引き返せない温暖化
9月27日、スウェーデンの首都ストックホルムで、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の総会が開催され、第5次評価報告書第1作業部会報告書が公表されました。この報告書には、温暖化が世界でどのように、どのくらいの規模で起こっていて、将来はどうなるのか、といった自然科学的な根拠が、新たな研究成果に基づいてまとめられています。温暖化の報告書が公表されたのは今回で5回目、2007年以来6年ぶりのことです。温暖化の研究は世界中で日進月歩の勢いで進んでいて、今回は確信度の高い知見が数多く示されました。
ここでは、地球の未来について教えてくれる、気候変動の予測について紹介します。
青い地球は温暖化作用のおかげ
温暖化を引き起こすのは、温室効果ガスと呼ばれる二酸化炭素やメタンなどです。これらが大気に含まれていることにより、大気が余分に暖められます。もしも、温室効果ガスがなかったら、地球の平均気温は氷点下19度となり、極寒の世界となるでしょう。私たちが緑豊かな世界で暮らしているのは、温暖化作用のおかげなのです。この温暖化作用を世界で初めて説いたのは1827年、フランスの数学者・物理学者ジョゼフ・フーリエ(J.B.Fourier)です。
IPCC第5次評価報告書
とはいっても、行き過ぎた温暖化作用は、大雨や干ばつ、熱波などの異常気象を引き起こす要因になっています。今回の報告書(AR5)では「温暖化は疑う余地がなく、数千年にわたって前例がない」と強く述べています。また、「これ以上の気候変動を制限するためには、温室効果ガスの排出量を将来にわたって大幅に減らすことが必要」としています。
地球の未来を予測する
今回の報告書(AR5)では気候変動予測の方法が変わり、新しく「RCP(代表的濃度経路)シナリオ」という予測方法になりました。ここでは「RCPシナリオ」についての説明は省略しますが、詳しくは下記の参考文献を参照ください。
将来の仮定(シナリオ)は温暖化を引き起こす効果(放射強制力)の弱いシナリオから強いシナリオまで、4つのパターンがあり、「PCP2.6」、「RCP4.5」,「RCP6.0」,「RCP8.5」と呼ばれます。(数字が大きいほど、今よりも温暖化が進むと仮定しています)
そのなかで、将来の気温上昇が2℃以内に抑えるシナリオが「RCP2.6」です。つまり、温暖化の進行を最小限に抑えるシナリオです。気温の上昇が2℃を超えると、異常気象のリスクが極めて高くなるからです。
今回の報告書(AR5)では、2100年の将来、気温が2℃以内の上昇で抑えるためには、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を近い将来に1900年頃のレベル以下にしなければならないことが分かります。二酸化炭素の排出量は経済活動に比例したものですから、極端なことをいえば、今の生活水準を20世紀初頭まで戻すことになり、あまりにも非現実的な話です。だとすれば、高度な技術革新、世界的なクリーン技術の導入など、全世界が一致して温暖化問題に取り組まなくてはなりません。
今回の報告書(AR5)では、上昇し始めてしまった気温を下げるのは非常に難しいことが明らかになりました。豊かな生活とひき換えに、温暖化はもう後戻りできないところまで来てしまったのでしょうか。
【参考文献】
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について(気象庁ほか)
近藤洋輝(2003):地球温暖化予測がわかる本,成山堂書店.
【図の説明】
(上)PCRシナリオに基づく放射強制力(RCPシナリオで定める4つの放射強制力の経路を実線で示す)
(下)RCPシナリオに対応する石化燃料からの二酸化炭素排出量(地球システムモデルからの逆算の結果)