フランス料理の歴史「トゥールダルジャン」の今
フランス料理の歴史
フランス料理の歴史を語る上で、必ず触れなければならないレストランの一つにトゥールダルジャンがあります。
今から遡ること400年以上も昔、1582年から続く格式高い伝統的なフランス料理店で、1羽毎にナンバリングした鴨料理や「フォアグラ 三皇帝風」と名付けられたフォアグラのテリーヌなどの定番料理を生み出し、ミシュランガイドの星付き常連店として輝く実績を残しています。上流階層の社交場として利用されたり、多くのソムリエを輩出したりと文化的にも重要な役割を担ってきました。
このトゥールダルジャンが1984年、ホテルニューオータニに東京店を構えることとなり、これが今でもトゥールダルジャンの唯一無二の支店となっていることはよく知られていることです。
トゥールダルジャンにも変化
モダンフレンチが台頭するようになったここ20年の間、最盛時の勢いに比べると少し元気がなくなり、伝統を守り続けている印象が強いですが、トゥールダルジャン 日本代表 総支配人 クリスチャン ボラー氏によって招聘されたルノー・オージェ氏がシェフに就任した2013年から、東京店に変化が現れてきました。
ボラー氏は「トゥールダルジャンは伝統と格式をとても大切にしている」と前置きしてから、「2011年からLA TERRASSEのイベントを始め、2015年は7月から9月にかけて行われる。トゥールダルジャンは普段ディナーしか営業を行わないが、このイベント期間では、多くのお客さまに気軽にお越しいただきたいのでランチも営業している。料理に関しても、普段の正統派路線とは方向を変え、よりモダンにし、遊び心やサプライズを大切にしている」と流暢な日本語で説明します。
トゥールダルジャンの新機軸となるLA TERRASSEはどのようなフェアなのでしょうか。
LA TERRASSE
ボラー氏は「例年、LA TERRASSEは地中海の地方をテーマとしてきたので、今年はバスク地方をテーマとした」と今年の特徴を挙げ、さらには「トゥールダルジャンは鴨料理が名物となっているが、現在ブランドとなっているシャラン産の鴨も、もともとはバスク地方にいたプロテスタントの人々が連れてきた」と見識を披露します。
「バスクは山の食材も海の食材もある。16世紀に南米から唐辛子、チョコレート、ミントなどがフランスへと入ってきたが、最初に入ってきたのはバスク地方であった。そういったところから、バスク地方は独自の食文化を形成していった」として、<食はバスクにあり>と言われる所以について説明します。
料理の特徴としては「フォアグラはミルフィーユ仕立てにして、ブリオッシュを添えた。鴨料理は備長炭で焼いて、バスク風のピマンエスプレット ソースを使っている」とトゥールダルジャンで特に有名なフォアグラ料理と鴨料理も変化があるとします。
デザートについては「日本でも有名な家庭的な焼菓子であるガトーバスクをご提供するが、現代風に解釈している。小菓子のマドレーヌはお客さまにご提供するタイミングに合わせてちょうど焼き上げるようにしたので、最後までご満足いただけるはず」と自信を持ちます。
日本への愛着と造詣
ボラー氏は以前私がオージェ氏をインタビューした時に通訳を務めたほど日本語が堪能であることに加えて「LA TERRASSEを始めたきっかけは、東日本大震災であった。とても辛いことだが、明るく前向きになれるようにしたいと思い、その年の2011年からフェアを行うことにした」と述べるほど日本を愛してやまない人物であり、ボラー氏と同じくフランス人であるオージェ氏とシェフパティシエは奥様が日本人であり、日本の文化に精通しています。
フランス料理の歴史に名を刻むトゥールダルジャンが伝統と格式を受け継ぎながらも、このLA TERRASSSEを端緒にして新しい方向へと舵を切り始めていますが、それがフランス人スタッフによる日本への愛着と日本文化への深い造詣によってなされていることは、トゥールダルジャン400年以上の歴史の中でも特筆するべき物語として後世に伝えられるのではないでしょうか。
情報
詳しくは公式サイトをご確認ください。
参考
レストラン図鑑にもトゥールダルジャンが詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。