「1軍で投げる」初昇格を目指して圧倒的な数字を! 岩田将貴(阪神タイガース)の今季に懸ける思い
■今年に懸ける思い
“背水の覚悟”で臨んでいるシーズンだ。入団4年目の阪神タイガース・岩田将貴投手は今季、何が何でも1軍登板をと意気込む。
九州産業大学から2020年のドラフトで育成1位指名され、2022年には支配下登録を勝ち取った。ところが、ここまでまだ一度も1軍に昇格していない。
「一番わかりやすい立ち位置かなと思う。結果を出さなったら終わりだし、結果を出したらつながるだろうと。それを信じてやるしかないです」。
とにかく「結果」がすべてだと、力を込める。並々ならぬ思いでいることは、痛いほど伝わってくる。
結果を出すための準備は整えてきた。まず、球速をアップさせた。スピード勝負をしているわけではない変則左腕だが、球威はあるに越したことはない。加えて、スライダーの変化量も昨年より多くなったと胸を張る。
「去年はカットっぽいくらいまで(曲がりが)小っちゃくなりすぎていて、スピードもなかった。ただ角度だけで勝負していた感じ。だから左バッターの被打率もまぁまぁ高かった」と省み、改良を加えてきた。昨年より格段によくなった手応えがある。
タイプとして「左打者は抑えて当然」で、その上で右打者も抑えることが価値になる。そこももちろん理解して取り組んでいる。
今季のウエスタン・リーグでは、ここまで8試合、9・1/3回に投げて被安打6で2失点、防御率は1.93。オリックス・バファローズ戦(4月16日・鳴尾浜球場)での、強い風に後押しされた今季初被弾(福永奨選手)が悔やまれる。
被打率を左右別に見ると、対左打者は.067(15打数1安打)、対右打者は.278(18打数5安打)。(数字は4月17日現在)
好成績ではあるが、岩田投手が求めているのはもっと高いレベルだ。そうでないと1軍昇格はないと、己に鞭を入れている。
■先輩左腕・岩貞祐太に弟子入り
今年は、これまで以上に強い決意で新年を迎えた。1月の自主トレは、伊藤将司投手も参加している岩貞祐太投手のもとに弟子入りした。
「50試合登板するような投手と10勝投手がいる。知識も増えるし、考え方も聞けるから。技術とか、どういうふうに意識しているとかっていうのが聞きたかった。一緒に生活することで、僕に足りないものがちょっとわかったんで、それはほんとありがたかったですね。プラスにしかならない」。
これまでは知り合いのトレーナーさんに教わり、鍛えてきたのはフィジカル面のみだった。しかし、先輩左腕たちからはキャッチボールやピッチングでの意識、試合に入るメンタルなど、実戦に即したさまざまなことを聞くことができた。ひたすら頭に叩き込み、ノートにペンを走らせた。
「もう、めっちゃ質問して、それを書いての繰り返しでした。夜、一人になったときに頭に残っているものを全部書き出して、それを何度も見返していました、ずっと」。
トレーニングに関してもバリエーションが増え、体も大きくなった。
2月のキャンプに入ってからも、前半は岩貞投手もファームにいたため「ユニフォームを着て実際にピッチングをして、どういうふうな感じでやられているとか、キャンプの過ごし方とか、またいろいろ聞くことができた。キャッチボールもまた1月とは違う感じでやるから」と、1月に聞けなかったことも、おかわりして学ぶことができた。
■ジェフ・ウィリアムス駐米スカウトに師事
そしてキャンプでは「スライダーをもっとよくしたい」と、昨年に続いてジェフ・ウィリアムス駐米スカウトの指導を仰いだ。
「ジェフさんにはスライダーのスピンのかけ方の練習方法を一つ二つ教えてもらいました。自分のやり方も似てはいるんですけど、意識の仕方というか、もうちょっとこういうふうにかけたらいいみたいなことを聞きました」。
同じ球種でも、人によって握りや縫い目への指のかけ方、リリースなど、それぞれ違う。かつて鉄壁のリリーバー『JFK』の一角を担ったウィリアムス氏からの指南は、岩田投手にとって大きな“武器”になりそうだという。
実際、先述したように昨年より曲がりが大きくなり、実戦でも非常に有効に使えている。
「ジェフさんにも確実によくなっていると言ってもらったから、あとは確率をもっと上げたい。回転がまだよくないときもあるから」。
