ロシアが武力攻撃を行っているのはウクライナだけではない:シリアで続く諸外国の小競り合い
ロシアが武力攻撃を行っているのはウクライナだけではない。
ウクライナ侵攻の非を浮かび上がらせたいのであれば、ロシアが世界中で行っている不義に着目し、その非道を指弾するのが手っ取り早いように思える。だが、日本をはじめとする西側諸国で、この事実が伝えられることはほとんどない。
アル=カーイダとイスラーム国に対する爆撃
「今世紀最悪の人道危機」に苛まれていると言われて久しいシリアでは4月22日、ロシア軍戦闘機複数機が「決戦」作戦司令室が活動するイドリブ県のルワイハ村を6回にわたって爆撃した。また、同県ザーウィヤ山地方のイフスィム村上空で空対空ミサイルを発射、爆発させた。
ロシア軍はまた、4月23日にも「決戦」作戦司令室が活動するラタキア県クルド山地方のカッバーナ村一帯を爆撃した。
「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)とトルコの庇護を受けるいわゆるTFSA(Turkish-backed Free Syrian Army)ことシリア国民軍傘下の国民解放戦線などからなる武装連合体。
イドリブ県というと、自由、尊厳の実現をめざす「シリア革命」の最後の牙城、革命家たちの「解放区」とされる場所だ。だが、同地の軍事・治安権限を握っているシャーム解放機構は、日本の公安調査庁がウクライナのアゾフ大隊を「国際テロリズム要覧2021」から削除したのとは異なり、国連安保理決議第1267号(1999年10月15日採択)委員会(通称アル=カーイダ制裁委員会)によって国際テロ組織に今も記載されており、米国もFTO(外国テロ組織)に指定している。
ロシア軍はまた4月22日、24日、ラッカ県ラサーファ砂漠、ヒムス県東部の砂漠地帯、ハマー県東部の砂漠地帯で、イスラーム国の拠点などに対して数十回の爆撃を実施した。言うまでもなく、イスラーム国も国際社会がテロリストとみなす組織だ。
攻撃をエスカレートさせるトルコ
シリアで武力行使を行っているのは、ロシアだけではない。
アレッポ県では4月22日、トルコ軍がシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアイン・アラブ(コバネ)市を砲撃し、3回建てのビルが被弾、住民2人が負傷した。トルコ軍はまた、シリア国民軍とともに、ハサカ県のアブー・ラースィーン(ザルカーン)町近郊のダーダー・アブダール村などを砲撃した。これにより、ダルバースィーヤ発電所からアルーク村の揚水所に電力を供給する送電線が被害を受け、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるハサカ市への水道水の供給が停止した。
北・東シリア自治局は、トルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルド民族主義組織のクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む民主統一党(PYD)が主導する自治政体。米国の支援を受け、シリア北東部一帯を実効支配している。PYDは一時期、CIAが「ワールド・ファクトブック」でテロ組織に指定した。だが、指定はその後、解除され、現在に至っている。
トルコ軍は4月23日にも、トルコ軍がシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるアレッポ県マンビジュ市近郊とタッル・リフアト市近郊の村々を砲撃した。
トルコ軍は4月24日になると、無人航空機(ドローン)を投入し、攻撃をエスカレートさせた。ドローンは、北・東シリア自治局の本拠地であるラッカ県アイン・イーサー市近郊のウンム・バラーミール村を爆撃、車1台を破壊した。トルコ軍はアイン・イーサー市一帯の村々を砲撃、これにより住民1人が死亡した。トルコ軍はまた、シリア民主軍とともに、タッル・リフアト市近郊の村々やハサカ県のアブー・ラースィーン(ザルカーン)町近郊の村々への砲撃を続けた。
