日本と世界のトップGTが競演!「鈴鹿10時間耐久」で誰も見たことがないドラマが起こりそうな理由。
8月24日(金)〜26日(日)の日程で鈴鹿サーキットが新たに開催する耐久レース『鈴鹿10時間耐久レース』(通称:SUZUKA 10H)。5月23日、24日に開催された公開合同テストに国内GTチームが参加したことで、少しずつレースの雰囲気が見えてきた。とはいえ、海外チームが参加していない以上、具体的にレース内容を予測できる者は誰一人居ない。今回はテストに参加したチームへの取材を元に、今後起こりうるドラマを探っていきたい。
国内4輪では久々の国際イベント
昨年まで「SUPER GT」のレースとして開催していた真夏の耐久レース「鈴鹿1000kmレース」に代わり、鈴鹿サーキットが新たにスタートさせる『SUZUKA 10H』。安定して3万人以上の観客動員が見込めることから、サーキット側にとってはドル箱イベントである「SUPER GT」での開催に幕を下ろしてまで、鈴鹿は独自イベントにトライする。
『SUZUKA 10H』のキーワードとなるテーマは「世界との競演」だ。日本では「F1日本グランプリ」「WEC(世界耐久選手権)」など世界選手権レースが毎年開催されているものの、国内レーシングチームと海外の強豪チームが同じ舞台で戦う国際マッチ的なレースに関しては久しく開催されていない。近年、国内では「SUPER GT」のレベルアップが顕著で、元F1ワールドチャンピオンのジェンソン・バトンをはじめとするトップドライバーの参戦もあり、日本のGTレースは今や全盛期を迎えつつあるが、その中心はあくまで日本である。
レベルアップした国内レーシングチームやドライバーが世界のスタンダードでどれだけ通用するのか。これは多くのファンが興味を抱いていたテーマでもある。そんな中、今は国際的なスタンダードとして「FIA GT3」という共通規定のマシンがあり、ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)、スパフランコルシャン24時間(ベルギー)、バサースト12時間(オーストラリア)、ドバイ24時間(アラブ首長国連邦)など「FIA GT3」規定のスポーツカーが参戦可能な国際耐久レースはコンテンツとしても、興行としても盛り上がりを見せている。そのスタンダードの中に日本も加わって行こうということだ。
また、鈴鹿サーキットは過去に数多くのレースで海外の競合チームを招聘し、日本のチームと海外のトップランカーを競演させてきた歴史がある。1960年代黎明期の「日本グランプリ」、1970年代、80年代の「全日本F2」、そして1990年代にはル・マン24時間レースのトップチームを招聘して開催した「鈴鹿1000km」が国際マッチの役割を担っていた。
今回の『SUZUKA 10H』はバサースト12時間(オーストラリア)、スパフランコルシャン24時間(ベルギー)、カリフォルニア8時間(アメリカ)と転戦する国際シリーズ「インターコンチネンタルGTチャレンジ」の1戦として開催され、アウディ、ベントレー、メルセデス、ポルシェのトップチームが参戦する。国際スタンダードのレギュレーション下で日本のチームと海外の強豪が鈴鹿で戦うのは「FIA GT選手権」規定で開催された1998年の鈴鹿1000km以来、実に20年ぶりのことだ。
国内チームは地の利を活かせるか?
