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最大5時間待ちの<回転スイーツの食べ放題カフェ>における4つの残念

東龍グルメジャーナリスト
「MAISON ABLE Cafe Ron Ron」報道用資料

新しい業態がオープン

2018年7月16日に「MAISON ABLE Cafe Ron Ron(メゾン エイブル カフェ ロンロン)」がオープンしました。早速話題となっており、メディアにも以下のように大きく取り上げられています。

どうして話題になっているのかといえば、「MAISON ABLE Cafe Ron Ron」は日本で始めてとなる<回転スイーツの食べ放題カフェ>だからです。

「MAISON ABLE Cafe Ron Ron」は、ポジティブなお財布周りの環境をつくりだすことで

女の子のライフスタイルをフォローする、“回転スイーツの食べ放題カフェ”です

出典:公式サイト

回転寿司と同じような仕組みで、スイーツが全長38メートルのレーンに載せられて回っており、スイーツとドリンクを40分1800円(税抜き)で自由に好きなだけ食べられます。

通常のデザートブッフェとの比較

この<回転スイーツの食べ放題カフェ>は、不動産賃貸仲介サービスを展開する「エイブル」が、多くの飲食店を手掛ける「TRANSIT GENERAL OFFICE(トランジットジェネラルオフィス)」と組んで開発しました。

他にはないこの新しい業態は成功するのでしょうか。

混雑する時間帯には整理券が配られ、週末には最大5時間待ちとなっており、早速爆発的な人気となっています。

しかし、通常のデザートブッフェと比較して、以下の点で魅力に乏しいので、中長期的な視点に立ってみると、成功は難しいのではと思っています。

  • プレゼンテーション
  • 実演とセルフクッキング
  • 選択
  • 保冷

プレゼンテーション

ブッフェがブッフェ以外と大きく違うところ、つまりブッフェの魅力のひとつに、ブッフェ台のプレゼンテーションを楽しめることがあります。

デザートブッフェでは、スイーツが美しく華やかに並べられており、見ているだけでワクワクさせられるものです。加えて最近では、物語性をもったデザートブッフェのフェアも多く、ピーター・ラビットやシンデレラのストーリーをイメージしたり、マリーアントワネットの世界や大正のお嬢様の一室を作り上げたりと、別世界にいるようなエンターテイメント性に溢れたものとなっています。

<回転スイーツの食べ放題カフェ>では、残念ながらこの世界観を作り出すことはもちろん、ブッフェ台のプレゼンテーションもありません。レーンにずらりと並べられたスイーツが動くのを見ているのは面白いかもしれませんが、ブッフェのダイナミックさや表現力は失われてしまっているのです。

また、ブッフェで飽きのこない素晴らしいプレゼンテーションを構築するには、高さ、光、彩りが重要な役割を果たしますが、回転レーンではスイーツが常に動くので、こういった要素を取り入れることは難しいでしょう。

回転レーンにのせられたスイーツは、動きがあるものの、単調な動作なので見ていて飽き易くなってしまいます。

選択

通常のデザートブッフェでは、ブッフェ台に美しくプレゼンテーションされたスイーツの中から、自由に好きなものを選ぶことができます。しかし、<回転スイーツの食べ放題カフェ>では、いつどのスイーツがレーンを流れてくるのか分からないので、取りたいと思ったものをすぐに取ることができません。

もしも、待っていたスイーツが流れてきたとしても、他の人に取られてしまうこともあるでしょう。通常のデザートブッフェでも、スイーツがなくなることはありますが、ブッフェ台に補充されるタイミングを見図れば取ることができます。

しかし、<回転スイーツの食べ放題カフェ>では、物理的に、レーンの上流にいる客が常に先にスイーツを取ることができるのです。つまり、レーンの下流にいる客は好きなものを取れる可能性が、レーンの上流にいる客よりも低くなっています。通常のデザートブッフェとは異なり、<回転スイーツの食べ放題カフェ>では取りたいものを取れないというストレスが生まれてしまうのです。

こういったことを鑑みると、デザートブッフェの自由に選べる楽しみが半減しているように感じられます。

実演とセルフクッキング

ブッフェの大きな魅力として、ブッフェ台のプレゼンテーション以外にも、実演とセルフクッキングが挙げられます。

すぐ目の前で作ってもらい、できたてを食べられるのが、実演メニューです。たとえば、パンケーキやワッフル、クレープをプレートで焼いてもらって、その上に好きなクリームやアイテムをトッピングしてもらいます。臨場感がありますし、好みに仕上げてもらえるのでとても楽しいです。

セルフクッキングは実演と似ていますが、自分で作るメニューです。アイスクリームやソルベなどの氷菓からパフェを作ったり、マシュマロやイチゴやバナナをチョコレートファウンテンに付けたりするスイーツが定番となっています。

実演もセルフクッキングも、自分で取りに行くというブッフェならではの特徴から生まれたものですが、<回転スイーツの食べ放題カフェ>では、残念ながらこの醍醐味が味わえません。

カジュアルなスイーツブッフェでも、実演やセルフクッキングが準備されていることが多いだけに、少し残念なところです。

保冷

衛生的な観点をクリアしておくことは当然のこととして、スイーツをおいしく食べるためには、フレッシュなケーキでは特に温度が重要となります。例えば、ショートケーキであれば、生クリームがとけるとおいしくなくなってしまうので、2度~4度で冷やしておくものです。

通常のデザートブッフェでは、スイーツが冷蔵機能のついたブッフェ台で提供されることが多いですが、回転レーンでは冷蔵機能が付いていません。ただ、もしも冷蔵機能を付けたとしても、空間がほとんど閉じていないので保冷効果が弱くなってしまいますし、軽食も同じレーンで提供されているので、保温しておきたいものも冷たくなってしまいます。

温度が重要となるフレッシュケーキにこだわらなければよいかもしれません。しかし、フレッシュケーキがなければ、焼菓子ばかりとなってしまうので、飽き易くなってしまうでしょう。

色々なスイーツをおいしく食べられることがデザートブッフェの大きな価値であるだけに、フレッシュケーキを最適な温度で提供するのが難しいのはマイナス要素であると思います。

受け入れられるか

ここまで、<回転スイーツの食べ放題カフェ>が通常のデザートブッフェに比べて、物足りないと思える点を挙げてきました。

しかし、日本が発明した回転寿司のノウハウを流用して、デザートブッフェにつなげたのは非常に興味深いところです。創造的であるからこそ、メディアがこぞって注目し、客も押し寄せているのだと思います。

ただ、「MAISON ABLE Cafe Ron Ron」が位置する原宿、表参道のエリアでは、スイーツはトレンドの移り変わりが激しく、飲食店の隆盛も著しいです。そうであるからこそ、今後も継続して人気を保ち、中長期的に発展していくためには、デザートブッフェの本質的な魅力も宿していなければと私は考えているのです。

<回転スイーツの食べ放題カフェ>がデザートブッフェのひとつの形になることができるのかどうか、注目していきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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