世界遺産に登録決定! 富士山頂の気候とは
富士山がユネスコ(国連教育科学文化機関)の「世界文化遺産」に登録されることが決定されたとのこと。日本人なら誰でも知っている馴染み深い山ですから、素直に嬉しく感じます。
7月の山開きを前に、「今年こそ登ってみたい!」と思っていらっしゃる方も多いことでしょう。実は、私も「いつか登ってみたかった」人のひとりでありまして、去年の夏に登山ツアーに参加し、山梨県側から登って、無事に登頂を果たしました。
さて、富士山頂の気候とは、どのようなものなのでしょうか? 私自身が登山した際の感想も交えながらご紹介します。
空気の薄さは、ふもとの6割
富士山の標高は、3,776メートル。今さら言うことでもないですが、子どもの頃、「富士山のように、皆なろう」のごろ合わせで覚えましたよね。
山頂にある気象庁の「富士山特別地域気象観測所」のデータをひもとくと、1年間の平均気圧は637.8ヘクトパスカル(1981~2010年の平均:平年値)。
山のふもと(標高0メートルくらい)の気圧はだいたい1,000ヘクトパスカルくらいですので、山頂は、ふもとの6割ほどの空気の薄さと言えます。
登山の際に酸素不足から生じる頭痛やだるさなど、いわゆる「高山病」の原因です。私も登山時、標高3,000メートルを超えたあたりからは症状を自覚しましたし、山頂ではしばらく頭痛に悩まされました。
仕事柄、どうしても実験をしてみたくて家から持っていったスナック菓子の袋は、山頂ではパンパンに膨れていました。
ふもとでは、袋の中も外も同じような気圧(圧力)なので力がつり合い、膨れることはありませんが、山頂では周囲の気圧が低く、相対的に袋の中の圧力が高くなったため、こうした現象が生じます。富士山頂での空気の薄さを、強く実感させられます。
真夏でも5℃以下、風も強い
空気の薄さ(気圧の低さ)とともに、気温も低くなっています。登山シーズンの7~9月でも山頂では、最低気温2℃前後・最高気温6℃前後。東京や大阪の都心部で考えれば、真冬でもそう頻繁には無いほどの低温になります。
私が登山したのは、夏の真っ只中の7月下旬でしたが、それでも周囲の気温は5℃前後。登山の途中からは冬に着るようなフリースや、長袖のウィンドブレーカーなどを着込みましたが、それでも山頂ではジッとしていると、冷たい風が吹きつけて頬が痛かったです。それに、登頂直後に山小屋でいただいた温かい甘酒の美味しさも忘れられません。
ちなみに、きょう(6月22日)18時までの観測結果は、最高気温-0.1℃・最低気温-2.2℃となっています。
また、富士山はひとつの峰だけ高くそびえ立つ「独立峰」ですから、周りに邪魔するものがないため、風も強く吹きつけます。台風接近時などに吹く風は、尋常ではありません。
国内の最大瞬間風速の記録は、富士山頂で観測された「秒速91.0メートル」(1966年9月25日・台風第26号)。時速に換算すると327.6キロですから、新幹線並みのスピード、ということになります。
夏にも雪が降る富士山、初雪はいつ?
富士山頂でも夏には気温が上がりますが、それでも上述の通り、一番暖かい季節でも最高気温6℃前後。もう少し気温が低ければ、雨ではなく雪に変わる気温です。
現在は無人化されてしまいましたが、かつて山頂には気象庁の「富士山測候所」があり、通年で気象観測が行われていました。
現地の観測者の目視による雨や雪の観測も行われていたのですが、初雪については「その夏の最も気温が高かった日(平均気温が高かった日)の後、最初に降る雪」と決められていたのです。
富士山頂では、夏場でも気温が0℃近くまで下がることがあり、雪の降る日があることから、降った雪が初雪になるかどうかは、その後しばらく気温の推移を見てみないと分からなかった、ということになります。
なお、気象庁は2004年秋に、「富士山測候所」での有人観測を終了しています。ふもとの普通の気象台のように「初雪」の便りが気象庁から発表されることは、もうありません。
また、初雪と似たようなものに「初冠雪」があります。これは、ふもとの気象台から山を望んで、夏以降に初めて、山が雪などで白くなっているのを確認した日のこと。富士山の初冠雪については今でも、山梨県の甲府地方気象台で行われています。甲府での平年の初冠雪の日は9月30日です。
(なお、研究者などで作る「NPO法人・富士山測候所を活用する会」が測候所の庁舎を借り受け、夏の間は研究や観測を行っているとのことです。気象庁による通年観測は終了しましたが、こうした機関による今後の成果にも注目したいところです。)
標高3,776メートルの魅力
このように、富士山頂の気象は、かなり過酷です。山登りと言う行動だけでも体力的にツラいものですが、途中、さらに酸素不足・低温・強風という壁を否応なく実感させられます。
しかし、私個人の感想ですが、山頂で目にしたご来光は「素晴らしい」のひと言です。周りには自分より高いものがなく、正真正銘、日本のてっぺん。眼下に広がるのは雲だけで、「頭を雲の上に出し…」の唱歌を思い出します。
今回の世界遺産登録でさらに観光客が増え、自然環境をどう維持するのかといった課題も少なくないと聞きますが、「あのご来光をもう一度見たい」と思ってしまうのは、やはり富士山の持つ魅力なのだと思います。
課題をどう解決していくか、地元の関係者の方々だけでなく、広くみんなで考えて、これからも私たち日本人にとって身近な富士山であってほしいものです。