森保ジャパンを俯瞰すれば。西野ジャパンとの決定的な違いとは
ロシアW杯で西野ジャパンが結果を残すと、日本では、手のひらを返すように称賛したメディアについて異を唱える声が湧いたという。称賛したつもりはないけれど、事前に懐疑的な原稿を多く書いていた身として言わせてもらえば、自らを省みるつもりはまったくない。
それがサッカーだと解釈しているからだ。それでも本番での自軍の勝利には無条件に感激する。しかし、運が3割絡むこの競技の結果を100%真実だと疑いなく信用し、最大の拠り所として語ることは逆に危険だ。サッカー的思考法ではない。サッカーの魅力の真髄に迫れない可能性も秘めている。
代表チームの戦いは永遠に続く。W杯が終われば、ほどなくして再開される。好成績が転落の始まりになることはよくあるケースなのである。
2006年ドイツW杯で優勝を飾りながら次回2010年南ア大会、2014年ブラジルW杯と立て続けにグループリーグ落ち。そしてついに、2018年ロシアW杯では欧州予選で敗退することになったイタリア。
2010年南アW杯準優勝、2014年ブラジルW杯では3位に輝きながら、2018年ロシア大会ではイタリア同様、欧州予選落ちしたオランダ。
そして2014年ブラジルW杯で優勝したドイツも、2018年ロシアW杯では、韓国に敗れるなど、グループリーグ最下位に沈むという憂き目に遭った。
ロシアW杯決勝トーナメント1回戦、対ベルギー戦の惜敗劇が、日本の転落のきっかけになる可能性は大いにある。これが平均年齢28歳超というベテラン主体のメンバーで臨むという大きな代償を支払った結果であることを忘れるわけにはいかない。
結果は重要だが、タラレバ話をすることもそれと同じぐらい意義があることだ。それはサッカーの中身の話に膨らんでいく可能性がある。個人的には、勝ち負け話より遙かに興味がある。
パナマ戦。森保ジャパンはコスタリカ戦に続き3-0のスコアで勝利した。ホームの親善試合なので、順当な結果だ。大喜びすべき試合ではないーーとは、これまで繰り返し、述べてきたが、結果に対して従順な反応が目立つ。癖として染みついている様子。これでいいのか森保ジャパンと疑いの目を向けようとする人は少ない。
森保ジャパンの布陣は4-4-2という触れ込みだが、実際は4-2-2-2に近い。パナマ戦に先発出場した両サイドハーフ、原口元気(左)と伊東純也(右)は、両サイドバックと縦の関係を築けずにいた。サイドアタッカーと呼ぶには開きが甘かった。俯瞰して気付いた西野ジャパンとの違いである。
中盤4人は横隊ではなく、ボックス型に近いデザインを描いた。
サイドアタッカー両サイド各1人のサッカーである。
加茂ジャパン(95〜97年)、第1次岡田ジャパン(97〜98年)、トルシエジャパン(98〜02年)、ジーコジャパン(02〜06年)もこのサッカーに属する。それぞれの監督が採用した布陣は4-2-2-2と3-4-1-2だった。
流れが変わったのは、次のオシム時代からだ。
以降、サイドアタッカーを両サイドに各2人置く布陣がスタンダードになった。とはいえ、オシムの次に代表監督に就任した岡田監督は旧来の道を歩もうとした。布陣こそ4-2-3-1だったが、3の右を担当した中村俊輔はポジションを守らず、気がつけば真ん中に入り込んだ。
その症状が改善されたのは南アW杯本番で、岡田監督は本田圭佑をセンターフォワードに据える4-3-3(4-1-4-1)を採用。ウイングとサイドバックが両サイドを占めるサイドアタッカー各2人のサッカーを選択した。
続くザッケローニもサイドアタッカー各2人の4-2-3-1を採用したが、3の左を担当した香川真司が内に入る傾向が強く、布陣の特色がピッチに反映されたとは言い難かった。
続くアギーレ、その次のハリルホジッチは4-3-3と4-2-3-1で戦い、サイドアタッカーも各2人いた。
続く西野監督は、就任直後のガーナ戦で、サイドアタッカー各1人の3-4-2-1を採用。時代の流れに逆らうスタイルを披露したが、その後は4-2-3-1で戦い、サイドアタッカーも布陣通り各2人存在するサッカーでロシアW杯に臨んだ。
3バックか4バックか。サッカーを色分けしようとする場合、最終ラインの枚数が基準になりがちだが、色の違いがそれ以上に鮮明になるのは、サイドアタッカーの枚数だ。各1人か、各2人か。3バックでも各2人の布陣はある。4バックでも各1人の布陣がある。
日本では3バックは守備的で、4バックは攻撃的というイメージが一人歩きしている。3バックは5バックになりやすい性質があると考えられているからだが、実際には5バックになりにくい3バックも存在する。3バックに遭遇したとき、目を凝らすポイントでもある。この3バックは、どちらに属する3バックなのか、と。
その際に基準になるのが、サイドアタッカーの枚数だ。両サイド各1人なのか各2人なのか。
森保監督がサンフレッチェ広島で採用していた3-4-2-1のサイドアタッカーは各1人だ。現在、監督を兼務する2020年東京五輪を目指すU−21も、同様のサッカーを展開する。その流れで日本代表監督を務めれば、ロシアW杯を戦った西野ジャパンのみならず、これまでの流れとは異なる方向に進むことになる。サッカーは守備的なものに様変わりすることになる。
ところが、森保監督が日本代表監督として、コスタリカ戦、パナマ戦で見せたサッカーは、それとは異なる一般的には4-4-2と表記される4バックだった。
3か4かを基準にするならば、4を採用するこのサッカーは従来の日本代表と同じ路線を歩んでいることになる。問題は起きていないことになるが、急に変えたことに対する疑念は湧く。なぜ変えたのか。そのことを森保監督は語っていないことも輪を掛ける。
ところが、各1人か各2人かというサイドアタッカーの枚数に目を凝らせば、別の姿が見えてくる。各2人というより各1人。相手が各2人で迫ってくれば、サイドで後手を踏むことになる。
相手にサイドを突かれやすいサッカーは、例外なく守備的サッカーに属する。サイドで数的不利に陥るので、サイドバックは攻め上がりにくくなる。自ずとボール支配率は低くなる。
パナマ戦。日本のボール支配率は48.2%でパナマに劣った。コスタリカ戦は50.2%。3-0というスコアを想像しにくい、サイドアタッカー各1人の場合に陥りがちな症状を裏付けるデータだ。
4-4-2と言われる布陣だが、実態は3-4-2-1と大差ない。これが森保ジャパンの真相だ。実は大きな概念は変わっていない。就任してわずか2試合なので、まだ決めつけるわけにはいかないが、疑いの目を向けるべき重要なポイントであることに変わりはない。3バックか4バックかに目を奪われると、重大な見落としをする恐れは大きいのだ。