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迫る年度末 コロナで広がる非正規「雇止め」 法規制のポイントと対処法を解説する

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 年度末が迫るなか、非正規労働者の間に雇止めへの不安が広がっている。

 毎年この時期には、私たちの労働相談窓口に雇止めに関する相談が多く寄せられるが、今年はそれに加えて特別な事情がある。言うまでもなく、新型コロナの感染拡大による経済的影響が広がるなかで、例年以上に多くの方が解雇や雇止めによって仕事を失うことが懸念されているのだ。

 経済への影響は業種を越えて広がっており、観光や交通のような直接的影響を受ける業種だけでなく、製造業や飲食業、サービス業など様々な業界に影響が出ている。契約社員、パート社員、派遣社員など、いわゆる非正規雇用の形態で働いている方のなかには、すでに雇止めを通告されたという方も多いのではないだろうか。

 約10年前のリーマン・ショックの時にも大規模な「派遣切り」が問題になったが、経済活動が停滞する時期に真っ先にクビを切られるのはいつも非正規雇用の人々だ。経営者からみれば、非正規労働者は「雇用の調整弁」であり、不況期には当たり前のように切り捨てられてしまう。

 しかし、労働者個人の視点に立って考えると、非正規雇用だからといって簡単にクビを切られてしまえば、収入源を失い、生活に行き詰まってしまう。

 そこで、雇止めには一定の法的な規制がかけられている。雇用期間が定められているからといって、どのような場合にも雇止めができるわけではないのだ。

 雇用者全体の約4割を非正規労働者が占める現状を踏まえれば、コロナショックに伴う雇止めの横行によって、全国に多くの失業者が生じてしまうことにもなりかねない。こうした事態を防ぎ、非正規労働者の生活を守るためには、雇止めをめぐる法的なルールに対する理解が広がる必要がある。

 この記事では、できるだけ簡潔に法規制のポイントを整理していきたい。その上で、非正規労働者が身を守るための対処法についても述べていきたい。

なぜ雇止めの規制が必要なのか

 雇止めとは、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の契約期間が終了するタイミングで、使用者が契約の更新を拒絶することをいう。

 あらかじめ契約期間を定めているのだから、その期間が経過すれば労働契約が終了するのは当然のことだ。契約を更新するか否かは当事者に委ねられる(契約自由の原則)。このため、合理的な理由が必要とされる「解雇」とは異なり、使用者が雇止め(更新拒絶)をするときに理由は必要とされない。

 だが、現実には、何度も契約更新を繰り返し、長期間同じ職場で働き続けている有期雇用労働者がたくさん存在する。何年も雇い続けていたにもかかわらず、不況になった途端、期間満了を理由に契約を打ち切るということが容認されてしまうと、世の中に不安定な雇用が広がってしまう。

 そこで、判例は、一定の条件を満たす雇止めには「解雇権濫用法理」を類推適用し、労働者を保護してきた。

 解雇権濫用法理とは、使用者の解雇権の行使は、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になるという考え方だ。

 何度も更新を繰り返しているなど、一定の場合には、雇止めにもこれと同じ考え方を適用し、「合理的な理由」がない場合には雇止めは無効となり、従前の労働契約が更新されると裁判所は判断してきた。このような判例上のルールを「雇止め法理」という。

雇止めに関する法規制

 この判例法理を明確化し、法律として定めたのが労働契約法19条だ。リーマン・ショック後の「派遣切り」の経験を踏まえ、2012年の法改正によって条文化されたものである。

 

 労契法19条は、次の2つのいずれかに該当する場合であって、使用者が雇止めをすることが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき」には、使用者は、従前の有期労働契約と同一の労働条件で、労働者による更新の申込みを承諾したものとみなす旨を規定している。

(1)有期労働契約が反復して更新されたことにより、期間の定めのない労働契約の解雇と社会通念上同視できると認められる場合

(2)労働者が契約の更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合

 少し分かりにくい規定だが、要するに、ある一定の条件を満たす場合には労契法19条が適用され、雇止めが無効となり、以前と同一の労働条件で有期労働契約が更新されるということだ。

 このようにして、法律は、いわゆる非正規雇用の労働者が「雇用の調整弁」として利用されることがないように規制をかけている。

 なお、この法律は、有期労働契約であれば、パート、アルバイト、契約社員、嘱託など職場での呼称にかかわらず対象となる。

雇止めに関する判断基準

 では、どのような場合に労契法19条が適用され、雇止めが無効になるのだろうか。

 (1)に該当するケースはあまり多くなく、問題になることが多いのは(2)に該当するか否かであるため、ここからは「(2)労働者が契約の更新を期待することについて合理的な理由があると認められる場合」に絞って説明する。

 労契法19条が適用されるための第一段階として、まず、労働者が更新を期待することについて合理的な理由が認められるかが問われる。この点について、過去の裁判例では、下の図に掲げられている判断要素を総合的に考慮して判断している。

〔出所〕厚生労働省リーフレット「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1209-1f.pdf
〔出所〕厚生労働省リーフレット「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1209-1f.pdf

 例えば、正社員と同じ仕事をしている場合や契約更新手続が形骸化している場合、上司から更新を期待させるような発言があった場合などは、更新を「期待」することに合理的な理由があると判断されやすいということだ。

