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アジア最終予選に臨む22名が発表、アウェーの会場は未決定。なでしこジャパン、勝負の2週間がスタート

松原渓スポーツジャーナリスト
パリ五輪アジア最終予選に臨むなでしこジャパン(写真:ロイター/アフロ)

【WEリーグから10名、海外組が12名】

 パリ五輪アジア最終予選の北朝鮮戦に臨むなでしこジャパンのメンバーが2月8日に発表された。

パリオリンピック2024 女子サッカー アジア最終予選 対 朝鮮民主主義人民共和国女子代表メンバー

 主軸では、12月のブラジル遠征で負傷した宮澤ひなたと1月末の皇后杯で負傷した猶本光が外れた一方、直近の公式戦7試合で6ゴールと好調の上野真実が約1年半ぶりに呼ばれた。また、ブラジル遠征でメンバーを外れていた高橋はなと千葉玲海菜が復帰。18歳の谷川萌々子と古賀塔子も選出されており、国内のWEリーグから10名、海外組は12名となった。上野、谷川、古賀、2次予選で活躍した千葉玲海菜と中嶋淑乃の5人は、昨年10月のアジア競技大会で金メダルを獲得。同大会では国内組を中心とした別編成の代表で北朝鮮に4-1で快勝しており、その経験値もチームの強みとなるだろう。

上野真実
上野真実写真:森田直樹/アフロスポーツ

 なでしこジャパンは昨年の下半期から新しい布陣にトライしている。

 昨夏のワールドカップでは、相手にボールを持たれることも想定した3バックをベースに堅守と鋭いカウンターを磨き、スペイン戦ではボール支配率21%で4-0と快勝。準々決勝のスウェーデン戦では個の力と戦略のバリエーションの多さに屈したが、ベスト8進出という結果は、発展著しい女子サッカー界の趨勢を考えれば、期待に大きく応えるものだった。

 その後のアジア2次予選では、自分たちがボールを保持しながら主導権を握ることを想定した4-3-3の新システムにトライ。攻撃のバリエーションを増やしながら2次予選を3連勝で勝ち上がり、12月のブラジル遠征では、過密日程の中で1勝1敗と、強豪国相手にも戦える手応えを掴んだ。

 だが、北朝鮮はアジアではオーストラリアに並ぶ難敵だ。フィジカル面では欧州勢に引けを取らない強度を持ち、アジア特有の球際の粘り強さもある。昨年10月のアジア競技大会では結果こそ4-1と差が開いたが、北朝鮮の球際の激しさは暴力的なほどで、ファウルやオフザボールの駆け引きも含めて、勝利への強い執着心を示した。

球際は容赦ない
球際は容赦ない写真:ロイター/アフロ

「1人1人の走力やゴールに向かうプレー、ロングボールを使った背後への狙いなど、ゴールへの推進力があるチームだと思います。対人も強いので、守備ではしっかりと準備しなければいけませんし、攻撃では相手が強くくる守備を逆手にとって、プレッシャーをうまくかい潜るようなボールの動かし方、見ているスペースの共有を進めながらゴールを目指したいと思っています」

 池田太監督は、北朝鮮への対応についてそのように分析。ロングボールに強さやスピードのあるフォワードが抜け出す形は、育成年代から見られる強みだ。普段からそうした高いインテンシティの中で戦っている海外組の存在もカギになりそうだ。

【アウェーは中立国開催になる可能性も。問われる準備の質】

 試合は2月24日にアウェー、28日にホームで行われ、2試合合計のスコアで上回った方がパリへの切符を掴む(スコアが同じだった場合は2戦目の会場で延長戦が行われ、それでも決まらなければPK戦で勝敗を決する)。

 アウェーの試合は当初、北朝鮮の首都・平壌の金日成スタジアムで開催と発表されていたが、現在はアジアサッカー連盟(AFC)が北朝鮮サッカー協会(PRK)に、中立地での開催を打診しているという。日本サッカー協会(JFA)が、その通知をAFCから受け取ったのは2月上旬。佐々木則夫女子委員長によると、「平壌開催の可能性がゼロではなく、中立国での開催も提案としてある中で、AFCからの連絡を待っている」状況だという。つまり、開催まで2週間強と迫った段階で、開催地が決まっていないという異例の状況だ。

 会場変更の可能性が生じた背景には、北朝鮮への定期便がないことや、競技運営の観点でオペレーション面の不透明さなどがある。当初使用される予定だった金日成スタジアムは人工芝で、北朝鮮の2月の平均気温は−2度。日本(5度)よりも約7度低い。加えて、同会場はグラウンドの視察もできない状況だという。

「人工芝の凍っているところは危険だし、そこでトレーニングや試合をするリスクもあり、選手を守るという観点で考えれば『安全な会場』とは言えないところがあります」(佐々木女子委員長)

 中立地開催となる場合、AFC主催の大会の会場としての経験値が高い中国になる可能性が高いと見るが、タイやマレーシアなどの温暖な地域での開催も、コンディションを考えれば望ましいのではないだろうか。

 池田監督はどのような状況でも戦える自信を見せる。昨年10月のアジア2次予選では試合会場が直前で変更になり、慣れないピッチにも苦労した。季節が反転する南半球での連戦や長距離移動も経験してタフさを身につけてきた。

「(選手たちとは)想定外のことが起きるかもしれないと話してきたので、準備の部分では動揺なく声をかけていければと思っています。選手もそれぞれの場所で様々な経験を積んでいるので、一人一人のコンディションや、チームでやるべきことにフォーカスして、注力していきます」

池田太監督
池田太監督写真:ロイター/アフロ

 28日に国立競技場で行われるホーム戦の、チケットの販売状況は1万枚程度とのこと。アウェーのゴール裏がすでにかなり埋まっており、押さえている座席数は約3,000枚とも聞く。大勢の北朝鮮サポーターが詰めかけると予想される。

 なでしこジャパンが北朝鮮と国立競技場で試合をするのは2004年のアテネ五輪アジア予選以来。当時、日本は荒川恵理子と大谷未央のゴールで、それまで13年間勝てていなかった北朝鮮に3-0で勝った。その背景には、史上最多となる31,324人の観客が日本を後押ししたこともあり、日本女子サッカー界のターニングポイントとして語り継がれる一戦となっている。今回の予選でもホームアドバンテージを活かすために、集客面でも起爆剤が欲しいところだ。

 13日から行われる国内合宿を経て、なでしこジャパンは決戦の地へと乗り込む。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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