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北朝鮮で初となるサッカー1部リーグの通年開催! 日本人が知らないその中身とは!?

金明昱スポーツライター
昨年12月の東アジアE-1選手権で最下位ながらも足跡を残した北朝鮮代表(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮国内チームにクラブライセンス

 約1カ月前、あるニュースに少し驚かされた。

「朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)でサッカー1部リーグが開幕」

 朝鮮中央通信が短く報じていたが、同リーグは12月2日から初の通年リーグとして始まり、来年の10月27日まで開かれ、アジアサッカー連盟(AFC)のクラブライセンスを取得した13チームが参加して行われる。

 ホーム・アンド・アウェー方式で毎週土、日曜日に試合が開催される。さらに上位2チームには翌年のAFCカップの出場権が与えられるという。

 これまで北朝鮮サッカー事情を取材してきたが、これはかなり大きな一歩で、北朝鮮が本腰を入れて改革を推し進めようとしているのがうかがえる。

 北朝鮮サッカーと言えば、去年の12月に日本で開催された東アジアE-1選手権が記憶に新しい。

 男子の北朝鮮代表は参加4カ国中、最下位だったが、25年ぶりの外国人指揮官となった元ノルウェー代表のヨルン・アンデルセン監督の指揮の下、W杯出場国の日本、韓国を相手に敗れながらも善戦したことが話題となった。

 一方、女子北朝鮮代表は同大会で、賞金こそ手に入らなかったが、圧倒的な強さで、中国、韓国、日本に3連勝して優勝した。

参考:サッカー北朝鮮代表が獲得した賞金がミサイル開発に使われる可能性は!?~田嶋幸三会長の賞金未払い発言~

参考:なでしこジャパンに完勝したサッカー女子北朝鮮代表が強いワケとは!?~平壌現地取材で見えたもの~

 情報量が圧倒的に少ない北朝鮮だからこそ、表舞台でのプレーは新鮮に映ったに違いないが、元々サッカーに関しては国民の関心は高く、近年はサッカー界の改革が進んでいる。

 中でも25年ぶりに外国人監督を迎え入れたのは大きな変革の一つだ。(※初の外国人監督はハンガリー出身でブンデスリーガで活躍したパル・チェルナイ氏で、バイエルン・ミュンヘンを2度優勝に導いた)

 また、2013年5月に開校した平壌国際サッカー学校(アカデミー)から、世界に通用する選手の育成も成果となって表れてきている。

 イタリア・ペルージャのISMアカデミーでトレーニングを積んだFWハン・グァンソンやチェ・ソンヒョク(ともにペルージャ所属)など、海外進出を実現させている選手が年々増えている。

 去年の11月に平壌で同アカデミーを取材したとき、チャン・スンドク校長が「欧州へとステップアップする若手は着実に育っています」と語っており、現地の北朝鮮サッカー関係者によれば「セルビアリーグでのプレーが決まった選手がいる」という話もあるほどだ。

セリエBのペルージャでプレーするFWハン・グァンソン。現在7ゴールを記録中(写真:ロイター/アフロ)
セリエBのペルージャでプレーするFWハン・グァンソン。現在7ゴールを記録中(写真:ロイター/アフロ)

女子北朝鮮代表にも外国人監督

 それだけではない。昨年10月のAFCU-19女子選手権で、北朝鮮代表は日本代表に決勝戦で0-1で敗れたが、上位3チームに与えられるU-20女子W杯フランス2018の出場権を獲得。

 この時の北朝鮮代表監督がドイツ人のトーマス・ゲルストナー氏であることは、あまり知られていない。

 ゲルストナー氏は北朝鮮女子代表の初の外国人監督で、彼は現役時代、主にブンデスリーガ2部でプレーし、引退後はドイツ2部のアルメニア・ビーレフェルトなどで監督を務めた。

 今年、フランスで開催されるU-20W杯でゲルストナー監督は「16年大会に続き、U-20W杯の2連覇が目標」と話しており、今後の代表チームの成長が気になるところでもある。

 こうした代表チーム強化や選手の育成は計画的に進んでいるのだが、解決すべき大きな課題があった。それは国内リーグの整備だ。

 世界のサッカーシーンを見渡したとき、国内リーグの強化が代表チームの強さに大きく影響するのは言うまでもない。東アジアでは韓国、日本、中国が代表的な例だろう。

 

 韓国は1983年にKリーグをスタートさせた歴史があり、日本も93年のJリーグ開幕がその後のサッカー界を大きく発展させた。中国のスーパーリーグも近年、大物選手が次々と移籍するなどして急成長を遂げている。

 取り残されてきた感が否めないのが北朝鮮だった。W杯出場は1966年イングランド大会(ベスト8)と2010年南アフリカ大会の2回。2014年と2018年のW杯アジア予選では最終予選に進めず、現在は2022年カタールW杯が大きな目標となっている。

 世界のサッカーは進歩を遂げる一方で、北朝鮮サッカー界は少しずつ前に進んではいるものの、後れを取っていたのは事実。そのために必要不可欠なのが、国内リーグの刷新というわけだ。

北朝鮮代表のヨルン・アンデルセン監督(筆者撮影)
北朝鮮代表のヨルン・アンデルセン監督(筆者撮影)