さらに使い方の幅を広げ、配球パターンをもっと増やしていきたいと意欲を燃やす。
また、ウィリアム氏からは「体ももっとデカくなるよ」とのお墨付きももらい、さらなるビルドアップにも励んでいる。
ウィリアム氏には昨年のキャンプでも指導を受けていた。「去年はフォーム的なことがメインだったけど、今年はもっと上のレベルのことを」と、岩田投手の進歩にうなずくウィリアムス氏はそのストレートを賞賛し、フィジカルの成長を認めた上でステップアップした段階のアドバイスをしてくれた。
「ジェフさんはめっちゃいい人だし、質問にも全部答えてくれる。去年もシーズン中にビデオ通話を何回かしたこともあったんで。試合中の動画を送って、どうだったかっていうのをメッセージで送ってもらって、っていうのをやっていました」。
すっかり師弟関係が構築されているのだ。
ふと疑問が湧いた。シーズン中にもやり取りしているなんて、もしや英語で会話しているのだろうか。
「いや、(英語は)全然です。『グー』くらいしか(笑)。『オッケー』と『センキュー』と、それくらいっす(笑)」。
通訳さんを介しているとのことで、疑問は霧消した。
■梅野先輩からの強力プッシュ
今季の岩田投手の成長には、梅野隆太郎捕手も目を見張る。「球、速くなっとったもん!(春季キャンプ中の)紅白戦で受けたとき、うわっ!速くなっとるわって思って。めっちゃ感じたよ」と驚きを隠さない。
負傷離脱中、「こっち(鳴尾浜球場)におるときしかできんこと、いっぱいあるからね」と若虎たちに対して、愛情をもってつぶさに見てきた梅野選手は、それぞれのいいところに目を留め、ときに助言するなどコミュニケーションを図っていた。
「私情は入れちゃいかんけど、(九州出身選手は)やっぱ気にはなる、みんな」と、とくに同郷である福岡出身の岩田投手には、なんとか1軍で活躍してほしいと願っている。
「自主トレでもすごく頑張ってたみたいやし」と、その努力も耳にしているそうで、「今年に懸ける思いが強いから。記事でも取り上げて、目立たせてあげて。記事で(活躍が)広まるかもしれんやん」と推す。
さらに梅野選手は、岩田投手が1軍で起用されるためのアドバイスを送る。
「一つ言えるのは、今の時代は1イニング投げないかん。昔はワンポイントで稼ぐ人もおったけど、1イニング投げられる能力を持たないと。左は抑えて当たり前、右をどう抑えるか。右に対する投球を考えること。コツコツやって、少ない機会をモノにしていかなあかん立ち位置やから。でも、今年はチャンスやん。なべじぃ(渡邉雄大=現福岡ソフトバンクホークス育成部スタッフ)もいなくなってね」。
稀有な存在である変則左腕をアドバンテージに、どんどんアピールしていけと背中を押していた。
■新相棒はザナックス社のグラブ
新たな力も得た。ピッチャーの“相棒”であるグラブだ。今年からザナックス社の提供を受けることになったグラブは、「めちゃくちゃ使いやすい。球速が上がったのも、グラブの影響がプラスされている」と明かす。
「僕、投げるのにトップを作ったときに薬指を丸め込む感じなんですけど、グラブを引く瞬間に薬指を主体しているということを伝えたら、そのとおりに作ってくれました。薬指を使いやすいようになっています」。
要望を反映してくれているザナックス社に感謝しきりだ。
色は仲のいい湯浅京己投手とともに考案し、シャンパンブラウンをメインに紐などを緑のものと紫のものの2パターンあつらえ、どちらもおそろいで使っている。
「初めて使う色やったので、そうしました」と、緑が岩田投手セレクトの色だ。はめた瞬間の感覚がよかったので、緑のものを試合用にしているという。
■圧倒的な結果を出す
今季こそは1軍で投げることを目標にしているが、そのためにはファームで「圧倒的な結果を出さないと」と気合を入れ、日々汗を流す。梅野選手の助言にもあったように、「左打者は抑えて当たり前」は今のまま継続し、さらに右打者への攻めをレベルアップしていくことを誓う。
ただ抑えるだけではない。首脳陣の目にとまるような「圧倒的な数字」を目指し、「中身のある投球内容」を意識して、岩田将貴はコツコツと積み上げていく。
(撮影はすべて筆者)