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昆虫(たまに蜘蛛)の超絶擬態を暴く⑦=松葉にしか見えない蜘蛛、オナガグモ

天野和利時事通信社・昆虫記者
松葉のようなオナガグモ(左)を刺激すると尻の長い異様な蜘蛛の姿に。

 今回は昆虫ではなくて蜘蛛(クモ)だ。オナガグモと呼ばれるこの蜘蛛の擬態は、あまりにも完璧なので、「擬態コーナー」で紹介しないわけにはいかない。

 細い1本の糸の上で静止している時のオナガグモの姿は、緑色(茶色のもいる)の針のようで、生き物とはとても思えない。松葉が1本、宙に浮いている様子を想像すれば、それがまさにオナガグモの姿だ。

 松葉でなくとも、細い棒状のゴミのようなものは、森の中にはいくらでもあるので、そうしたゴミに紛れたオナガグモの姿に気付く人は、ほとんどいない。一般的なクモとは違って螺旋状の網のような巣を作らず、数本の糸を直線状に張るだけなので、巣を頼りにオナガグモを見つけるのも難しい。

オナガグモがこんな状態だと誰も蜘蛛だと気付かない。
オナガグモがこんな状態だと誰も蜘蛛だと気付かない。

オナガグモが脚を広げて蜘蛛の正体を現す時は、長い尻を突き上げるポーズになることが多い。
オナガグモが脚を広げて蜘蛛の正体を現す時は、長い尻を突き上げるポーズになることが多い。

 しかし、オナガグモは珍しい蜘蛛では全くない。ちょっと自然の豊かな公園なら、どこにでもいると言ってもいいぐらいだ。その存在を知り、目が慣れてくると、あちこちの茂みにこのクモがいることに気付く。

 そして、その存在に気付くと、いたずらをしたくなる。棒になり切っているオナガグモを見つけるたびに、指先で突いてみるのだ。すると、危険を感じたオナガグモは突然、擬態に見切りをつけ、8本の脚を見せてスタコラと逃げ出す。そして昆虫記者は、弱い者相手に勝ち誇り、「擬態敗れたり」と叫ぶのだ。

1本の糸につかまって宙に浮く、棒状のオナガグモ。
1本の糸につかまって宙に浮く、棒状のオナガグモ。

卵嚢(らんのう)を守るオナガグモ。たまたま松の木にいたが、擬態の都合で松を好むわけではない。
卵嚢(らんのう)を守るオナガグモ。たまたま松の木にいたが、擬態の都合で松を好むわけではない。

 グループで虫探しをする際には、オナガグモを知らない人がいることも多い。そんな時にはよくこの遊びをやって見せる。突かれたオナガグモが動き出して初めて「うわー、ほんとだ。これ蜘蛛だったんだ」と驚く人の顔を見るのは楽しいものだ。

 しかし、何度もしつこく繰り返すと「またやってるよ」と呆れられるので、ほどほどにしておくのがいい。(写真は特記しない限りすべて筆者撮影)

時事通信社・昆虫記者

天野和利(あまのかずとし)。時事通信社ロンドン特派員、シンガポール特派員、外国経済部部長を経て現在は国際メディアサービス班シニアエディター、昆虫記者。加盟紙向けの昆虫関連記事を執筆するとともに、時事ドットコムで「昆虫記者のなるほど探訪」を連載中。著書に「昆虫記者のなるほど探訪」(時事通信社)。ブログ、ツイッターでも昆虫情報を発信。

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