くすぶっている人のハートに火をつける方法
■「冷めている」のではなく……
「冷めてるのとは違うと思います。くすぶってるだけです」
クライアント企業の営業からそう言われて、私は少し考えました。
(くすぶってる?)
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。「絶対達成」という言葉を使っている以上、数字にはこだわりを持ちます。数字が達成していないと、奮起するよう呼びかけるのは当然です。が、その思いが空回りすることも、しばしばあります。
あるクライアント企業の支援に入っているとき、その企業の社長が、ひとりの営業に言ったのです。
「最近、冷めてるな。昔は、もっと熱い性格だったのに」
このような社長の発言に対し、しばらく沈黙したあと、その営業が放ったのが冒頭の言葉です。冷めているわけではなく、くすぶっているだけだ――と。かなり不機嫌そうな態度で、です。
(そういえば、くすぶってるとは、どういう意味だろう)
私の中には疑問が残りました。
社長は意に介さず、「とにかく、くすぶってないで結果を出せよ」と頭ごなしに言っていましたが。
■「くすぶる」とは、どういう意味?
何気なく使っている「くすぶる」という表現。どういう意味か調べてみると、『ついている火が炎を立てずに、煙ばかりを出している状態』と辞書には載っています。
なるほど。
言葉の意味合いを考えると、「冷めている」と「くすぶっている」とでは、かなり違うようです。ですから「冷めてんじゃねーよ」と指摘されたら、その人はカッとなることでしょう。外からはわかりませんが、まだ内側に火種があるからです。
冷めている人を熱くするのは簡単ではありません。しかし、くすぶっている人のハートに火をつけ、奮い立たせるのは、それほど難しくないのです。燃えあがるための「空気」を効果的に送り込むだけでいいですから。
■「針葉樹タイプ」の特徴
私は人を「針葉樹タイプ」と「広葉樹タイプ」との2種類に分けて見ることがあります。
先がとがり、細い葉を持つのが針葉樹で、扁平な形の葉を持つのが広葉樹と呼ばれています。(一般的には)
スギ、ヒノキ、カラマツといった針葉樹は火がつきやすい。このため、薪ストーブでは着火のために使われることがあります。ただし急激に高温になるため、薪ストーブ本体が破損する恐れがあります。
これは人間でも同じですね。火がつきやすい人は、周囲と軋轢を生むことがあります。あまりにその火力が強いと、チームが破損する恐れがありますから、同じように気を付けるべきです。
いっぽう、火持ちが悪いことも針葉樹の特徴です。この特徴もまた人間にも当てはまることでしょう。
■「広葉樹タイプ」の特徴
ナラ、サクラ、ケヤキといった広葉樹は、反対に火がつきづらい。しかし、ひとたび火がつくと、なかなか消えません。つまり火持ちがいいのです。針葉樹のように、瞬発的に火力が強まることもないため、火力を調節しやすいというメリットがあります。
人間でも、広葉樹のようなタイプの人はいます。なかなか燃えない性格ですが、一度でも情熱の火がついたら、そう簡単には消えない人です。そのような人なら、モチベーションなど関係なく、強い意志で淡々と進んでいきます。
外部環境の変化があっても、簡単には火を消すことができないことでしょう。
■ くすぶっている人のハートに火をつける
くすぶっている人は、前述したとおり、まだ内側に火種を残しています。したがって、何らかのきっかけがあれば、また火がつき、燃え上がる可能性を秘めています。
ですから、くすぶっている人を批判するような言葉をかけるのはやめましょう。「水を差す」とは、まさにこのことです。火種が消えてしまいますから、完全に気持ちが冷え切ってしまうこともあります。
くすぶっているだけなら、まず放っておくことが大事。何からの偶然で風が吹き、自然に着火することはよくあります。
しかし、なかなかそのような兆候が見えない場合は、針葉樹タイプの人をそばに置くのもいい。燃えている人が近くにいると「感化」され、ゆっくりと火種が燃えはじめ、徐々に熱くなってくるかもしれません。
大事なことは、周りに熱い人を配置すること。冷えた人を近寄らせないことです。
巧みな言葉で相手のハートに火を付けられるかというと、意外に簡単ではありません。私がクライアント企業の現場でよくやることは、ピンポイントにその人だけを奮起させようとすることではなく、熱くなりそうな周りの人から着火することです。
組織力で火をつけることが、いちばん確実で、手っ取り早い方法です。くすぶっている人がいたら、環境を変えることも考えてみましょう。