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日本で痴漢騒動がなくならない最大の理由は「内向き日本人」にあり。

にしゃんた社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)
大阪府警、鉄道警察隊の痴漢注意勧告ポスター

痴漢。言葉を用いられたかどうかは別として、これは昨日今日始まったことではないようである。平安時代の絵巻物「伴大納言絵詞」の一場面にも火事騒ぎの中で、ある女性の後ろで不審な姿勢の男が描かれている。明らかに痴漢である。その昔、女性にちょっかい出して、恋愛などに発展したなんてことなどもあったかも知れないが、あくまでも推測に過ぎない。

日本でここ最近、痴漢が頻繁にニュースとなって登場している。痴漢一つとっても、見えてくる景色はかつてと比べ、ずいぶんと様変わりをしてきている。被害者と加害者の当事者だけで完結していたかつての痴漢は、今では大勢を巻き込んでいる。「痴漢」と「女性が泣き寝入り」がセットで語れた時代から考えると、いまになっては痴漢騒動の結末も実にさまざまである。

依然として泣き寝入りの女性はもちろん、加害者にされた被害者の男性が現れたり、線路に飛び込んで逃げ出す男性が現れたり、電車が止められ嘆く大勢の乗客が現れたり、痴漢で止まった電車の時刻調整に泣きながら取り組んでいる電車会社の社員が現れたり、外国人に痴漢にあったとうったえられる日本人が現れたり、痴漢だけではなく痴女が現れたり、実際にその場で痴漢行為があったか否かがの真実は「神のみぞ知る」であるにしても、痴漢の結末は実に多種多様である。被害者と加害者がもはや解らなくなっている。

なぜ日本で痴漢が多いのかの理由について以前、ある外国人記者が書いた記事を読んだことがある。うろ覚えだが記憶をたどってここに羅列すると、

1. 日本の公共交通の異常な混雑ぶり

2. 自己主張をしない日本人女性

3. 日本のポルノビデオの影響 だったと記憶している。

上記の分析には確かに一理はある。日本のラッシュアワーの混雑ぶりは、海外からの観光客の写真の定番ショットと化しているほど、世界から見ても珍しい光景でもある。個性は色々あるにせよ全般として日本人女性は、自己主張は弱いという指摘も当たっているかも知れない。痴漢を題材にしたポルノビデオの数の多さもさることながら、痴漢されて女性が喜んでいるような描写も一因を作っていることを否めない。

しかし3つとも関連しているとはいえ、原因として同等かというそうでもない。3つの中の最大の痴漢の発生の原因は、やはり異常な混雑ぶりである。つまり混雑しなかったら、少なくとも現在発生しているような痴漢騒ぎは起きないということになる。その点、2と3の原因は付随的であるとも言える。しかし、日本のラッシュアワーの混雑を避けることは現実的ではない。日本以上にラッシュアワーは混雑する国もある。ひょっとして日本の痴漢の多さの本当の原因は他にあるのではないか。

それにしても、ここ最近耳にする痴漢被害の報道は関東からばかり聞こえてくる。そのことを踏まえ関西との違いはないかと調べたところ、もしかしたらというものを1つは見つけることができた。痴漢を辞めさせるために作成されたポスターである。関東は「痴漢に注意!」と書いているに対して関西の定番ポスターには「チカン、アカン」と書いてある。

関東は、被害者に対して注意を促しているに対して、大阪の方は、加害者に対して注意喚起をしている。関西は、難しい漢字なども避け、カタカナを使い、一回読んだら頭から離れない語呂合わせの良さなどもあって、痴漢減に効果的なのかも知れないと考えたくもなる。

しかし、日本で社会問題となるほどの痴漢が問題になっている根本的な原因は他にあるとみている。それは、公共交通、特に都市部の公共交通内における日本独特の人間関係文化にある。車内の全ての乗客は基本的に周囲との関係性を絶ち、内向きに徹している。つまり車内は、内向きの個人の集合体である。

他者に関心を持たず、関わらない前提で乗車している人たちの集合体としての下地こそが痴漢に限らず、日本のあらゆる社会問題の背景にある最大の問題である。車内における内向きな姿勢はおそらく人口密度の高い空間に生きるための知恵として定着したに違いない。しかし、それが今になってはアダになっているということも否めない。

2017年6月3日の午前0時過ぎ、東京・江戸川区のJR総武線の平井駅でも非常用ボタンが押され、終電が止められるというような痴漢騒ぎが起きた。1人の女性が痴漢被害にあったと訴え、加害者と指さされた1人の男性が警察に任意同行され、電車が止まったことで、帰宅できない無数の被害者が出た。警察に連れて行かれた被疑者が周りの他の乗客の証言に助けられ解放された。

むろん痴漢が行われたか否かのことは神のみぞ知る。しかし、今回の件で、内向きではない人間関係が現場あったからこそ被疑者が救われたということにもなる。内向きではない、外向きな人たちがいたからこそ、冤罪で逮捕されることもなく、線路に降りて走り逃げる必要もなくなった。

言わずしても痴漢に関して、女性を被害から守ることが最大の目的であろう。その点に関しても、乗客の内向きではない、外向きな関係性があればそれが最も効果的であると言える。

日本の公共交通の車内は、「プライベートスペース」と化しているが、世界には車内が人々がコミュニケーション取り合う「社交場」になっている国もあることに思いを馳せたい。

これから先、自分が関係ないのに、他人の痴漢騒動に巻き込まれて、電車が遅延するなどの被害を被りたくないためにも、いつの日か自分が加害者や被害者になりたくない為にも、現状の内向きの関係を卒業する必要があろう。

その第一歩として具体的には、小さな携帯電話の画面にのめり込んだり、ヘッドフォンで耳を塞いだり、目をつぶったりしながら公共交通に乗車中の内向きな日本人全員が顔を上げ、目の前にいる人間とちょっとしたコミュニケーションを取ることが求められている。

社会学者・タレント・ダイバーシティスピーカー(多様性語り部)

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、経営者、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「ミスターダイバーシティ」と言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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