海外のトップチームを迎え撃つ国内勢としては「SUPER GT(GT300)」「スーパー耐久(ST-X)」「ブランパンGTアジア」にFIA GT3のスポーツカーで参戦するチームが数多くエントリー。先日の公開テストにはSUPER GT(GT300)のマシンを中心に11台が参加したが、実はレース本番の8月までテスト走行する機会は今回の2日間だけ。レギュラー参戦するレース日程との兼ね合いで、指定タイヤの「ピレリ」を装着して走行するチャンスはなく、今回不参加の国内勢はぶっつけ本番のレースとなる可能性もある。
ただ、コース貸切の占有走行を行うことや、一般走行枠のスポーツ走行時間にマシンを走らせることは可能。不参加だったホンダのトップチーム「HONDA Team MOTUL」(ホンダNSX GT3=ドライバー未定)など国内勢の動向が気になる。
指定の「ピレリ」タイヤは「スーパー耐久(ST-X)」で使用するハードコンパウンドのタイヤと同じであるため、「スーパー耐久(ST-X)」に参戦するチームはレギュラー参戦を通じてデータを収集できる(鈴鹿大会はすでに終了)。さらに6月30日(土)、7月1日(日)に鈴鹿で開催される「ブランパンGTアジア」でも同じタイヤを使用するため、こういったシリーズに参戦するチームはタイヤに対するデータを持った状態で本番に挑めるだろう。
しかしながら、鈴鹿の「ブランパンGTアジア」は「SUPER GT」第4戦がタイ(ブリーラム)と日程がバッティングしており、SUPER GTドライバーたちはこのレースに参戦できない。国内レーシングチームやドライバーは鈴鹿を知っている分だけの地の利はあるが、事前テストのチャンスは意外に少ない状態なので、厳しい戦いも予想される。
国内勢、それぞれの手応えと悩み
ピレリタイヤでの走行チャンスが少ないのも悩ましいが、参加したチームは2日間のテストを通じて、手応えと悩ましい課題をそれぞれ感じたようだ。
「SUPER GT(GT300)」のチームにはレギュラー参戦するシリーズのマシンを使うチームもあれば、『SUZUKA 10H』用にもう一台のFIA GT3マシンを用意するチームもある。これはシリーズ外となる10時間レースのマイレッジを考えてのこと。シーズン中の車体交換はシリーズ戦においてはグリッド降格などのペナルティに繋がるため、車体を「SUPER GT」と「SUZUKA 10H」で分けてきた。
「#00 GOOD SMILE RACING & Team UKYO」(谷口信輝、片岡龍也、小林可夢偉=メルセデスAMG GT3)は今季のGT300には新車を投入。「SUZUKA 10H」には昨年のGT300チャンピオンカーで挑む。テストではピンク色が印象的な特別仕様の「初音ミク」があしらわれたマシンが走行。トップから約0.1秒差の2番手タイムをマークし、まずは順調な滑り出しを見せた。
総合タイム4番手の「#10 GAINER」(平中克幸、星野一樹、安田裕信=ニッサンGT-R・ニスモGT3)は今季から2台ともニッサンGT-R(2018年仕様)で「SUPER GT(GT300)」に参戦しているが、『SUZUKA 10H』ではGT300とは別の新車を使う。当初は昨年までの2015-17モデルを使うという噂があったが、福田洋介代表は「鈴鹿のコース特性的には先代モデルの方が結果は望めると思う。でも、この先を考えて18年モデルで戦います」とのこと。今季、新投入された18年モデルのGT-Rはエンジンの仕様を変更し、搭載位置をよりコアに近づけて低重心下と重量配分の最適化を図っている。これは激化する「FIA GT3」開発競争に対応したものだが、まだデータが少ない上にハードコンパウンドのピレリタイヤとの合わせこみに苦労している様子が伺えた。「このパッケージでテストする機会はもうありません。レースウィークにぶっつけ本番です。でも、SUPER GTも毎回そんなスケジュールなのでGTの連中は慣れていると思いますよ」と福田代表はレースで底力を見せる決意を語った。
また、「SUPER GT(GT300)」のマシンをそのまま「SUZUKA 10H」でも使用するランボルギーニの「#87 JLOC」(佐藤公哉、元嶋佑弥、飯田太陽=ランボルギーニ・ウラカンGT3)。ドライバーの佐藤公哉は「僕はスーパー耐久で別のGT3マシンに乗っていますが、ピレリタイヤのランボルギーニへの合わせこみはまだ課題があります。特に一発の速さ。ロングランやウェット路面の速さはあると思う」と語る。同じFIA GT3マシンと言えども、タイヤ競争の激しい「SUPER GT(GT300)」と今回のワンメイクタイヤではラップタイムでも大きなギャップがある。ランボルギーニで言えば4秒ほど違い、セッティングの方向性を決めるのはGT300チームにとっては難しそうだ。「ピレリとGT3のデータを持つヨーロッパのメンバーが絡んでいるチームのマシンはコース上でも速かったですし、そこに対して僕らがどう縮めていくかですね。レース本番は大好きなヱヴァンゲリヲンのカラーリングで走れるので楽しみです」と佐藤。JLOCは2台のウラカンに人気アニメの「ヱヴァンゲリヲン」とのコラボレーションカラーで走ることになっている。
仕様の違うタイヤにマザーシャシーは苦戦?
