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カツ丼市場の変遷と価格競争:新たなアプローチの必要性

池田恵里フードジャーナリスト
カツ丼の価格は三極化が進み、調理方法にも変化が(筆者撮影)

カツ丼 最近 価格競争の商品として

カツ丼と言えば、これまでもお惣菜の中でも、アッパーな素材とされるトンカツを使用しつつ、丼という食べやすさもあって、売り上げ上位に君臨し続けている。

そして今、そんなカツ丼の価格が三極化しているのだ。

価格競争のこれまで のり弁当

これまでの弁当価格競争の代表例として、のり弁当が挙げられていたが、現在は具材、中でも水産関係の高騰が著しく、価格による競争すらも難しくなったのだ。そこでスーパーのカツ丼の価格が新たな焦点となり、特にEDLP(Every Day Low Price)を掲げる店舗が価格維持に努めている。カツ丼はのり弁当の時の競争とは違い、単なる販促の一環ではなく、日常的に求められる商品の一つとして、各社が独自の戦略を展開しているのだ。

カツ丼価格について 

関西のスーパーでは398円~498円、関東のスーパーでは298円~598円、弁当専門店では560円~690円、コンビニでは592円~648円、ドラッグストアでは298円となっている。

特にヤオコーのEDLPのフーコットとドラッグストアGENKI(店舗内調理ではない)298円で設定され、オーケーとクルベでは299円の設定となっている。

オーケーは一時的に価格を引き上げた時期もあったが、299円の価格を維持している。オーケーにとって、カツ丼は売り上げ上位の商品であり、メディアに紹介されることや、今年の秋に価格に敏感なエリアの関西出店を見据え、この価格設定を維持していると言われている。

次に1g単価で見ると、スーパーの中には1g当たり1.4円もあり、これは外食のテイクアウトの平均1g単価1.21円より高いのだ。他の業態との比較が十二分になされていないのかもしれない。

一方、オーケーとクルベは1g当たりの単価が同価格で1.0円未満となっており、低価格を維持している。これにより、価格競争の中で顧客に対する強い訴求力を持っていることがわかる。

クルベの柔らかロースかつ重299円(筆者撮影)
クルベの柔らかロースかつ重299円(筆者撮影)

オーケーのロースかつ重(カナダ産三元豚使用)299円(筆者撮影)
オーケーのロースかつ重(カナダ産三元豚使用)299円(筆者撮影)

スーパーでのカツ丼調理 深刻な人手不足から

これまでカツ丼は店舗内調理とはいえ、店側としてもオペレーションは揚げて、卵でとじると、至って簡単とされてきた。さらに言うと、コンベクションオーブンで一括で製造できるのだ。しかし、この簡単なオペレーションさえも難しくなっているのだ。

スーパー関係者「バックルーム(厨房)に、本当に人が集まらないのです。店舗内調理ができない状況です」

そこで微妙に調理内容が変化している。関西は従来の調理工程が主流であるものの、一部のスーパーでは、揚げたカツに加工卵をのせて提供するところも見られるようになったのだ。

人手不足が大きな要因、そして地域性も

スーパーにおける深刻な人手不足を背景に、オペレーションの簡略化が求められ、そしてこれは地域ごとの顧客ニーズや食文化の違いが反映されているのかもしれない。というのも、今回の調査期間でセブン-イレブンは、地域性を徹底的に調べることに定評があり、関西ではカツ丼を販売しておらず、関東では販売しているからだ。しかも少し古いデーターではあるが、2017年のマルハニチロのアンケートによると、「好きな、とんかつを使った料理」で最も人気が高いのがカツ丼ではあるものの、関西を見ると、他の地域より人気が低い。地域ごとの顧客ニーズや食文化の違いが多少、売り上げに反映されているのかもしれない。

マルハニチロ「好きな、とんかつを使った料理」参照
マルハニチロ「好きな、とんかつを使った料理」参照

店舗内調理の大切さ、他の業態を見据えて

しかしそれら要因を考えても、ドラッグストア、そしてコンビニは店舗内調理が難しい為、簡単なオペレーションにすると、たちどころにこれらの業態(コンビニ・ドラッグストア)との競合になる。

