「それってパクリじゃないですか?」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(4)
それパク第4回目のネタは商標登録出願でした。簡単な法的感想と感想を書いていきます。ドラマを見たことを前提に書いています。未見の方にはネタバレになりますのでご注意下さい。
番組中では「商標出願」と言っていましたが正確な法律用語は「商標登録出願」です。まあ、私もめんどうなので「商標出願」と言ったり書いたりすることはありますが。
商標は(たとえば、富士山のように)既にある言葉を採択してもよい(もちろん、造語を作ってもよい)、言葉の使用自体を独占するわけではないという重要ポイントをさらっと説明していました。また、出願の指定商品区分というずいぶん実務的な話が出ました。区分が別であれば原則的には商標権としては別になります(朝日新聞とアサヒビールが類似していると問題にならないことを考えればわかります)。親会社と子会社(月夜野ドリンク)でどう区分を分けるかみたいな議論になっていましたが、親会社が一括で商標登録して、必要に応じて月夜野にライセンスすればよいのではと思いました。
「ツキヨン」の炎上騒ぎは、おそらく、「アマビエ」の事件等が参考になっているのではと思います(アマビエは電通がらみだったのでさすがにあからさまに言うことはできないでしょうが)。なかなか良いまとめ方だったと思います。商標登録を行うのはあくまでもパクリビジネスを防止するためです。つまり、ビジネスのために商標登録を行うのであって、商標登録出願がもたらす炎上により消費者に反感を持たれてビジネスに悪影響を与えれば本末転倒です。商標関連炎上事件において、消費者に「有り物の言葉でも商標登録は可能、商標は言葉を独占するのではなく、商品名として独占するだけである」と説明してもしょうがありません。問題は、その企業に対して消費者がどういうイメージ(感情)を持つかだからです。
あと、重岡さんが芳根さんに出願を迫るシーンがありましたが、別に出願はパソコンの設定さえされていれば誰でもできるので、さっさと自分でやっちゃえばよいのになあと思ってしまいました(まあ、それだと後に話がつながらないのでしょうがないですが)。
サブプロットの「ふてぶてリリィ」の件は無効審判を請求するようですが、今までドラマで出てきた情報のみから判断すると無効にするのは難しそうな気がしますがどうなるのでしょうか?
==以降は今回のドラマとは直接関係ない商標関係の話です。ドラマに出てくるかもと思い予定稿として用意していた内容ですが、せっかくなので公開しておきます==
商標登録出願関連の一般的なネタで言えば、新製品(サービス)の発表と商標登録出願のタイミングの問題があります。商標登録が先願主義であることを考えると、商標登録出願は早ければ早い方が良いのですが出願の内容は出願から数週間で公開されてしまうので、出願のタイミングが早すぎると新製品(たとえば、ゲーム新作)の発表前にその名前がネタバレしてしまいます。かと言って、出願が遅すぎると、第三者の勝手出願が発生し得ます。特許庁が勝手出願の不正目的を認定して拒絶にしてくれればよいですが、そうでない場合にはやっかいなことになります。今回のドラマとは直接関係ないですが、役所系の案件等で「xxxの商標出願を検討している」など発表してしまうこと、あるいは、商標登録出願をせずに言葉だけ先に発表してしまうことがありますが、これは「どうぞ勝手出願をしてください」と言っているようなものです。この辺はドラマのネタになるかと思いましたがなりませんでしたね。
なお、商標の先後願の判断は、時刻は関係なく日付によって行われますので、朝一で商標登録出願して、その日のうちに新製品発表という流れだと、その日の内に行われた第三者の勝手出願は(正規の出願も含めて)全部同日出願になってしまいます。商標の同日出願で協議が成立しない場合は、くじで決めることになっています(嘘のような話ですが商標法に規定があります)。特許庁に福引きで使われるようなガラガラポンがあってそれでくじ引きが行われます。これも、ドラマのネタになるかと思いましたがなりませんでした。しずれにせよ、ちょっとマニアック過ぎで視聴者は付いて来れないかもしれなかったです。