なでしこジャパンが最長1カ月の長期戦へ。ガーナとの国内ラストマッチは“仮想ナイジェリア”
【合宿初日から高強度のトレーニングを実施】
パリ五輪に臨むなでしこジャパンが、7月13日(土)に国内最後の親善試合を行う。会場は石川県金沢市のゴーゴーカレースタジアムで、対戦相手はFIFAランキング65位のガーナ(日本は7位)。この試合は「能登半島地震復興支援マッチ がんばろう能登」と銘打たれ、チケット収入は、日本サッカー協会(JFA)が同額を加えた「サッカーファミリー復興支援金」として復興に充てられる。
パリ五輪に出場するメンバーが発表されてから約1カ月。バックアップメンバー4名を含む22名の選手が、7月8日に千葉県で集合した。4日間の合宿を行い、11日に金沢に移動、13日にガーナとの親善試合を行った後に五輪開催地のパリに入る予定だ。ここから最長で約1カ月に及ぶ長期戦となる。
海外組を含むほとんどの選手はシーズンを終えて一時帰国し、オフでリフレッシュしてからの集合となった。気温が36度を超える猛暑日となった初日は軽い調整で済ませるかと思われたが、ボールを使った強度の高い練習を2時間近く行い、報道陣を驚かせた。池田太監督は前回の6月のスペイン遠征の際に、こう伝えていたという。
「試合までの日程を逆算してしっかりオフの間に回復もしつつ、(合宿)初日にはボールを使ってトレーニングしながら、対人も含めてある程度の強度を持ってやっていきたい」
五輪はワールドカップよりもハードな中2日での連戦となるため、コンディション調整はより繊細なマネジメントが求められる。千葉県内の合宿地はオフ期間中もグラウンドが開放されていたため、オフを早めに切り上げて体づくりに励む選手が多かったようだ。田中美南もその一人だ。
「(初日の)1週間前からトレーニングしていましたが、ほとんどの選手が来ていたし、スタッフも毎日来て、もう合宿が始まっているんじゃないかというぐらいきつい練習メニューをこなしていました」
10日には、ヴィアマテラス宮崎(なでしこリーグ1部)とのトレーニングマッチ(30分×3本)を実施。3-4-3の基本フォーメーションで臨んだなでしこジャパンは、相手のハイプレスに苦しんだものの、メンバーを変えながら徐々に主導権を握り、5-0で勝利。スコアだけ見れば快勝だが、ビルドアップや守備のスイッチの入れ方などには課題も残した。6月のニュージーランドとの2連戦でもトライした守備時の3バックと4バックの使い分けをスムーズにしていくことは、五輪本番への修正点となりそうだ。
【海外組は14人に。ケガから復帰の宮澤は一回り大きく】
前回の東京五輪を経験したメンバーは8人で、過半数が五輪初経験。だが、昨夏のワールドカップはほとんどのメンバーが経験しており、チームとしての経験値は浅くはない。代表では、海外に挑戦する選手が増加の一途を辿っている。今オフには清家貴子、山下杏也加、田中の海外挑戦が発表され、18人中14人が海外組になった。国内(WEリーグ)の空洞化は心配だが、強豪国(リーグ)やビッグクラブの女子スカウト網が整備され、実力ある選手は容赦なく引き抜かれる時代になっている。
昨夏のワールドカップで得点王になり、マンチェスター・ユナイテッドに移籍した宮澤ひなたは、昨冬に負った足首骨折のケガを乗り越え「復帰してから3カ月経つのでもう万全です」と、五輪での活躍を誓っている。「足の中に違うもの(プレート)が入っているので足の感覚は今までとは違う部分がある」というように、術後の違和感は残っているが、リハビリを通じて自分の体と向き合う時間が増え、総合的にパワーアップした。「世界で戦う上でも線が細いと感じていた」という課題と向き合い、体重は2〜3kg増加し、見た目にも体格が一回り大きくなった。日常からリーチの大きい選手と競い合うことで、持ち前のスピードの向上にも手応えを感じているという。
