仮面ライダーは「バッタの改造人間」。いったいどんな改造をしたのだろうか?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。
マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。
さて、今回の研究レポートは……。
『シン・仮面ライダー』がモーレツに面白い!
石ノ森章太郎先生の原作マンガと、テレビシリーズの初期への熱いリスペクトが感じられ、子ども向けだった『仮面ライダー』をリアルに描くと、確かにこうなるかも……と思える説得力が随所に溢れている。
『シン』においても、本郷猛=仮面ライダーはバッタの改造人間(劇中では「バッタオーグ」と呼称)だ。
しかも、敵から「バッタ野郎」と呼ばれたり、本郷には「孤独相」のバッタの能力が植えつけられたことが明かされたりするなど、ライダーのバッタ度が強調されているのが、とても興味深い。
ぜひとも空想科学で考察したいけど、これから『シン・仮面ライダー』を観る人も多いだろうから、深入りするわけにもいかない。
そこで「かつての仮面ライダー」に対して、ショッカーがどんな改造手術を行ったのか……を推測した原稿を、ここで公開しよう。
2014年に『ジュニア空想科学読本➁』に掲載した原稿で、昭和の『仮面ライダー』を知らないであろう子どもたちに向けて書いたものだ(一部加筆)。
今回の映画の内容とも一部関連するので、『シン』を堪能した方にも楽しんでいただけるはず。
『シン・仮面ライダー』についての考察は、後日あらためて行うつもりなので、しばらくお待ちください。
◆『仮面ライダー』とは?
仮面ライダーシリーズの出発点は、1971年に放送されたTV番組『仮面ライダー』だ。
最初のうちこそ視聴率は低かったが、途中からぐんぐん人気が出て、やがて「変身!」という言葉が流行語になるなど、大ブームになった。
筆者を含めて、当時の子どもたちの心に深く染み込んだのが、オープニングの歌を締めくくっていたナレーションである。
その言葉は、『仮面ライダー』の世界観を簡潔に説明していた。
仮面ライダー=本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界制覇を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは、人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!
う~む、いま思い出してもカッコいい。
だが、子どもの頃から気になっていたことがある。
ここでいう「改造人間」とは何なのか?
悪の秘密結社ショッカーは、蜘蛛男や蜂女やサボテグロンやキノコモルグなど、動植物や菌類の能力を人間に移植した怪人を作り出し、世界征服計画の尖兵としていた。
彼らは怪人を「改造人間」とも呼んでいたから、ショッカーの「改造」とは、人間に別の生物の能力を植えつけることだと考えられる。
われらが仮面ライダーも、そんな改造人間の一人だった。
脳改造の手術を受ける直前に逃げ出した本郷猛は、改造手術によって得た力を使い、一人ショッカーに立ち向かう。
そして、彼が能力を付与された生物とは、バッタであった。
◆どんな「改造」なのか!?
正義の味方が手にしたのは、バッタの能力。
それってカッコイイのか……と複雑な気持ちになるが、まずは「バッタの能力」を調べてみよう。
手元の昆虫図鑑の「トノサマバッタ」の項目には、次のような解説がある。
オスは体長35~45mm、メスは45~65mm。
7~10月にかけて、主に乾いた草地で見られる。
群れない「孤独相」と、群れる「群生相」がある。
前者は後脚が発達してジャンプ力が高く、後者は翅が発達して飛翔能力に優れる。
おお、「群れない孤独相はジャンプ力が高い」というのは、まさに孤高のヒーロー・仮面ライダーにぴったりではないか。
仮面ライダーのジャンプ力は25m、必殺技はその跳躍力を活かしたライダーキックなのだから。
ショッカーの「本郷猛+バッタ」という改造方針は、結果的に大成功だったといえるだろう。
だが、人間にバッタの能力を植えつけることが、そう簡単にできるのか。
冒頭のナレーションで、本郷猛は手術台に縛りつけられ、外科手術を受けていた。
このときショッカー科学陣は、本郷にどんな手術をしたのだろう?
