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日本体操協会は宮川選手の告発を受けてパワハラの調査をすべき

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(写真:築田純/アフロスポーツ)

 体操の宮川紗江選手への速見佑斗コーチの暴力的指導が問題となり、コーチが処分を受けました。

 協会の暴力行為は許さないという態度はいいことですが、その調査手法に疑問があるということを、前の記事で書きました。

 さらに、記事を上げたあとで、報道で、日本体操協会の記者会見を見たのですが、協会が宮川選手への聴き取りは必要がないとしていたのには、耳を疑いました。

 パワハラ調査の「いろは」の「い」だと思うのですが、それをしていないのは不思議でしかたありません。

宮川選手の告発について

 さて、前回の記事を書いたところ、宮川選手が協会幹部からされたパワハラについてはどうなんだ!?という声が多かったので、その点についても言及しておきましょう。

 宮川選手によれば、塚原千恵子女子強化本部長らからパワーハラスメントを受けていたといいます。

 内容は、「2020東京五輪特別強化選手」制度(2020制度)に名を連ねなかったところ、塚原千恵子氏から、宮川選手の自宅に電話があり、そこで「(2020制度に)申し込みをしないと協会として協力できなくなる。五輪にも出られなくなるわよ」という趣旨のことを言われたというものが1つ。

 さらに、その制度に名を連ねなかったことで、ナショナルトレーニングセンター(NTC)の使用も制限されたといいます。

 ほかにも、塚原氏らに関係が深い朝日生命への移籍を、関係者から勧められたこともあったといいます。

 ・体操女子・宮川、協会からパワハラ受けた 18歳「勇気」の主張

 結論から言います。

 もしこれが本当であれば、パワハラであることは揺るがしようがありません

当然、パワハラ

 2020制度に名を連ねるかどうかは選手の自主判断のはずですし、オリンピックに選ばれるかどうかは実力で決まることです。

 その自発的な決断を、本来、公正公平であるべきオリンピック出場の有無とからめて迫るのは、どう考えてもアウトです。

 さらに、日本体操協会は選手に対し平等に接するべきですので、2020制度に名を連ねなかったとしても、それを理由にことさらにNTCの使用制限などの不利益を課すことが正当化されることはないでしょう。

 また、移籍を勧めるのは自由でしょうが、それとオリンピックの出場やNTCの使用を絡めることは絶対に許されません。もし、移籍の勧めがそうした選手としての活動の不利益を絡めてなされたとしたら、やはりこれもハラスメントです。

 前の記事でパワハラの6類型に触れましたが、こうした宮川選手の告発内容は、「精神的な攻撃」「人間関係からの切り離し」「個の侵害」に該当します。

※厚生労働省はパワーハラスメントを6類型にまとめています。 

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

職場に置き換えてみる

 分かりやすいように職場での出来事にたとえてみましょう。

 ある企業で、任意参加でいいはずの研修があったところ、自分にはそれは不要だと思って参加しない社員がいたとします。

 その社員に、上司から「参加しなさい。参加しないと今度の成績評価ではひどいことになるよ。」と告げられたらどうでしょうか。

 それは、すでに「任意参加」ではなくなっていますね。

 これに対して、社員が、「いや、任意参加なのですから、私は参加しません」ときっぱり断ったところ、翌日から、会社で社内食堂が利用できなくなっていた・・・ということがあれば、ひどいハラスメントですね。

速やかに調査した方がいい

 さて、この宮川選手の告発に対し、協会関係者は、宮川選手からの正式な申し入れがあれば調査するという姿勢のようです。

 それはそれで間違った姿勢ではないのですが、速見コーチの暴力行為については被害者の宮川選手の告発があったわけでもなく調査を開始していることからすると、なんとなく不均衡な印象を持ちます。

 協会としては、宮川選手の記者会見で語られた内容は重大なパワハラを含む内容なのですから、この告発を踏まえて、速やかに調査を開始すべきだろうと思います。

 この際、暴力行為も圧力行為も一掃してしまえばいかがでしょうか?

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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