『SUZUKA 10H』には国際規格のFIA GT3マシンの他に、「SUPER GT(GT300)」独自規定のマザーシャシーを使ったマシンも参戦する。FIA GT3が中心のレースに国内独自規定のマシンが参加ということで、今後BOP(性能調整)がどこのようになされるかという点も気になるところだ。
「#2 CarsTokaiDream28」(高橋一穂、加藤寛規、濱口弘=ロータス・エヴォーラ)の加藤寛規は「苦戦していますね」と苦笑い。その理由については「GT3用のワンメイクタイヤですからね。スーパー耐久のTCRクラスでピレリには乗っているのでフィーリング的にはこんなものかなというのは掴んでいますが、ハイスピードで曲がる高荷重な部分でマザーシャシーの良さが出せないので辛いですね」と状況を説明する。GTカーの姿をしながら構造が純正のレーシングカーであるマザーシャシーにとって、速さの源はタイヤも含めたトータルパッケージであるだけに、立ち上がり重視のパワー勝負となるハードコンパウンドのワンメイクタイヤに合わせこむ厳しさが見えてきた。
なお、マザーシャシーではGT300の開幕戦で優勝した「TEAM UPGRAGE」(中山友貴、小林崇志、井口卓人=86MC)はドライ路面になった2日目の開始早々にクラッシュを喫してテストを終了。ドライでの速さは未知数だが、ウェット路面でもFIA GT3マシンに対して4秒ほど遅れを取っている現状を考えると、マザーシャシーの戦況は簡単ではなさそうだ。
テストを通じて見えてきた国際スタンダード「FIA GT3」と日本独自のレーシングカー「マザーシャシー」との違い。今後、これをオーガナイザーがどうマッチさせて行くのかも注目だ。
世界の強豪が鈴鹿に集結する!
参加した国内チームが有益なデータを取得することになった2日間のテストが終了し、いよいよ8月の本番を待つのみという『SUZUKA 10H』だが、ぶっつけ本番となる海外チームがどこまでの速さを見せてくるのかが気になる。初開催だけに、レースウィークでは未知なるサプライズが待っているかもしれないところが今年の『SUZUKA 10H』の最大の魅力である。
かつて「鈴鹿1000km」は1995年、96年に「BPR GTシリーズ」として、97年、98年は「FIA GT選手権」として開催されたが、スポット参戦した地元日本のチームは4年ともに海外勢の後塵を拝することになった。その時代に比べれば日本のレーシングチームの実力は格段に上がっていると考えられ、「FIA GT3」という共通規定に対する知見もある中ではあるが、海外勢を甘く見てはいけないかもしれない。
テストでトップタイムを記録した「#7 D’station Racing」(藤井誠暢=ポルシェ911 GT3R)は日本のプライベートチームながらポルシェワークスドライバーの参戦を示唆しているし、今後順次発表されて行くアウディ、メルセデス、ベントレーのトップチームを含めてどんなメンバーが鈴鹿にやってくるのか興味深い。
「FIA GT3」マシンのレースでは、顧客に自動車メーカーがレース仕様のコンプリートカーを販売する「カスタマーレーシングサービス」の概念が基本になっているが、そこにはカスタマーに対する販売競争という状況が生まれおり、年々GT3マシンの性能はアップデートされている。その分、車両価格もうなぎ登りという状態になっており、ワークス級の体制となっているチームも多い。「インターコンチネンタルGTシリーズ」というシリーズ戦の1戦である以上、同じマシンを使おうとも海外勢が国内のスポット参戦チームに負けるわけにはいかないのだ。
公道パレードで始まる真夏の祭典
現時点(2018年5月25日)でエントリーしているのは国内外の31台。まだエントリーは増加する可能性もあり、戦況はレースウィークになってみないと分からない未知の領域となる。真夏の10時間耐久レース、夜間走行でゴールを迎えるという特別なシチュエーションでいったいどんなドラマが待っているのだろうか。
『SUZUKA 10H』に出場するマシンは8月23日(木)の午前中に鈴鹿サーキットから鈴鹿市内のイオンモール鈴鹿まで警察車両の先導で公道をパレードし、一部のマシンは「鈴鹿モータースポーツフェスティバル」と題した鈴鹿市主催のイベントで公開車検、プレゼンテーションに参加する。その日の午後には鈴鹿サーキットで任意の練習走行が開始され、8月26日(日)午前10時に決勝レースがスタートする。チェッカー予定時刻は午後8時。