仮説上の「中間質量ブラックホール」が実在する最高の証拠を発見!
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「仮説上の中間質量ブラックホールの証拠を発見」というテーマで解説していきます。
ドイツのマックスプランク天体物理学研究所などのチームは、オメガ星団という球状星団の中心に少なくとも8200太陽質量の中間質量ブラックホールが存在することを示す、非常に強い証拠を得たと、2024年7月10日に発表しました。
●中間質量ブラックホールの謎
○ブラックホールの質量分類
ブラックホールはその質量に応じて3つの分類があり、太陽質量の100倍以下の「恒星質量ブラックホール」、太陽質量の100万倍以上の「超大質量ブラックホール」、その中間の質量を持つ「中間質量ブラックホール」があります。
一部の恒星質量ブラックホールは別の恒星と連星系を成し、恒星から流れ込むガスが超高温の降着円盤を形成するため、X線で観測できます。
また恒星質量ブラックホール同士の合体によって生じた重力波を通じて検出される場合もあります。
このような恒星質量ブラックホールは100個以上知られています。
また、多くの銀河の中心にて、超大質量ブラックホールが存在することも知られています。
○謎多きIMBH
一般的にブラックホールは恒星の死から誕生し、その後ガスや恒星などの天体を吸収したり、他のブラックホールと衝突合体することで成長していくと考えられています。
よって中間質量ブラックホール(Intermediate-Mass Black Hole、IMBH)も潜在的に多数存在しているはずです。
しかし恒星質量ブラックホールのように恒星と連星を成してX線を放つわけでもなく、超大質量ブラックホールのように銀河中心でまばゆい輝きを放つわけでもないIMBHを直接検出することは非常に困難です。
そんなIMBHが存在するとされる有力な候補地として、「球状星団」が挙げられます。
球状星団は数十万から数百万個の星がわずか数十光年の範囲に密集し、重力的に拘束し合い球状に集まっている星団のことです。
天の川銀河の周囲にも150個ほど存在しています。
これまでに、例えば遠方の銀河近傍にある球状星団内部のIMBHが、恒星を破壊して放たれた可能性のある突発的な輝きを検出したりなど、いくつかの球状星団の中心部でIMBHの存在を示す証拠が得られたことがあります。
しかしどれも証拠不十分であり、IMBHはこれまで仮説上の存在に留まっていました。
●IMBHの最強の証拠を新発見!
そんな中ドイツのマックスプランク天体物理学研究所などの研究チームは、オメガ星団という球状星団の中心に、少なくとも8200太陽質量のIMBHが存在することを強く示す「決定的な」証拠を得たと、2024年7月10日に発表しました。
○オメガ星団について
オメガ星団は天の川銀河周囲に存在するものの中で最大の球状星団です。
太陽系から17000光年の距離にあり、その半径はおよそ75光年、総質量は約400万太陽質量、およそ1000万個の星が含まれていると推定されています。
球状星団は一般的に巨大なガスの雲から星がまとめて誕生することで形成されると考えられていますが、オメガ星団の場合は天の川銀河に飲み込まれた別の矮小銀河の残骸であるという説が有力視されています。
○証拠を得る方法
研究チームはオメガ星団にIMBHが存在する強力な証拠を得るために、星団中心部にある恒星の運動を詳細に調べました。
恒星の運動から、それが公転する天体の質量が理解でき、その質量や存在範囲の狭さによっては、中心天体がブラックホールであると確定できます。
実際この方法で、天の川銀河中心のブラックホール「いて座A*」が実在することを示し、その質量を特定した研究が、2020年のノーベル物理学賞に選ばれた前例があります。
オメガ星団までは地球から17000光年しか離れておらず、実は27000光年離れた天の川銀河中心より1万光年も距離が近いため、同様の手法によるブラックホールの特定が可能です。
研究チームはハッブル宇宙望遠鏡が得た実に20年分のデータを使って、オメガ星団中心部付近の星々の固有運動を測定しました。
こちらは、星団の最も中心に近い位置にあり、113km/sという高い速度を得ている恒星の実写画像です。
このような凄まじい分解能により、一つ一つの恒星の詳細な位置の変化から、速度を特定することに成功しました。
○実際に得られた証拠
最新の研究では、星団の中心から0.25光年以内という、恒星間スケールとしては非常に狭い範囲内で、星団の予想脱出速度を超える超高速度星を7つも発見しました。
これほど狭い範囲で星団の脱出速度を超えた恒星が7個も観測されることは、星団を脱出する過程にある星々が偶然この領域に存在している瞬間を捉えたのではなく、常にこの領域に存在し続けていることを示します。
これらの超高速度天体を、強大な重力によってこの狭い範囲に拘束し続けられる、特定の大質量天体が存在すると考える他ありません。
恒星を高速で公転させる大質量の天体は、最低でも太陽の8200倍の質量を持っていると予想されました。
これはブラックホール以外では考えられない質量です。
また、これは既知の最も重い恒星質量ブラックホールよりも30倍以上重く、既知の最も軽い超大質量ブラックホールより30倍以上軽い、まさに「中間質量」のブラックホールであると言えます。
この発見はまさに、IMBHを「発見した」と明言してよいほど決定的な証拠であると言えます。
IMBHを特定し、その性質を理解することは、ブラックホールやそれを抱える球状星団、さらには銀河の進化を理解することにも繋がります。今後の研究の発展に期待がかかります。