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韓国でラグビーW杯日本代表・具智元の活躍はなぜ報じられないのか。韓国記者が語った衝撃の理由

金明昱スポーツライター
ラグビーワールドカップ日本代表の具智元選手(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

「韓国ではラグビーはほとんど関心がないんです。日本代表の活躍と具智元(グ・ジウォン)選手が少しずつクローズアップされたことで、ラグビーワールドカップ(W杯)の盛り上がりを知る人がほとんどでしたよ」

 普段から仲良くさせてもらっている韓国大手ネットメディアのスポーツ担当記者の言葉は衝撃だった。

 ちなみにこの記者も「日本代表に韓国人選手がいるとは知らなかった」と言っていたくらいだ。それくらい韓国ではラグビー人気がない。

 もちろんW杯に韓国代表が出場しないということも関係しているだろうが、日本でラグビーW杯が開催されることさえも知らなかった人がほとんどだという。

 そうなれば日本代表でプレーする具智元選手のことさえも、もちろん知るはずがない。

 その記者に日本の快進撃と具智元の活躍ぶりが、日本で大きく報じられていることを伝えると、「韓国で具のことをたくさん報じるのはかなり難しいかもしれない」と言っていた。

日本の快進撃の報じ方に困る?

 その理由は具に日本代表という肩書があるからだろう。

「具選手の活躍が報じられる記事を見て、応援するラグビーファンは多いが、その逆もしかりなんです」とこの記者は少し困っていた。

 具の活躍ぶりをクローズアップしつつも、それが日本の快進撃につながったという内容であれば、一部の国民感情を逆なでしかねないということだろうか。

 ただ、ラグビーはそうした“国”のしばりがないスポーツでもある。

 ラグビーで国家代表になる条件は、「出生地が当該国である」「両親および祖父母のうち一人が当該国出身」「当該国で3年以上、継続して居住している」こと。「他の国の代表歴がない」という前提条件で、これを一つでも満たせば、その国の代表になれる。

 韓国記者も「韓国でラグビー人気や認知度が低いので、そもそも具がどのようにして日本代表になったのかは分からないでしょう」と語る。

 実は具の父も日本でプレー経験がある。父・東春(ドンチュン)さんは韓国代表の伝説的プロップ。日本のホンダヒートの前身である本田技研鈴鹿でプレーしていた。

 具が日本でラグビーに取り組んだのは、そんな父の影響もあった。具は兄とともにニュージーランドに留学し、中学2年で来日している。

 高校時代は日本文理大学附属高に進学し、全国高校ラグビー大会には出場できなかったが、当時から注目されていたという。高校日本代表に選ばれたことで、将来は日本代表でW杯に出ることを目標にしてきた。

 拓殖大学ラグビー部では1年から活躍し、大学在籍時にサンウルブズでプレー。2017年11月のトンガ代表戦で日本代表デビューを果たしたあとは、日本に欠かせない存在に成長した。

韓国出身のラグビーW杯日本代表は具が2人目

 あまり知られていないのだが、韓国人選手がラグビーW杯の日本代表になったのは具が2人目だ。

 韓国から日本にラグビー留学し、昨年度で近鉄ライナーズを引退したスクラムハーフの金哲元(キム・チョルウォン)氏が、2007年ラグビーW杯の日本代表に(現在は日本国籍)選出されている。

 ラグビー韓国代表も、今回のW杯に出場するチャンスはあった。

 “アジア最強”の日本が開催国になったため、アジアに配分された本戦出場の1つの枠を韓国代表も狙っていた。

 だが、ラグビーW杯のアジア地区予選を兼ねた「2018年アジアラグビーチャンピオンシップ」で香港に敗れて準優勝。

 仮にこの大会で優勝していれば、「アジア・オセアニア」のプレーオフに進出でき、さらにここで勝利すれば、ラグビーW杯日本大会出場を賭けた最後の試合「敗者復活最終予選」(カナダ、香港、ドイツ、ケニアが出場。カナダが出場権獲得)に出場できた。

 ただ、アジアでは香港に敗れてそのチャンスさえも失い、韓国でラグビーの注目度が高まることはなかったわけだ。

韓国の実業団ラグビーはたったの3チーム

 ちなみに韓国にラグビーの実業団チームは、現代グロービズ、ポスコ建設、韓国電力公社のたった3つしかない。

 それともう一つ、「国軍体育部隊」のいわゆる軍のラグビーチームが存在する。

 前出の記者は「社会人になってラグビーを続けたくてもこれしか受け皿がなければ、実際、続けるのは難しいでしょう」と語る。

 実業団1チームの選手保有数を23人に制限しているのも厳しい。日本のトップリーグには1チームにその倍はいる。それだけでも、実力差は歴然だ。

 つまり、韓国ではジュニアからラグビーを始めた選手の中で、大学卒業後もラグビーを続けられるのはごく一部に限られるということだ。これでは韓国代表の実力の底上げも難しいだろう。

 ちなみにこの4チームが年間で争う「コリアンラグビーリーグ」が2018年、大韓ラグビー協会主導の下、新たに導入された。しかし、このリーグは15人制でなく、7人制で行われているという。

 3月から11月にかけ、計4回にわけて大会が開催されることで、試合数は増えたが、15人制でないことからラグビーW杯などの国際大会で競争力をつけるには限界がある。

 より高いレベル、環境でラグビーをすることを求めた結果、「具智元選手のように実力のある韓国人選手が、隣国の日本でラグビーを続けることを選択したとしても、それは自然の流れだと思います」(前出の記者)。

 それこそ日本代表としてプレーする具のW杯での活躍は、韓国ラグビー界により刺激を与えるものだと思うし、これを機により具への理解が深まってほしいとも思う。

 それがスポーツが持つ力であり魅力だ。

 今日13日、日本代表はベスト8入りをかけ、スコットランド代表と1次リーグ最終戦を戦う。具の活躍が韓国内でもっと知られることで、ラグビーへの関心がより高まることを願うばかりだ。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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