京都国際の甲子園決勝進出 韓国ではどう見られている? 「過去とは違うストーリーに注目」
きょう(23日)10時にプレイボールとなった「夏の甲子園」全国高等学校野球選手権大会の決勝戦に京都府代表の京都国際高校が出場している。
すでに多く言われている通り、1947年設立の同校は、韓国系学校として設立された点はよく知られるところだ。現在も公式サイトに「韓国語・英語・日本語のトリリンガル教育を目標に掲げ、語学教育をおこなっています」とある。
では、この決勝進出を韓国ではどう見ているのか。
22日に尹錫悦大統領が「本当にすごいこと」とコメントした点はすでに報じられたところ。また「反日教授」として知られる誠信女子大学のソ·ギョンドク教授が何やら校歌の歌詞翻訳について抗議をしたという話も。
韓国では「一般層の話題にまではなっていないが、コアな野球ファンは注目している」というところ。同校が決勝進出を決めた21日以降、韓国の最大手ポータルサイト「NAVER」での各メディアデイリーアクセスランキングでは5位以内に入らず。いっぽう、YouTubeでは関連ニュースは軒並み1万アクセス前後となっているが、ひとつだけダントツの16万アクセスを記録しているものがある。
「0-34の惨敗 京都国際高校はどうやって強いチームになったのか」(JTBC)
日韓の歴史のストーリーよりも、シンプルにスポーツ的な文脈が関心を持たれているようだ。
かつてとは違う「韓国人と日本野球」のストーリー
専門家の考えも同様だ。元韓国スポーツ紙デスクで、韓国野球記者の大御所チェ・ミンギュ氏(現韓国野球学会理事)は「以前から甲子園を知らない韓国の野球ファンはいなかったが、インターネットの普及によってさらにアクセスしやすくなった」としつつ、こう語る。
「20世紀までは『韓国人と日本野球』というテーマでは、「在日コリアンの苦境」という重要なキーワードがありました。張本勲さんが3000安打を打った時、韓国では「差別を克服した韓国人」として受け止められました。実際、韓国でもその時代の在日コリアンに対する差別も多かったと伝わっています。
しかし、今の京都国際高校の決勝進出は少し異なる文脈です。まず野球部の選手自体がほとんど日本人で、それにもかかわらず韓国語の校歌を歌う学校の野球部が甲子園決勝という素晴らしい舞台に上がったことを肯定的に見る人も多いと聞きます。過去とは変わった日韓関係の一つの反映と言えるのではないでしょうか」
韓国の野球ファンにとっての日本の甲子園。そこにも変化が生まれている。
「京都国際高校は数年前にもベスト4に進出して話題になったので、韓国でも知名度があります。ネット中継時代以前はそもそも大会を直接見たことのある韓国人は非常に稀だったのですが」
韓国野球と甲子園。その縁は1920年代にまで遡る。
「日本統治時代の1923年に徽文(フィムン)高校が甲子園ベスト8に入ったことがあります。同高は近年でも名門で、2000年代初頭にメジャーリーグのレッドソックス、ナショナルズなどでプレーした投手、キム・ソヌの母校でもあります」
その後、1970年代に入ると「絶大な影響力」を持つようになった。直接甲子園を観た人は少なくとも、あるものを介して影響力を持ったのだ。
「韓国内での野球人気は、1970年代の自国の高校野球から始まりました。今は無くなった東大門野球場などで大きな注目の下、熱戦が繰り広げられたのです。当時、韓国で多くの野球漫画が出版されましたが、それらの漫画は日本の甲子園を題材にした漫画の影響をかなり受けたものでした。特に80年代はあだち充先生の影響が大きかったと見ています。そしてその1980年代までは、日韓の高校チーム間で定期的な交流戦もありました。『怪物』江川卓も高校時代に韓国に来て試合をしたことがあります」
韓国との違いで見る 「甲子園」の日本的特徴
しかし、その後韓国の高校野球の状況が変わっていった。
「韓国では1982年にプロ野球が始まった後、高校野球の人気が急激に落ちましたが、これを惜しむオールドファンが多いです。その点で、甲子園が依然としてプロ野球に劣らない関心と愛情を受けている日本野球を素晴らしいと考える野球ファンも多いです」
少し話が反れるが、この韓国の「プロ野球の誕生後、高校野球の人気が落ちる」という現象、そして日本の「プロ野球に人気がありつつ、高校野球も人気(プロ野球の誕生で六大学野球の相対的人気は下がったという面もあるが…)」という状態は、日韓の文化の違いをよく表している。
韓国では「新しいものを採り入れることは古きを捨てること」であり、日本では「古いものを残した上で、新しいものを採り入れる」という文化がある。早稲田大学名誉教授(東洋史)の依田憙家氏や、在日コリアン文学者の金達寿氏が指摘するところだ。
そういった歴史のなかで、今回の京都国際高校の決勝進出のニュースは、韓国で日本の野球がより認知されていくきっかけにもなる。チェ氏はそう見ている。
「京都国際高校が元々在日朝鮮人学校として始まり、今は日本人学生の方が多いですが、韓国と関係のある学校が3年前の甲子園ベスト4に続いて決勝戦に進出したこと自体が、韓国の野球ファンにとっては十分な話題になります。大成はできませんでしたが、韓国で中学校を卒業した後、京都国際高校に留学して韓国のプロ野球チームに入団した選手も5人いて、そのうちシン・ソンヒョンという選手は広島カープでもプレーしたことがあります」
こういった話題を含む情報伝達や交流は韓国球界にとってもよいものであるとも。
「かつて宣銅烈を始めとして多くの韓国選手が日本プロ野球で活躍しながら、『想像』の対象だった日本野球をより近くで見るようになりました。また、KBO(韓国プロ野球)でプレーした入来祐作や高津臣吾など一部の日本選手も韓国でプレーしながら、野球ファンの間で日本野球と選手に対する理解度と関心が高まったと見ています。いま、KBOがアジア枠の導入を検討していますが、おそらくNPB(日本プロ野球)のボーダーラインにいる選手や日本の独立リーグ、社会人野球の選手で海外野球活動に関心のある選手が主な対象になると思います。制度ができれば多くの日本選手が来てほしいと思います」
(了)