トルコ軍は4月25日にも、自爆型ドローンでマンビジュ市北のムフスィンリー村を攻撃、シリア民主軍に所属するマンビジュ軍事評議会の拠点を狙い、兵士1人を負傷させるとともに、ハサカ家のアブー・ラースィーン町近郊とタッル・タムル町(ハサカ県)の村々、ラッカ県アイン・イーサー市近郊の村々を砲撃した。
米国がテロ組織指定を解除したクルド民族主義勢力の反撃
トルコ軍による攻撃が続くなか、4月22日には、トルコが占領するアレッポ県北部の「ユーフラテスの盾」地域の主要都市の一つマーリア市で、トルコ軍の装甲車が砲撃を受け、乗っていた兵士3人が死亡した。
砲撃は、シリア政府と北・東シリア自治局の共同統治地から発射された。
また4月22日には、シリア民主軍がトルコの占領地である「平和の泉」地域の拠点都市であるラッカ県タッル・アブヤド市近郊のサリーブ・カラーン村北の国境に面するトルコ領内に向けてロケット弾を発射し、トルコ軍の装甲車を攻撃、乗っていた兵士少なくとも1人を負傷させた。
対抗阻止としてのロシア軍の爆撃
ロシアの爆撃は、トルコ軍による攻撃のエスカレート(そしてそれに伴うシリア民主軍の反撃)への対抗措置としての性格が強い。
ロシア軍が4月24日深夜、トルコの占領地である「オリーブの枝」地域の中心都市アフリーン市近郊のブルジュ・ハイダル村を戦闘機1機で爆撃したのは、そのためだ。
ロシア軍によるトルコ占領地は極めて異例であり、そこには、トルコに自制を求めようとするロシアのメッセージが見え隠れしている。
ロシア軍戦闘機はまた同日、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握るアレッポ県ダーラ・イッザ市上空で発射、これを爆発させ、「決戦」作戦司令室を威嚇した。
同様の威嚇は、22日深夜から23日未明にかけても、「ユーフラテスの盾」地域の主要都市であるアアザース市、バーブ市、「オリーブの枝」地域のアフリーン市上空でも行われ、地一帯で大きな爆発音が複数回にわたって聞こえた。
なお、トルコのメヴリュト・チャヴシュオール外務大臣は4月23日、ロシアの軍用機および民間機のトルコ領空の通過を禁止したと発表した。外務大臣によると、ロシア国籍機のトルコ領空の通過の許可は、3ヵ月ごとに更新されるものだが、おそらくはウクライナ情勢の悪化を受け、更新見送りを決定したものと思われる。
一方、米国は…
こうしたなか、米国は、シリア領内での違法駐留を続けている。
4月22日、武器弾薬と兵站物資を積んだ貨物トレーラーやタンクローリーなど35輌からなる米軍の車列が、イラクとの国境に違法に設置されているワリード国境通行所を経由してシリア領内に不法入国した。また4月25日にも、コンクリート・ブロックや発電機器を積んだ貨物トレーラー36輌からなる車列が、米軍装甲車4輌の支援を受け、ワリード国境通行所を経由してシリア領内に進入、ハッラーブ・ジール村に違法に設置されている米軍基地に向かった。
米国は現在、北・東シリア自治局の支配下にあるユーフラテス川東岸、ヨルダンやイラクの国境に面するヒムス県南東部(タンフ国境通行所一帯)の27ヵ所に基地を設置し、600人とも3,000人とも言われる部隊を駐留させている。
駐留は、イスラーム国に対する「テロとの戦い」、油田防衛を口実としているが、シリアのいかなる政治主体の許可も得てはいない。
これに対して、4月22日、シリア政府と北・東シリア自治局の支配下にあるハサカ県カーミシュリー市近郊のタッル・ザハブ村とムシャイリファ村、サーリヒーヤ村の住民が、シリア軍検問所の支援を受けて、村を通過しようとした米軍の装甲車からなる車列の進行を阻止し、これを退却させた。
だが、こうしたささやかな抵抗で、米軍が違法駐留を止めるはずもない。