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テニス全豪オープン予選デビュー、若手選手紹介(1):村松千裕

内田暁フリーランスライター
写真は、全豪オープンジュニア出場時の村松千裕(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 「やっと、戻ってこられました」

 2時間39分の熱闘を制したばかりの村松千裕は、そう言うとあどけなさの残る顔に笑みを広げた。

 メルボルンの全豪オープン会場は、ジュニア時代に3回戦まで到達した良い思い出の残る地。その舞台に、今度は“シニア”として3年ぶりに戻ってきた21歳は、初めて出場するグランドスラム予選で、まずは1回戦を突破した。

実力をつけ、身体も一回り大きくなり全豪オープンの舞台に戻ってきた村松
実力をつけ、身体も一回り大きくなり全豪オープンの舞台に戻ってきた村松

 両親ともに青春時代をテニスに捧げ、父方の祖母は、全日本選手権で上位進出したほどの日本トッププレーヤー。そんなテニス一家に育った千裕少女は、左腕から繰り出す多彩なショットと、サーブ&ボレーを織り交ぜる高い戦略性で、国内トップジュニアへと成長した。

 だがそんなサラブレッドも、高校卒業が近づくにつれ、進学かプロ転向かで胸を詰まらせ頭を悩ませていたという。

 果たして自分が、プロで通用するのか――?

 自問自答を繰り返し、周囲の客観的な声にも耳を傾け、それでも最終的に自らプロの道を選び取ったのは、ジュニア時代に立てた「グランドスラムJr.でベスト8以上」の目標が果たせなかった悔いを、テニスコートに残したため。

 同時に「まだまだ改善しなくてはいけないところがいっぱいある。それを直すことが出来たら、もっと上に行けるのでは」との手応えもあり、その希望に彼女は懸けた。

 そのプロ転向から2年が経過した昨シーズン、彼女は後半で戦績を伸ばし、グランドスラム予選に出られるまでにランキングを駆け上がった。

 「試合の中で、相手の得意なパターンや弱点が見られるようになってきました。自分の調子が悪くても、考えながら勝つ方法を見つけられるようになったのが大きいと思います」

 友人たちから「ちーちゃん」の愛称で呼ばれる21歳は、はにかみながら小さな声で、自分の成長点を語る。その姿は、本人も認める「シャイ」な女の子そのもの。

 ただ「今の目標は?」と問われた時には、「まずはここで、予選を勝ち抜き本戦に出ること。最終的には本戦でも勝ち上がって、トップ100に行きたいです」と、間髪入れず明確な答えを返す。穏やかながら熱を帯びたその語り口からは、完璧主義者で負けず嫌いな彼女の本質が透けて見えた。

 彼女がプロへの道を歩みはじめたその端緒には、ジュニア時代の目標に一歩届かず、悔いを残した全豪オープンのコートがある。その時の忘れ物を取り戻すためにも、一つでも多くの勝利を追い求める。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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