バッタの脚力を最大限に活かそうと思ったら、本郷猛の上半身と、バッタの下半身を組み合わせるのがベストだろう。
本郷猛の知能指数は600もあるから、その頭脳は活かしたいし、またバッタの飛翔力を生み出す後ろ肢も温存したいからだ。
しかし、人間とバッタでは、体の作りが根本的に違う。
人間の体は、骨を筋肉や皮膚が包む「内骨格」である。
一方、バッタなどの昆虫は、骨の役割を果たす殻が筋肉を包む「外骨格」だ。
つまり、骨と筋肉の位置関係が正反対。これをいったいどうやって組み合わせるのか。
そもそも、体の大きさもまるっきり違うし……!
◆敵だ! よし逃げよう!
本郷猛は、身長180cm・体重70kgという立派な体格である。
これを体長4cmほどのバッタと無理に組み合わせると、確実に弱くなる。
したがって、ショッカーは本郷の骨格には手をつけず、ジャンプ力に優れたバッタの筋肉を移植した、と考えるべきだろう。
また、筋肉を動かすには、脳の命令を伝える神経も必要だ。
ショッカーは筋肉といっしょに、神経も移植したのだろうか。
バッタなどの昆虫は、筋肉につながる神経が肢のつけ根で塊を作り、脳と同じような働きをしている。
肢や翅は頭部の脳から独立して、外界からの刺激に反射的に運動する仕組みになっているのだ。
バッタの跳躍力を活かすためには、この神経システムも移植したいところだが、すると困ったことになる。
ショッカーを憎む本郷猛がどれほど熱烈な戦闘意欲を持っていようとも、敵が近づくと足が勝手に反応し、ピョンピョン逃げてしまう!
草食動物のバッタにはこのほうが生きていくのに好都合だが、正義のために戦う仮面ライダーには、あまりにも不都合……。
◆みんなでバッタを捕まえよう!
ショッカーの高度な技術力で、これらの問題を解決したとしても、やはりサイズの問題が立ちはだかる。
人間は体重の40%が筋肉であり、そのうち3分の2を下半身が占める。
体重70kgの本郷猛の場合、両脚の筋肉は19kgだ。
これをバッタから集めるのは大変だろう。
トノサマバッタのオスは体重1.6g、ジャンプにかかわる筋肉は、体重の5%というデータがある。
すると、バッタ1匹から採取できる筋肉は、たったの0.08g!
これを集めて19kgにするために、ショッカーが捕まえねばならないバッタは、実に24万匹!
群生相なら大発生したときに一網打尽にする方法もあろうが、前述のように、ジャンプ能力が高いのは群れを作らない「孤独相」なのだ。
世界制服を企てるショッカーは、まず全国の草むらに戦闘員を散開させ、この大捕獲作戦を成し遂げなければならない。
しかも、昆虫図鑑には、バッタは「人の気配に敏感で、捕まえるのは至難」などと書いてあるから、その作戦は、世間に対してはもちろん、バッタに対しても秘密を第一に遂行する必要がある。
こうして無事24万匹のバッタを捕まえたら、ショッカーの科学陣はその小さな足から筋肉を取り出し、本郷猛に移植する。手術は当然、24万回。
すべての改造手術が済むまで、どれだけの時間がかかったことやら……。
改造人間・仮面ライダーは、ここまでの苦労をして生み出されたのである。
ところが、脳改造の直前まで漕ぎつけながら、ショッカーは彼に逃げられてしまった。
しかも敵に回られて、世界征服の最大の障害となった。
そのときのショッカーの人々のガッカリ感を思うと、筆者はついうっかり悪に同情してしまいそうになる。
もちろん『仮面ライダー』にバッタを捕まえるシーンなど出てこないが、ライダーキックなどバッタの飛翔力を活かして戦う描写は頻繁に出てくる。
素晴らしく面白い作品なので、機会があれば『仮面ライダー』をぜひ見ていただきたい。