親子関係と叱り方:しつけと虐待の間で悩む人のために:北海道不明男児保護報道から
男児行方不明と無事発見のニュースによって、日本中でしつけ論争が繰り広げられています。なかなか言うことを聞かない子どもたちに、親はどうすれば良いのでしょうか。
■行方不明男児無事保護から考えるべきこと
行方不明だった男の子が無事保護されました。置き去りにされた場所から、直線で6キロも離れた自衛隊演習場の建物の中にいました。親が乗った車が走り去ったのとは逆の、山に向かう林道を進んだようです。
今この子どもと家族に必要なことは、保護と支援だと思います。その一方で、これだけの大捜索と大報道が行われた出来事から、私たちは学ばなければいけないとも思います。日本中で、子どものしつけが話題になっています。
個人を責めてもあまり意味はありませんが、迷っている親、苦しんでいる子どものために、しつけと叱り方について、考えたいと思います。
■今回のケース
子どもは、人や車に向かって石を投げていたと言います。どれほどの距離で、どれほどの大きさの石なのか、詳細は分かりません。ただ、前にも同様のことがあったといいます。親は、何とか叱りつけ、こんなことを二度としないように、しつけようとしました。
親は、子どもだけを車から降ろし、置いていこうとします。子どもは、泣きながら追いかけてきて、車に乗せてもらいます。車中で、何かの会話がなされたのでしょう。子どもは再び、車から降ろされます。これが二度繰り返されたとする一部報道もあります。
最終的に、親が乗った車は子どもを残し、走り去ります。その5分後、車は戻ってきますが、子どもは見当たりません。家族で30分探しましたが見つからず、警察に連絡をし、今回の六日間にわたる大捜索が始まりました。
■置き去りは虐待かしつけか
今回のことは、父親も深く反省しているように、「行き過ぎ」でしょう。では、「虐待」でしょうか。
虐待には、殴る蹴るの身体的虐待、性的虐待、育児放棄のネグレクト、必要なお金をあげないなどの経済的虐待、そして心理的虐待があります。子どもを5分間一人で置き去りにするのは、可能性があるとすれば、心理的虐待でしょう。
6/4の別のニュースで、「金沢でも小2男児、置き去り=心理的虐待疑い児相に通告」とありました。このケースでは、日常的な問題行動もあったようです。
一方、北海道の件では、日頃の仲の良い様子が報道され、北海道警察は当初虐待とは見ていないと報道されていました。
しかし、6/5夕方のニュースで、道警函館中央署は5日、心理的虐待の疑いがあるとして、3日に北海道函館児童相談所(函館市)へ書面で通告したことを明らかにした(大和君置き去りで児相へ通告 心理的虐待の疑いで道警:朝日新聞デジタル 6月5日)。
心理的虐待は、微妙なところがあり、私たちは詳細を知ることができないのですが、それぞれの警察は日常的な子どもへの態度や、置き去りの結果の重大性など総合的に判断しているのでしょう。
昔は体罰が普通だったのだから今も良いかといえば、それは違います。法律が変わっただけではなく、社会全体が変わり、価値観が変わったからです。
しつけのあり方も、虐待の範囲も、時代と文化によって変わってきます。
子どものしつけ方法としての「置き去り」は昔からよくあるから今でも良いとは言えないでしょうが、同時にまた、おもちゃ売り場の前で駄々をこねる子どもを置いて親が先に行くケースまで、単純に虐待とは考えないでしょう。
ただし、泣きながら親を追いかける子どもの心に、親は決して子どもを捨てない確信があって初めて成立する叱り方、しつけ方法だとは思います。
■今、反省している親、臆病になっている親
叱りすぎている親はいます。子育ては、思い通りにはいきません。イライラし、ストレスがたまり、つい叱りすぎてしまうことはあります。このような親が、きちんと反省することは良いことです。
一方、今回の報道によって、叱ることに臆病になっている親もいます。どちらの親も、しつけ方、叱り方に迷っている親です。
実は、反省している親は、多くの場合大丈夫なのです。虐待する親たちは、「親が子どもを殴って何が悪い」などと思うからです。反省ができる親は、行き過ぎを防ぐことができるようです。
