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大人の日帰りウォーキング 日帰り旅の途中で食べた食事が美味しかったけれど、成分表示をみて驚いた理由

わか子ライター

なみだ橋を過ぎた先には鈴ヶ森処刑場があった。
鈴ヶ森処刑場は、江戸時代につくられた処刑場の1つであり、旧東海道沿いの品川宿の外れにある。現在では東京都の遺跡に指定されており、教育委員会による説明版が立てられている。
「八百屋お七や白井権八もここで処刑されたのね」靖子が言うと、
「それ、だれ?」と、明子。

鈴ヶ森刑場遺跡(品川区南大井)
鈴ヶ森刑場遺跡(品川区南大井)

「八百屋お七は火事を起こしたのよ。火事と喧嘩は江戸の華って聞いたことあるでしょ。当時の建物は木造だから、火事になるとすぐに大きく焼け広がったのよ。放火は重大な罪。お七は火あぶりになったのじゃなかったかしら。権八は強盗と殺人だったかな。歌舞伎で演じられるほど、当時の有名な話だったのよ。」
靖子の説明に、なるほどと感心しているのは晴美。靖子と一緒だとガイドさんがいるみたいで、お得な気分になる。

3人は鈴ヶ森遺跡を過ぎると旧東海道と国道15号である第一京浜を歩き交えながら先へと歩き進んで行く。江戸時代、東海道のこの辺りは海岸沿いだったらしいけれど、今ではすっかり埋め立てされており、広い道路を挟むように高いマンションが立ち並んでいた。
国道15号より旧東海道である脇道に入ると、海苔を扱うお店が何軒か見えてくる。
大森だから海苔だね。江戸前の高級海苔。昔は東京湾で海苔が採れていたというけれど、今でも採れているのかな。そんなことを思っていると旧東海道と環状7号線の交差点の角にあるお店に目が留まった。
看板には創業寛文九年と書いている。靖子がスマフォを取り出して調べると1669年であり、江戸時代の初期から354年も続いているお店になる。すると、明子がちらちらとお店の中を見ていた。
「お土産を買おうかと思ったけれど、私には敷居が高いからあきらめる」と言う。
晴美と靖子は、確かに老舗だけれどそんなに思う程でもないと思い、大丈夫だと思うよと声をかけたが、人の価値観はいろいろなのかもしれない。道路に向かって大きなガラス張りで作られているお店は中の様子が見えて入りやすそうに見えるけれどね。ここで売られている海苔ならきっと美味しいだろうなと思ったけれど、その時は先へと歩き進んだ。
しかし後で、買っておいても良かったかなと、後悔をした。美味しい海苔で作るおにぎりは最高に美味しいのよね。

「だぶん、この辺りだけれど。大森の一里塚」
そう言いながら、靖子は持参している本を開いて場所を確かめながら辺りを見回している。
靖子は今日が初めての街道歩きだけれど、あらかじめ晴美から街道歩きの本があることを聴いていたので下調べをしていた。3人いれば、ガイド役になる者がいれば、ツアー客になってしまう者がいるのは性格によるものなのか。明子はガイドのように目立つことが好きだろうけれど、色々と下調べをするのは大変だからツアー客で楽をしているような気がする。私も、楽なツアー客が良いかな。晴美も勝手なことを思っていた。
大森の一里塚は江戸日本橋より三里目の一里塚。本には説明版があると書いてあるけれど3人は見つけられなかった。東海道と書かれている真新しい石碑をみて、これじゃないよねと残念そうにつぶやいた。

梅屋敷(大田区蒲田2丁目)
梅屋敷(大田区蒲田2丁目)

「そうそう、何で東海道を歩こうと思ったの?」靖子が二人に聞いた。
「糖尿病になっちゃったのよ、私。だから運動しないといけないからね。」と晴美が答えると、
「私は、健康診断で引っかかったことがないの。どこも悪い所はなくて健康なのよ。でも、ここ先はどうなるのかわからないし、明日は我が身かもしれないからね。晴美に話を聞いたら楽しそうだと思ったし、外で運動するって健康的だしね。ところで、靖子は?なんで一緒に歩こうと思ったの?」と、明子が言った。
「私は血圧が高くて薬を飲んでいるの。高血圧には減塩が大切だけれど、有酸素運動も良いと言われているから、ウォーキングは良いのよね」
「この歳になると、どうしても生活習慣病との戦いになってしまうね。歳をとるって大変だわね」
先程、自分の体は健康だと言った明子の言葉に、他の2人は顔を見合わせた。心の中のつぶやきはきっと同じ、あなたが言うな、だろう。明子の一言が多いのは昔から変わらない。