「運動会で、前に速い人がいるとついて行こうとして足が速くなるじゃないですか。(イングランドの選手は)日本人と違ってストライドが大きいので、ついていくために足の回転数が上がりますし、常に速い選手と競えているのは嬉しいことです」
マンUではパサーとして周囲を生かすプレーが多いが、なでしこジャパンではそのスピードをフィニッシャーとして生かす場面を見たい。
また、シュート練習では、チェルシーの浜野まいかがシュートレンジの広さと精度の高さを示して好調をアピールしていた。成長著しい20歳のストライカーは、今大会のジョーカーになるかもしれない。
【ガーナ戦の見どころは守備陣の対応】
パリ五輪では7月26日に初戦でスペイン(世界ランク1位)、29日に第2戦でブラジル(同9位)、8月1日に第3戦でナイジェリア(同36位)と戦う。13日のガーナ戦は、“仮想ナイジェリア”戦になる。
ガーナの愛称は「ブラック・クイーンズ」。10年前はアフリカでトップクラスの強豪国だったが、現在はアフリカ内のランキングが5位まで下がり、低迷している。そこで、1年半前にスイス人のノラ・エリザベス・ハウプトゥル監督を招聘し、現在は古豪復活に向けて邁進している。来日したメンバーリストを見ると、22名中19名が海外組だ。国内リーグは20チームで構成されているが、環境は決して良いとは言えない。プレイヤーの70%以上が20歳以下の選手で、年齢が上がると収入やレベルアップのために海外挑戦するケースがほとんどなのだという。前日公式会見に登壇したハウプトゥル監督は、ガーナのサッカーについてこう力説した。
「ガーナのDNAはポゼッションです。国内のピッチはでこぼこしているので、ポゼッションするために磨いたテクニックが強みになると考えています。ポゼッションを軸に、守備や攻守の切り替えのスキルをプラスしていきたい。システムは一つではなく、さまざまなシステムで戦えるようにチーム、選手を育てていきたいと考えています」
ポゼッションは日本にとっても“お家芸”であり、相手が格上ならともかく、ランキング下位の相手にボールを渡すわけにはいかない。ポゼッション対決は見どころだ。
選手たちにとって、アフリカ勢にやりづらいイメージはないようだ。長谷川は言う。
「(グループステージで対戦する)ナイジェリアは前に強い選手や、速い選手がいますが、ワールドカップでは(初戦で)しっかりザンビア戦で対策できたので、そういう相手に対して理想の攻守の形は持てていると思います」
日本にとってやりづらい展開になるとすれば、ガーナがスピードやバネを生かした縦に速い攻撃をしてきた時だろう。守備陣の対応がポイントとなる。
なでしこジャパンのセンターバックは、熊谷紗希、南萌華、高橋はな、古賀塔子の4人。このポジションには3バックと4バックを使い分ける戦術的柔軟性やフィード能力に加え、身体能力でも海外選手に匹敵する資質が求められるようになった。その点は、板倉滉、町田浩樹、冨安健洋、伊藤洋輝らが最終ラインに構える森保ジャパンに通じるところではないだろうか。
ガーナのロングボールを跳ね返しつつ、効果的な縦パスをどれだけ入れることができるか。熊谷とともにディフェンスリーダーの一端を担う25歳の南は、最終ラインの構成に自信を見せる。
「3バックでも5バックでも、距離感をよくすることで相手に強くいける場面が増えてきたし、体格がいい選手や強い選手がいる強みをシステムのところでうまく出していけたらと思います。しっかりコミュニケーションを取りながら、『鉄壁』と言われるぐらいの守備を構成していきたいです」
五輪初戦まであと2週間。いい流れを作る意味でも、ガーナ戦は内容の伴った快勝に期待したい。
試合は13日15:20キックオフ。フジテレビ系列で生中継される。
*表記のない写真は筆者撮影