ただし、反省を超えて後悔し、臆病になっては困ります。子育てに自信をなくすと、ほめることも叱ることも上手くいかなくなります。さらに後悔して自分を責めてしまうと、笑顔と気力を失い、緊張の糸が切れたように虐待の危険性が高まってしまいます。
叱ることは大切です。ただしイライラして叱りつけないことや、親の権威を示さなければなど思いつめて叱らないことが必要です。
■叱りすぎるとどうなるか
叱りすぎるとは、長く、多く、強く叱りすぎることです。そうすると、子どもが萎縮するかもしれません。かえって反発するかもしれません。叱り方が下手で、子どもが思ったようにならないと、さらにイライラしておかしな叱り方をしてしまうこともあります。
叱ることは必要です。ただし、心理学的には「罰は何をしてはいけないかは教えても何をすれば良いかは教えない」と言われています(「叱りすぎない親になる方法」:Yahoo!ニュース個人有料:碓井真史)。
叱ることだけで、子どもを良い方向に導くことはできません。
■叱りすぎのワナ:よく効く薬は副作用も強い
恐ろしい怒鳴り声、体罰、「ママは出て行きます」、そして置き去りにする。それぞれの親子によって違いますが、この叱り方をすれば子どもが言うことを聞くという、よく効く便利な叱り方があるものです。
しかし、よく効く薬は副作用も強いことに注意しましょう。
その時は、子どもが従ったとしても、親子関係が悪くなることがあります。子どもに不安を与えたり、子どもの自主性を奪ってしまうこともあります。
薬も、その時々に良い薬を選ばなくてはならないように、叱り方も、その時々の子どもにあった叱り方を選ばなくてはなりません。
■なぜ叱りすぎるのか
一つは、親が感情的に興奮しすぎてしまうからです。
お片づけをしない子どもを叱ります。子どもは渋々お片づけを始めます。ところが、親の興奮がおさまりません。お片づけしている子どもの背中に向かって、さらに叱り続けてしまいます。これでは、子どもにお片づけの習慣は身につきません。
感情的になることが悪いわけではありません。叱る時に、感情のほとばしりが必要なことはあります。ただ、感情で理性がなくなっては、もちろん困ります。
親は子どもを愛するがあまり、焦り、完璧を求めてしまうことも叱りすぎる原因となります。
子どもは少しづつ出来るようになります。だから、一歩進んだことを認めてあげることが効果的です。しかし、しばしば親は一歩しか進んでいないと感じて罰を与えてしまいます。
これでは、子どものやる気はますます下がります。すると親はさらにイライラし、また叱りつけることになります。
■イライラしない、怒鳴らないしつけ、叱り方
イライラして怒鳴り散らすのは、感情のほとばしりがある叱り方ではありません。イライラして怒鳴るようなことをしても、しばしば逆効果です。
子育てが上手くいかない→イライラする→怒鳴る→ますます上手くいかない→さらにイラつく→虐待(あるいは行き過ぎたしつけ)。この悪循環を断ち切りましょう。
「ちゃんとしなさい」などあいまいな言葉は使わず、「片付けてね」「時間がないから急ごう」と具体的に話すこと。良いことはほめ、悪いことをしたら「しまった」と思うような体験をさせて気づかせること、などがポイントです。
<「怒鳴らない子育て」の心理学:両親がイライラしない効果的な叱り方>
■叱っても直らない時
今回の親も、子どもが石を投げることを叱っていました。叱っても直らないので、さらに強い叱り方をしようとしました。それは、親の愛の表れです。しかし、失敗をしてしまいました。
何度か叱っても直らないことはあります。一生懸命な親は、今日ここで直さなければならないと思うと叱りすぎます。今日は今日の分だけ叱りましょう。
お片づけなど日常的なことではなく、とても悪いことなのに何回か叱っても直らないことがあります。
そんな時は、叱り方をエスカレートさせるのではなく、叱る以外の方法を考えてみましょう。北風と太陽です。別の方法もあるはずです。説教や叱責ではなく、相手の気持ちを理解しようとするカウンセリング的なアプローチが効果的なこともあるかもしれません。何か大人がまだ気づいていない問題が潜んでいるのかもしれません。
叱りすぎは、逆効果です。子どもが簡単に良くならないとしても、単純に自分のせいだと自分を責めてはいけません。
子どもは必ず良くなっていくと信じて、あの手この手を考えて、一歩ずつ進めていきましょう。