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あきれるほど将棋の強いYouTuberの折田翔吾さん(30)棋士編入試験五番勝負第1局でまず快勝

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月25日。大阪の関西将棋会館において、棋士編入試験五番勝負第1局▲黒田尭之四段(23歳)-△折田翔吾アマ(30歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は17時16分に終局。結果は98手で折田アマの快勝となりました。

 折田アマは五番勝負で幸先よく1勝。あと2勝で棋士編入試験合格となります。

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「アゲアゲ将棋」折田翔吾さん(30)の棋士編入試験始まる 黒田尭之四段(23)は意表の初手端歩

あきれるほど将棋の強いYouTuberのアゲアゲさんがプロ編入試験を受けるまで

 折田さんは奨励会では三段にまで進みながら、2016年3月、年齢制限で退会。その後は将棋YouTuberとして活躍するうちに、さらに強くなりました。

「アマ強豪に鍛えてもらいました」

 と折田さんは語っています。奨励会退会という来歴ということを考えると、棋士編入試験五番勝負は苦節何年という悲壮感が感じられそうなものですが、折田さんはこの勝負を楽しむという心境だったようです。

 その折田さんもやはり緊張していました。前夜は思ったより眠れなかったそうです。

 対局開始前、駒を並べる際に、普段であれば角の次に飛車を置くところ、歩から並べていました。これは緊張によるものか。

「こういう舞台だからいつもと違う自分なんかな。平静を保ててないのかな」

 折田さんはそう感じていました。

 五番勝負ではまず第1局が始まる前に振り駒をします。折田さんはここで後手となりました。

 第2局以降は先後が替わります。つまり折田さんは第2局と第4局の2番が先手となります。将棋は先手がわずかに有利ですので、先手番が3番になるか2番になるかは大きいところ。そういう意味では折田さんは少し損をした格好になります。しかし、

「どっちになってもそれはそれで、と思っていました」

 と割り切っていました。

 一方の黒田四段。

「注目される第1局ということで、気合を入れて臨みました」

 そして対局の席に座ってから、

「どうせならインパクトのあることをやってみよう」

 と初手端歩を決意したそうです。

 黒田四段の初手端歩で始まった一局。黒田四段の作戦は四間飛車でした。

折田「ほとんど想定していない形になりました」

 対して黒田四段にとっても、折田アマの作戦も予想できないものでした。

 最初は居飛車穴熊を想定していたものの、それがはずれ。

 その後は△2一玉型(トーチカ)を想定したものの、それもはずれ。

 黒田四段は局後、そのあたりを「読みの浅さ」として反省していました。また「気合が空回りしてしまった」ということもあったようです。

 黒田四段が端を突き越したのに対して、折田アマは端から逆襲をしました。これが好機をつかんだ動きだったようです。まずは折田アマがわずかにリードしました。

折田「端をとがめる展開になったので、これで負けても本望と思いました」

 結果的には、黒田四段の初手端歩の趣向をとがめたことになりました。

 黒田四段は端で得た香を中央に使い、折田陣の角をねらいます。対して折田アマはじっと角を引きました。これが落ち着いた対応でした。じっとしていては苦しくなる黒田四段は動きますが、折田アマはその動きに乗って、次第に差を広げていきます。

 終盤戦。折田アマは端から黒田玉に寄せの網をしぼっていきます。華麗な角捨てなども織り交ぜながら、形勢は折田アマ勝勢となりました。

 黒田四段は苦しい中、相手をそう簡単に楽にはさせません。

 明快な勝ちが見えない中、折田アマには30分近く時間が残されていました。盤上だけではなく、時間のペース配分も上手かったようです。

 最後は黒田玉にきれいに必至がかかりました。

「見事ですね」

 解説の瀬川晶司六段と今泉健司四段が称賛の声をあげました。

 黒田四段は残り時間が最後、1分になるまで戦い抜き、そこで投了しました。

「勝たれての感想をお願いします」

 いつもは饒舌なYouTuberとして活躍する折田さんが、記者からの質問に対して数十秒の間、言葉が出ませんでした。

「ようやく将棋が指せるという喜びがありながら、なんとか結果が出せたのでよかったです」

 そこで折田さんの顔にようやく笑顔がこぼれました。

折田「五番勝負としては初戦が大事なので、いいスタートを切れたかなと思います」

 第2局は12月23日。対戦相手は出口若武四段(24歳)です。

 出口四段は1995年生まれで、兵庫県明石市出身。井上慶太九段門下で、2019年4月、四段に昇段しています。

 2018年、三段の立場で出場した新人王戦では、澤田真吾六段、井出隼平四段、梶浦宏孝四段らを連破して決勝三番勝負に進出。最後は藤井聡太七段に2連敗で敗れはしましたが、準優勝を果たしています。

 両者は三段リーグで5回対戦。折田さんから見て○●○●●と2勝3敗です。

 五番勝負では楽な相手はただの一人もいません。折田さんにとっては、また強敵との対戦となります。それでも現在の折田さんの実力と勢いをもってすれば、編入試験合格の可能性は、かなり高くなったと言えそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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