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理由は新型コロナウイルスじゃないんだ? トップリーグ中止の意図とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
歓声はため息に変わった?(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 国内ラグビートップリーグは3月9日、同月中の計24試合の中止を決めた。

 かねて2月29日以降の第7、8節は新型コロナウイルス(以下「」内では発言に沿って「コロナ」と表記)の感染拡大防止の観点から延期し、3月14日以降の再開可否について検討していたが、3月4日に日野のジョエル・エバーソンがコカイン使用の疑いで逮捕されたのを機に方針を変えた。

 昨年6月にはトヨタ自動車の2選手が同様の事件で逮捕されており、リーグ側は事態を重く見た格好。この日は太田治チェアマンが会見し、多くの選手、OB、ファンから非難される決定について説明した。

 以下、共同会見中の一問一答の一部(編集箇所あり)。

「まず皆さん、お忙しいなかお集まりいただきましてありがとうございます。コロナの対策で延期を決定していた間、所属チームの選手が重大な事件で逮捕されました。リーグとしましては、同年度内に複数のチームから薬物による逮捕者が出たことを重く受け止めました。もう一度コンプライアンス教育の徹底をということで、3月の3節を休止ということにいたしました。

 冒頭に申し上げましたように複数の逮捕者が出たということもあって、我々トップリーグ及び日本ラグビー界の存在を揺るがす大きな問題だと捉えています。非常事態と思っております。昨年6月以降、各チームと対策防止策を講じてきました。各チームにインテグリティオフィサーを置いて、再発防止のため様々な研修などをリーグ主導でおこなってきました。しかしながら延期の期間中に逮捕者が出た。我々の防止策が不十分だったと言わざるを得ません。皆さんや社会を裏切る結果となった。信頼回復に向けて真摯に取り組むこと。いままで以上に踏み込んだ対策が必要だと考えています。

 ラグビーは『品位・情熱・結束・規律・尊重』という5つのコアバリューで成り立っています。どれかが欠けたらラグビーではありません。今回の事件はコアバリューの大部分に抵触しており、国内最高峰の名にふさわしいリーグになるため、再度インテグリティの追求を図り、全体で正常化を証明することで再開を考えていきたい」

――一般論として、現時点で他に薬物使用者がいる場合は、いまから「研修」をしたところで薬物はやめられないはず。そして、いま薬物に、関わっていない選手の大半は端から薬物には手を出さない。一体、3週間の中止期間に何をして、どんな効果を期待するというのか。

「チームさんとこれから最終的な協議をして決めていきますが、いま考えているのは、もう1回こういうことがあったこと(を受けて)のチームミーティング、個別の選手ヒアリングの実施。再発防止策をチームと一緒になってやっていきたい」

――薬物の依存性を鑑みれば、「正常化」が「証明」された後に以前からの薬物使用者が発覚する可能性もないわけではない。

「そこまでしてもう1回出たとなったら、再考しないといけないですね…」

――具体的に何をするのか。

「本日、各インティグリティオフィサーの方とテレビ会議を。方向性は定まっているので、これから具体的な部分は話せる。6月にやった研修内容をさらにチェックし、いわゆる一般的な薬物問題のEラーニング、講師派遣をやることになると思いますが、実際には各チームさんと話したうえで決めていきたいです」

――責任の所在が不明のようにも映るが。

「前回、6月の時は性善説に立って自浄作用ができると思いチームに(対策を)お願いした。でも今回は、リーグとしてどこまでやれるのかについてお願いして、踏み込んだ内容については協議しないといけない。もう少し、具体的なところにつきましては、リーグ、チーム一緒になってどう対策を取っていくかを話し合いながらやりたいと思います」

――もし本当に薬物を断つなら、毛髪検査等々を徹底しなければいけないはずだ。

「それも選択肢のひとつだと思います」

――「正常化」はどう証明するのか。

「チームから文書でいただく」

――今回、日野が無期限の活動自粛を決めただけでもかなりの議論を招いている。そんななか今回、トップリーグは他チームにも連帯責任を与える。いち選手の犯罪が3節分の中止を促すという悪しき前例を作ることになる。

「先ほども申し上げましたように、年度内に複数のチームから逮捕者が出た。今回のことだけで考えたわけではない。昨年(トヨタ自動車の事件の時)も、『もしかしたらもう1チーム、出るかもしれない』というなかで運営をやって参りました。こうしたなか、危機管理、『もし出た時はこうしよう』という話をしていました。ある意味、ラグビー選手イコール薬物のようなイメージを早く払しょくして正常な段階で再開したいという強い思いでのこと。先については今後考える」

――チーム関係者の反応は。

「信頼回復をしないといけないという話はしました。特に反論的なことはございませんでした」

――3節の休止を経て、日野が復帰する可能性は。

「そこまでは。チームからの申し出をリーグが了承したので。逆にこちらからどうということはない」

――新型コロナウイルスの感染拡大が収まっていないことも今回の決断に関わったのか。

「コンプライアンスの問題が非常に大問題だと、コロナと切り離して考えています」

――では、新型コロナウイルスの感染拡大に関してはどう対処するか。

「今日もプロ野球とJリーグの会議に陪席させていただいたが、コロナについては専門家の方の意見を踏まえ『厳しい状況』と伺っています。再開のめどが立った時のコロナの状況、政府の方針を踏まえて前進したい」

――「コロナとは切り離して決めた」というが、今回の事件がなければ3月の試合はどうするつもりだったのか。

「それまでの予定で行くと、きょうのプロ野球とJリーグの専門家会議で判断しようと思っていました」

――3月いっぱい休止。4月4日再開の可否は。

「3月の末とは一旦置きましたが、ある意味、(正常化の)証明が遅れるということならそれも伸びる可能性でありますし、内容についてはチームの皆さんと協議して決めたい」

――3月末までの3節を中止することでどのくらいの経済的損失を見込んでいるか。

「すみません、これから清算します」

――6月の損害賠償。改めて。

「6月につきましては試合開催の会場のキャンセル料、交通費を当該のチーム(トヨタ自動車)に負担していただきました」

――規模は。

「すみません、いま、頭の中に入っていないです。数百万だと思います。(全試合で)トータルだったと思います」

――3試合分も中止して、リーグの競争性は成立するのか。

「再開できることを想定して、リーグのコンペティションをするしかない」

――休止した試合の勝ち点は。

「勝ち点についてはチームさんと協議しながらやりたい」

――2021年に開幕予定の新リーグへの影響は。

「これはいま、新リーグ準備室の方でチームさんに説明していますが、信頼回復という意味では盛り込まなければいけない。レギュレーション等でそういったようなことが起きないような規定を整備していかなきゃいけない」

 以上、会見内容を中止という措置の妥当性、中止期間におこなわれること、新型コロナウイルスへの対応、中止に伴う経済的な損失、再開後のリーグ戦および新リーグという項目に分けて紹介した。周囲の声などを交えた分析記事は他媒体等で紹介予定。

 本稿で付け加えるとしたら、ひとつ。

 今回の決定に「反論」はなかったとする回答には、首を傾げたチーム関係者もいた。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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