自主性ない部下には、コーチングやティーチングよりも「プッシング」
何度言い聞かせても、なかなか行動を変えない部下がいます。態度を改めない部下に、上司はどう接すればいいのか。今回は、コーチングでもなく、ティーチングでもない。「プッシング」という荒業をご紹介します。
自主性がない、主体性に欠ける、問題意識が足りない、危機感のかけらもない……といった部下がいるとします。上司であるあなたはどうしますか?
柔和な態度で、質問話法を使いながら、相手をモチベートさせる「コーチング」を使いますか。しかしコーチングだとうまくいかないことでしょう。なぜならコーチングを受けるクライアントの条件は「自主性がある」ことだからです。病院へ通う患者さんをイメージしましょう。たとえ病院があまり好きではない患者さんでも、病気を治したい、健康な体を取り戻したいと考えているはずです。治療に対して主体的であるし、問題意識があります。だから病気が治るのです。病院の先生が処方する薬を飲む気もないし、日常生活におけるアドバイスに従うつもりもない、というのであれば治るものも治りません。
その点「ティーチング」は効果的であると言えます。相手の言葉ではなく、上司の言葉で教えるのです。どうすればいいのか。質問テクニックで相手の内側から正しい答えを引き出そうとするのではなく、「こうすればいいのだ」「なぜならこうだから」「その論拠は3つある」……などと教え、諭すのです。先の事例にも書いたとおり、患者が病院の先生の言うことを聞くのは、患者にはない答えを先生が持っているからです。したがって、正しい知識を上司が持つことで、部下に行動変容を促すことができます。
ただ、ティーチングにも問題があります。1回では、まず効き目がないということです。たった一度、教え諭すことで、部下が「そうか! そうですね。課長のおっしゃるとおりです。すぐにそうます」と言ってくれればいいですが、自主性がない、問題意識が足りないような部下が素直に受け入れるはずがありません。したがって中長期的なスタンスで「刷り込み」の時間が必要です。ティーチングには根気が必要であることを覚えておきましょう。
私がおススメするのは「プッシング」です。遠回りなことはやめましょう。部下の背中を押すのです。昔は、部下の前に立ち、部下に背中を見せたものですが、今は部下の前ではなく、後ろに立ちましょう。そして部下の背中を押すのです。これがプッシングです。どんなに知識を与えても、内発的動機付けを考慮しても、やらない部下はやりません。動かない部下は動きません。部下に理解してもらうためには、言葉ではなく行動が必要です。したがって「やればわかる」「動けばわかる」と思い、プッシュしましょう。
やり方は簡単。行動してほしいその場所、その時間に、背中を押すのです。「今週中にこれをやってくれ」「できる限りはやく動いて」という言い方ではダメです。
「今から行こう」
「このフォルダに入っている資料を上から3枚取り出して」
「ここで、このファイルを開いて、この顧客リストの上から電話をかけていこうか。さあ、受話器を取って」
などと、指示するのです。自分の目の前でやりなさい。ということです。
どんなに自主性がない部下でも、指示されたときは「やります」と大抵は言うものです。ただ、自分だけでは主体的にできない、ということですから、一緒にやるのです。
相手が同意しても、行動を変えることは稀です。本当に部下の行動を変えたかったら、その場で、本当に動きを変えるのを見届けましょう。相手から「やります」と言われるだけで満足してはいけません。自主性がない人にコーチングはもってのほか。ティーチングでもダメなら、背中を押す努力をしましょう。自主性のない人に自主性を求める上司がダメ上司なのです。