「夫が雪の斜面に投げ落とされ、顔は墨で真っ黒に」。新潟県・松之山温泉の奇祭が開催
新潟県十日町市の名湯・松之山温泉で、毎年1月15日に開催される小正月の伝統行事がある。奇祭「むこ投げ・すみ塗り」だ。
「婿(むこ)投げ」は、前年に結婚した婿を、薬師堂前の高さ5メートルの崖から投げ落とす。略奪結婚の名残で、よそ者に集落の娘をとられた若者たちの腹いせが形を変えたものだと伝わる。現在は、結婚の祝福と夫婦の絆がかたくなることを願って行われている。
和装の婿たちが次々と宙に舞い、雪の斜面を勢いよく転げ落ちる。そのたびに見学者から歓声があがる。投げられた婿たちも幸せそうだ。
婿投げが終わると、「墨塗り」がスタート。「おめでとう」と言いながら顔に墨を塗り合う。約600年前から続く、無病息災を祈る伝統行事だ。
顔に塗る墨は、賽の神(しめ縄などでつくった塔)を燃やした灰と雪を混ぜてつくる。
「全員が墨で塗られるまで終わらない」という地元の人の言葉通り、主役の新婚夫婦だけでなく、外国人観光客やメディア関係者、警備の警察官にも容赦ない。
もちろん、取材中の筆者も顔面真っ黒に。最初は戦々恐々だったが、一度塗られてしまえば、不思議と愉快な気分になる。
墨を塗られても温泉があるから安心だ。祭りの後は、旅館や日帰り温泉で墨を落とし、身も心もさっぱりできる。
なお、松之山温泉は、草津温泉、有馬温泉とともに「日本三大薬湯」と呼ばれる名湯。塩分の濃い温泉で、体の芯までポカポカと温まる。
2023年の「むこ投げ・すみ塗り」も1月15日に開催される。近くの方は世にも珍しい奇祭を見学に出かけてみてはいかがだろうか。もちろん、墨を塗られる覚悟で。