(期間:令和5年3月1日から31日まで)

 一方で北朝鮮のミサイル発射が問題視されるのは、国連安保理の制裁で北朝鮮は名指しされて弾道ミサイルおよびその技術を用いたロケットの発射を禁止されているからです。これは核実験による核開発に絡んだ制裁です。問題視されて騒がれるには理由があります。

安保理決議に基づく対北朝鮮制裁|外務省

 しかし国連の制裁を受けていない他国には関係がありませんので、同じように騒ぐ必要はありません。勿論もしも事前の通知も無く他国の近海にミサイルを撃ち込んだり陸地の上空を通過させたら非難の対象になりますが(中国が台湾を威嚇するために行ったミサイル演習が該当)、そういった特別なケースでないかぎり自国の近海でミサイル演習を行うこと自体に問題は生じません。

中国弾道ミサイル発射について:防衛省(令和4年8月4日)

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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