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草笛光子90歳主演作が話題だが、全米では94歳の主演映画が同日公開。インサイド・ヘッド続編では声も!

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『インサイド・ヘッド2』のプレミアでのジューン・スキッブ(写真:REX/アフロ)

6/21に公開された『九十歳。何がめでたい』が好調な滑り出し。大きな話題となっているのが、主演の草笛光子がタイトルどおり、現在90歳であること。元気いっぱいに映画の中心で活躍している姿が、多くの人を勇気づけ、こうしてヒットにつながっているのは間違いない。

「映画の主演」ということで、本作の草笛は日本の女優ではおそらく最高齢記録(公開時の年齢)。それまでの杉村春子(『午後の遺言状』で89歳)、赤木春恵(『ペコロスの母に会いに行く』で88歳)らの記録を更新した。男優では2023年の『SPELL〜呪われたら、終わり〜』で大村崑(寺西優真とのW主演)が、公開時の10月で91歳。その直後の11月に92歳を迎えた。

ハリウッドに目を向けると、なんと94歳の女優が主演を務めた映画が作られた。偶然にも『九十歳。何がめでたい』と同じ、6/21公開だ。アクションコメディ『Thelma(テルマ)』。主演のジューン・スキッブは1929年11月6日生まれ。

スキッブは、1950年代にクリーブランドの地方劇団で俳優としてのキャリアを始め、ブロードウェイのミュージカルなどにも出演。映画初出演は、ウディ・アレン監督の『アリス』で、61歳の時。その後、72歳で『アバウト・シュミット』のジャック・ニコルソンの主人公の妻を演じ、2013年の『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』ではアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。この時、84歳。草笛光子とは対照的に“超遅咲き”ながら、日本でも映画ファンなら「この顔、観たことある」という存在になったのである。そのジューン・スキッブにとって、人生初となる「主演映画」が『テルマ』なのだ。

93歳のテルマが「孫を刑務所から出すには1万ドルが必要」というオレオレ詐欺に遭ってしまい、奪われたものを取り返すために親友とともに大暴走する。監督の祖母(現在103歳)のエピソードから生まれた物語で、ジューン・スキッブは電動スクーターや銃撃のアクションなど、多くのスタントを志願して自分でやりとげたという。アッパレだ。

スキッブは今年4月に全米公開されたコメディ『Don’t Tell Mom the Babysitter’s Dead』(カルト映画として知られる1991年の『ドリーム・ガール/ママにはないしょの夏休み』のリメイク)でもメインキャストの一人を務めており、むしろ今、キャリアが最高潮にあると言っていいかも。93歳で…奇跡か!?

残念ながら『テルマ』も『Don’t Tell〜』も、日本での公開/配信はアナウンスされていない(そのうち、どこかで観られるはず)。しかしジューン・スキッブの活躍は、この夏、日本でもヒット確実のディズニー/ピクサー新作『インサイド・ヘッド2』(8/1公開)で確認できる。

スキッブが演じているのは、新たな感情キャラクターの一人、ナツカシ(Nostalgia)。その名のとおり、過去を懐かしむキャラで、外見は人の良さそうなおばあちゃん。まさにスキッブのイメージそのもの。それほど出番は多くないが、ポイントでコメディリリーフ的に現れ、強いインパクトを残している。この『インサイド・ヘッド2』、日本では日本語吹替版が主体の公開となるが、チャンスがあれば字幕版でスキッブの声の名演技を堪能してほしい(配信になった際は、言語の切り替えでぜひ!)。ピクサーの公式予告編で、その姿を一瞬観ることができる。

驚くのは、この後のラインナップ。ジューン・スキッブは、さらに3作も、主役、あるいはメインキャストの一人を演じた映画が控えており、その中にはスカーレット・ヨハンソンの初監督作『Eleanor the Great(偉大なるエレノア)』も入っている。90歳のエレノアが親友の死をきっかけに、人生を立て直そうとフロリダからNYへ引っ越してくる物語。公開時は大きな話題になること、間違いない。

94歳にしてこの売れっ子ぶりは尋常ではない。この年齢で俳優のキャリアがピークになるというのは、世界を見渡しても超レアなケース。ジューン・スキッブの活躍は、草笛光子をはじめ日本の俳優にも“映画主演最高齢の記録”を目指す、さらなる勇気を与えるのではないか。そして何より、人として現役生活を長く続ける希望をもらえる……という意味で、彼女の存在は「宝」なのである。

2014年、アカデミー賞授賞式のレッドカーペットで
2014年、アカデミー賞授賞式のレッドカーペットで写真:ロイター/アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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