 昨年11月、タイでヨルン・アンデルセン監督に「北朝鮮サッカーが発展するために必要なものはなんなのか」と聞いたとき、こう話していた。

参考:日本初独占インタビュー!北朝鮮代表監督のヨルン・アンデルセンが語った平壌での指導と生活

「長所や短所を一言で表現するのはとても難しい。これから海外のクラブで活躍できる選手はいるというのは確かだということ。もう一つ、欲を言えば、選手たちに必要なのは経験です。国内だけでなく、もっと海外で親善試合などの国際試合をたくさんこなして、強化を図っていくことが求められています。近々、各国で行われているような“体系的”な国内リーグ戦がスタートする予定です。これが形になれば、北朝鮮のサッカーはどんどん強化される」

リーグ1部から5部まである

 これまでも北朝鮮では「最上級蹴球連盟戦」と呼ばれる国内リーグが行われてきたが、アンデルセン監督が言うように年間を通して行われる環境は整っていなかった。

 2009年に現地取材したときに聞いた話ではあるが、リーグ戦以外の主な大会として、2月の『白頭山(ペクトゥサン)賞』、4月の『万景台(マンスデ)賞』、6月~7月に『普天堡(ポチョンボ)たいまつ賞』、9~10月に『朝鮮選手権大会』、5年に1回開催される『人民体育大会』があった。

 毎年、基本的にはこうした流れで試合が行われていた。3月から11月にかけてが、クラブチームのリーグ戦やトーナメントのカップ戦が行われる時期と認識していいだろう。

 北朝鮮には国内リーグは1~5部まであるという。2部以下には各道のチームや大学、企業所のクラブがあり、すべて合わせると130ほどのチームが存在する。

 1部は軍傘下の「4・25体育団」のほか、エリート養成所のような総合スポーツクラブの「平壌市体育団」、鉄道省所属の「機関車」、人民保安部所属の「鴨緑江(アムロックカン)」、省庁クラブ所属の「軽工業省体育団」が有名だが、ほかにも「鯉明水(リミョンス)」、「小白水(ソベクス)」、「メボン」などの体育団が国内メジャークラブと位置付けられている。

 ちなみに「4・25」のチームの異名は『赤い稲妻』。1974年3月10日に東京・国立競技場で日本代表と対戦し、4-0で圧勝したこともあった。

 先月のE-1選手権に出場した北朝鮮代表選手のほとんどが、前述した国内のメジャークラブでプレーしているが、彼らの実力の底上げには、年間を通したリーグを運営していく必要があったのだ。

将来はACL出場もあり得る!?

 そして、2017年12月からようやく北朝鮮でも毎週土、日にリーグ戦が行われ、クラブライセンスを取得したチームがAFCカップの出場権を得られるようになった。将来的にはアジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場への道にも進もうとしている。

 朝鮮サッカー協会の副書記長で在日本朝鮮人蹴球協会の李康弘理事長からこんな話を聞いていた。

「選手は国内だけのチーム同士が戦うので、それだと入れ替わりがほとんどなく、刺激も少ないでしょう。ヨーロッパは隣の国のリーグに行き来しながら、刺激のし合いをしています。しかし、アジアはまだそこまでのレベルにはいっていないと思います。特に朝鮮は国内リーグを前期と後期に分けるなどの対策が必要だと、協会でも話をしていました。夏は暑く、冬はかなり寒いのでピッチが完全に凍ってしまいます。そうなると試合ができるのは春と秋しかありません。それで朝鮮では3月から11月の間にいろんな大会を行いながら、年間を通してリーグ戦を行う方法を試行錯誤してきたのですが、ようやく形になりました。強化策はこれからも継続していきます」

北朝鮮代表の在日Jリーガー、李栄直。J2讃岐から今季は東京ヴェルディへ(写真:ロイター/アフロ)
北朝鮮代表の在日Jリーガー、李栄直。J2讃岐から今季は東京ヴェルディへ(写真:ロイター/アフロ)

 E-1選手権で北朝鮮代表としてプレーした在日コリアンJリーガーの李栄直(リ・ヨンジ、東京ヴェルディ)は「朝鮮の選手たちの中には欧州でプレーする選手もいますし、欧州サッカーに詳しく目は肥えています。Jリーグのレベルや年俸などついて色々と聞いてきます。海外のリーグに興味があるわけです。サッカー選手として純粋に海外に出てプレーしたいという意欲はありますよ」と話す。

 選手の意欲は十分。あとは環境さえ整えば、国内のサッカーの質は自然と向上する。

 社会主義国の北朝鮮で、サッカー選手個人が報酬を得ることはない。その代わり、国家から報酬や物質的援助が期待でき、地位も向上する。

 かの国でスポーツだけに専念できる環境が整えられる選手のことを“ステート・アマ”と表現するが、これから実質“プロ化”に向けた施策と強化はどのような方向に進んでいくのかは興味が尽きない。

 数年後にはもしかしたら、北朝鮮のクラブチームもACLに出場しているかもしれない――。そう想像すれば、東アジアのサッカーはさらにおもしろさを増すに違いない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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