 合理的期待が認められる場合には、解雇権濫用法理が類推適用され、基本的には解雇の場合と同様に雇止めの有効性が判断される。これが第二段階であり、雇止め自体に「合理的な理由」があるかが問われる。

 新型コロナの影響による経営状況の悪化を理由とする雇止めの場合、整理解雇の四要件に準じた基準によって「合理的な理由」の有無が判断されることになるだろう。つまり、雇用調整助成金を活用するなどして、雇止めを回避するための努力を十分に尽くしたと認められるような状況でなければ、雇止めが有効とは認められないものと考えられる。

 雇止めが無効だと判断されれば、雇用は継続し、雇止めによって働けなくなった期間がある場合には、使用者に対してその分の賃金の支払いを求めることができる。

 このように、雇止めが有効と認められるか否かには一律の基準があるわけではなく、個別具体的な事情ごとに判断されるため、その判別は容易ではない。それゆえ、雇止めの通告に納得できないときは、早めに労働組合や支援団体に相談し、専門家の助言を受けながら対処法を考えるべきだ(末尾も参照)。

労契法19条を活用する上での注意点

 雇止めに関する法規制のポイントは以上のとおりである。「雇止めされるかもしれない」という不安を抱えている方は、労契法19条を活用し、不当な雇止めから身を守るようにしてほしい。

 以下では、この法律を活用する際の注意すべき点について述べていきたい。具体的にどのような対応を取ればよいのかは個々の状況によって異なるため、この記事で基本的な知識を身につけた上で、労働相談を行っている機関や団体にアドバイスをもらうとよい。

1 必要な手続

 上の文章では説明を省いたが、労契法19条のルールが適用されるためには、労働者からの「更新の申込み」が必要だ。契約期間を満了した後でも、遅滞なく「締結の申込み」をすればよいことになっている。

 この「申込み」は、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が伝わるものでもかまわないと解されている。つまり、きちんとした書面の形で「申込み」を行なっていなくても、異議があることが伝わればよいということだ。例えば、「嫌だ」「困る」などというだけでも、「申込み」と認められる。

 ただ、紛争になった場合には、使用者が「申込みがなかった」と主張する可能性もあるため、できる限り書面で「申込み」の意思を明確にしておくとよいだろう。いずれにしても、雇止めの通告を受けたら、早期に意思表示を行うことが肝要だ。

2 契約締結時における更新の有無・基準の明示

 使用者は、有期契約労働者に対して、契約の締結時にその契約の更新の有無を明示しなければならない。また、更新がある場合には、更新する場合又はしない場合の「判断の基準」を書面の交付によって明示しなければならない。

 契約締結時に交付された労働条件通知書等に「自動的に更新する」と明示されている場合には、当然、契約更新への合理的期待があると認められる。「更新する場合があり得る」と記載されている場合には、明示された「判断の基準」に照らして本当に雇止めが必要なのか否かが問われる。

 

 雇止めを通告されたら、労働条件通知書の記載を確認しよう。

〔参考〕厚生労働省告示「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(2003年10月22日)

3 雇止めの予告

 有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続して雇用されている労働者について、契約を更新しない場合には、使用者は少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までにその予告をしなければならない。

 また、雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合、使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない。

 雇止めを予告されたら、使用者に証明書を請求し、雇止めの理由を明らかにするとともに、労働組合などに相談しよう。

〔参考〕厚生労働省告示「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(2003年10月22日)

4 不更新条項について

 

 使用者が「雇止め法理」の適用を免れるために、契約を更新する際、契約書に「不更新条項」を挿入することがある。例えば、契約書に「次回の更新は行わず、契約終了とする」などといった文言を追加してくるケースがよくみられる。

 そのような契約書を提示された労働者は、受け入れたくないと考えるのが通常だが、「拒否したら契約が更新されず、すぐに仕事を失ってしまうかもしれない」という意識が働き、不本意ながら合意してしまうことが多い。

 こうした実情を踏まえ、裁判所は、そのような合意が労働者の自由な意思に基づくものであるかを慎重に判断する傾向にある。それゆえ、不更新条項にサインしてしまっているとしても、その合意が必ずしも有効と認められるわけではなく、諦める必要はない。

5 中途解約との違い

 契約期間の終了を待たず、期間途中に「明日から来なくていい」と言われた場合はどうだろうか。ここまで取り上げてきた契約期間満了時の更新拒絶(雇止め)と契約期間中の解雇(中途解約)は全く異なる問題なので区別する必要がある。

 労契法17条1項は、「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない」と規定している。

 「やむを得ない事由」があると認められる場合は、解雇権濫用法理における「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められる場合よりも狭いと解される。もともと契約期間が決まっているわけだから、その途中で契約を解約せざるを得ない程の特段の事情がない限り解雇は認められないということだ。

 つまり、中途解約は、一般の解雇よりもさらに厳しく規制されている。

 「やむを得ない事由」が認めらない場合には解雇は無効となり、解雇によって働けなくなった期間がある場合には、使用者に対してその分の賃金の支払いを求めることができる。このような場合も、労働組合や支援団体に相談してほしい。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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