顧客から見ても、店舗内調理で「出来立て」を訴求できる商品は少なく、その中にカツ丼がある。

この点に関して、特筆すべき事例として三重県のスーパー「ぎゅーとら」がある。人口は都市部より少ない地域でありながら、1日3000食のカツ丼を販売しており、年商の1%を占める売れ筋商品である。店舗内で一つ一つ親子鍋で調理することで、味と品質を保っている。顧客アンケートの結果、「硬すぎる」との意見を反映し、肉質を変更し、切れ目を入れることで食感の改善を図っている。これにより、顧客の満足度を高めることに成功している。深刻な人手不足にもかかわらず、愚直に店舗内調理を続けることで他の業態、ドラッグストアやコンビニに負けない競争力を維持している。そして、この取り組みによって、人手不足の問題にも光明が見える。これからのカツ丼の在り方が見えるのではないか。

ぎゅーとらのぎゅーとらかつ丼398円(筆者撮影)
ぎゅーとらのぎゅーとらかつ丼398円(筆者撮影)

EDLPのドラッグストアで知られているK薬品の社員曰く

「今年、秋にEDLPのオーケーが関西に出店するのは脅威です。弁当は店舗内調理ですよね。わが社は、店舗内調理ができないので、価格で勝負するしかないのです」

オーケーが出店するエリアの周辺では、既に商品の一部は、価格を引き下げたとのこと。やはりスーパーのカツ丼における店舗内調理の重要性が窺える。

低価格のカツ丼、そのゆくえ

しかしEDLPを採用するスーパーにとっても低価格を維持しつつも、他業態との競争にさらされているのも事実であり、これまでの価格を維持できるのかどうか今、まさに変わり時ではないだろうか。

豚肉の価格、高騰

何故なら、豚肉の価格高騰は全体的な課題となってきているからだ。

輸入豚肉の卸値が上昇し、国産の豚肉も価格が高騰しているため、価格維持が難しくなっている。これにより、各社は価格戦略の見直しを迫られている。

輸入豚肉の卸値は、この1年ほどで価格が4割ほど上昇しているからだ(日経・think!参照)。国産の豚肉の卸売価格においても図の通りである。

NHK「豚肉も価格上昇 その背景は?」を参照
NHK「豚肉も価格上昇 その背景は?」を参照

このことからも、価格を維持することは難しくなっているのだ。

○○産というこだわりからの脱却

産地に依存しない提案が必要となってくる。特定の産地と限定してしまうと物価高騰に巻き込まれることから、異なる視点からのアプローチが求められるのだ。特定の産地を使用したとしても、それが美味しさにはつながらない。

事実、今回の調査で、パン粉とつゆの染み込み具合、ご飯とカツとじとのバランス、つゆの甘さ加減、具、卵、ご飯の比率、これらが時間が経つことで美味しさとなる。今後、カツ丼の価格競争は、例えば柔らかな食感を維持するにはどうするかといった具合に、違った視点も大切で、これが顧客満足度を高める鍵となると思う。

カツ丼の競争は、スーパーのブランド力を試される場でもあり、各社が独自の工夫を凝らしていくことが期待される。

フードジャーナリスト

神戸女学院大学音楽学部ピアノ科卒、同研究科修了。その後、演奏活動,並びに神戸女学院大学講師として10年間指導。料理コンクールに多数、入選・特選し、それを機に31歳の時、社会人1年生として、フリーで料理界に入る。スタート当初は社会経験がなかったこと、素人だったこともあり、なかなか仕事に繋がらなかった。その後、ようやく大手惣菜チェーン、スーパー、ファミリーレストランなどの商品開発を手掛け、現在、食品業界で各社、顧問契約を交わしている。執筆は、中食・外食専門雑誌の連載など多数。業界を超え、あらゆる角度から、足での情報、現場を知ることに心がけている。フードサービス学会、商品開発・管理学会会員

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