北朝鮮のICBM開発による日本への影響
米独立記念日である7月4日、ついに北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射に成功した。
今回の「火星14」の推定射程距離は6700キロであり、アラスカ(最大でハワイ)までしか届かない。
それでも、米国本土の一部が攻撃可能になった意味は大きい。
日米同盟の弱まり
日本への攻撃という点では、ノドン(1300キロ)やムスダン(3500キロ)などの短・中距離弾道ミサイルで既に攻撃可能であり、今にはじまったことではない。
しかし、今までは、北朝鮮が日本(や韓国)を攻撃すれば米国が報復するぞ、という拡大抑止が機能し、日本は米国に守られていた。
米国が対日防衛義務を担っているのは日米安保条約が記す通りである。
だが、米国本土も攻撃可能となれば、事情が異なる。
北朝鮮が米国の報復に対し米国本土を反撃することを恐れて、日本を「犠牲」にするという選択肢を取る可能性が高まるわけである。
7月6日に防衛省の記者会見で、河野統合幕僚長は、「北朝鮮の今回の火星14がICBMだとすると、アメリカの日本に対する拡大抑止はどうなるのでしょうか?」という質問に対し、「いわゆるデカップリング(切り離し)だと思うが、積み上げてきた日米の信頼関係があるので、心配ないと考えている。」と答えたが、希望的観測の範囲としか言えない。
実際、朝日新聞がWall Street Journalのジェラルド・ベーカー編集長にインタビューしたところ、「北朝鮮が(ICBMを)保有した場合は日米同盟の力が弱まる」との認識を示している。
また、米国のトランプ大統領は、パリ協定の離脱表明に代表されるように、自国の(経済的)利益を最優先事項としており、当然日米同盟が基本にはなるものの、日米同盟に絶対的信頼を置くことも難しいだろう。
一方、4月6、7日に行われた米中首脳会談でトランプ大統領は中国に対し、北朝鮮への経済制裁を強化することを要請したが、中国は逆に北朝鮮への輸出を増やしており、米国が取れる手段は多くない。
最後の砦が米国ではなく中国になってしまえば、米国の東アジアへの介入を弱めることを中国は求めるだろうし、現状の関係性を維持するためには日米韓が連携を強化し、北朝鮮問題を主導していくべきである。
さらに、ロシアが5月にロシア極東ウラジオストクに北朝鮮の貨物船・万景峰号の定期便を就航させており、制裁強化にも反対するなど影響力を高めてきている。
危機感の欠ける国会と世論
こうした状況下で、日本としても独自の防衛力を強める必要性が高まっているが、日本国内に危機感はあまりないように思える。
北朝鮮がICBMを発射した7月4日は都議選で自民党が惨敗した直後ということもあり、加計学園や安倍首相・稲田防衛大臣の「失言」が話題の中心となっていたが、2015年に安保法案に反対していた市民を中心に、今こそ戦争を避けるために日本はどうすべきか議論すべき時ではないだろうか。
日本の安全、防衛は最も重要な政治の役割であり、野党やマスメディアもスキャンダルばかりを取り上げ「劇場型政治」に与するのではなく、日本の防衛戦略について建設的な国会議論、報道を心がけるべきであろう。
また、都議選での自民党惨敗を受けて、7月14日にワシントンで開催され、日米両国の外務、防衛担当閣僚が出席し、北朝鮮の脅威に対する防衛政策について協議する予定だった日米安全保障協議委員会(2プラス2)は急遽中止が決まり、後任の新防衛大臣が決まるまで開催の目処は立っていない。
米ジョンズ・ホプキンス大学のシンクタンクは、北朝鮮のICBMが2年以内に米西海岸まで到達する可能性があるとの分析を発表したが、実戦配備が完了するまでそう長く時間は残っていない。
日本の防衛戦略を考える際には、最新の迎撃システムである「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の導入や「敵基地攻撃能力」の保有など防衛機能の強化に加え、核シェアリングの是非など非核三原則に関わる領域にまで議論が及ぶと思うが、2015年の安保法案時のようなイデオロギー的議論ではなく、費用面や効果面、今後の政治情勢を踏まえて冷静な議論を期待したい。