「去年ね、主人が定年したの。それからは主人が家にいてね…」靖子が言った。
晴美の夫は定年までまだ数年あるし、明子の夫は明子より年下なので、2人は定年した夫が家にいるのを想像できない。ネット記事で大変そうに書かれている内容を読むと、どうか、自分の話ではありませんようにと願うばかりだ。
「毎日、一日中顔を突き合わせているのも疲れるから、たまには私が出かけて気分転換したいと思っていたの。でも、カフェに行ってもそんなに長時間いられないし、外食もほどほどにしないと、これ以上病気になりたくないし。もちろん、お金もかるしね。そう考えると、この年齢のおばさんが、長い時間ゆっくりと落ち着ける居場所はなかなかないのよ」
確かに、そうかもしれない。お金があれば選択肢は増えるだろうけれど、この先には年金生活になるのが見えているから、お金は大切にした方が良い。たまにお金を使って出かけるのも良いかもしれないけれど、頻繁になるとすぐにお財布の中身はすぐに底をついてしまう。

おばさんの年齢になれば、どうしても健康とお金についての話題が多くなる。
誰もが健康でいたいと思っており、病気になりたいと思う人はいない。そして、生活習慣病が気になる年代でもある私が糖尿病で、靖子が高血圧か。
今は、日常生活に支障が出ることは無いけれど、これから先は自分次第で大きく変わるのが生活習慣病。今のうちに生活習慣を改めないと、脳卒中や心臓病等の大きな病気になってしまってからでは遅い。頭では理解しているつもりだ。大きな障害が残って自分のやりたいことが出来ない生活は送りたくないと誰もが思うだろう。やっぱり、健康は大切だ。
お金の事もそうかもしれない。靖子の言う通り、お金も無駄には使えない。子どもの学費を払い終えたと思ったら、今度は定年と年金生活か。

京急蒲田駅と国道15号
京急蒲田駅と国道15号

3人は、お昼には少し早い時間だけれど、2時間以上を歩いてきたのでお腹が空いてきた。京急蒲田駅に向かうとチェーンのカフェがあったけれど、おなかが空いているとカフェでは物足りないし、先ほどまでお金の話をしていたことを思えば、コスパも良くない。3人の意見が一致して、違うお店は無いかとうろうろすると、牛丼店があったので店に入った。
明子は、無意識に一番値段が安い牛丼を選んでいた。牛丼並盛400円は安いよねと思いながら券売機で購入した食券を見ていると、隣にやってきた靖子も同じ牛丼並盛だった。2人は考えている事が同じだねと、笑っていると明子がやってきて3人で席に座った。
高血圧と糖尿病の2人がそろって牛丼はどうなのかと思うかもしれないけれど、ここまで歩いてきたからお腹がペコペコであり大量の汗もかいた。日常では食事療法は必要だけれど、運動してお腹が空いた時ぐらいは、牛丼並盛を食べても良いのではないかと思った。
でも、ミニにした方が良かったのかもと少しの反省だけはする。カロリーを見てみると733kcal、塩分量は2.5gとあった。牛丼は思った以上に強敵だと2人が思っていると、明子の前には牛カレーがあった。
晴美と靖子の2人は、明子が食べている牛カレー並盛の成分表示を確認するとカロリーは895kcalであり、塩分量は6.5gとあった。靖子は、塩分は私の1日分だわとつぶやいた。厚生労働省によると、1日の塩分摂取量は成人男性では7.5g未満、成人女性では6.5g未満が推奨されている。食事の前に塩分やカロリーの表示を見なきゃよかった。そう思っている2人に気が付いていない明子は、カレーと牛肉が一緒に乗っているスプーンを口に運んで美味しそうに頬張っていた。

運動をしてお腹が空き、汗をかいた時に食べる牛丼は、必要としているエネルギーと塩分が体に染み渡る美味しさだったけれど、

やっぱり、健康って良いなとしみじみ思った瞬間だった。

ライター

東京都在住のおばさんです。子育てが落ち着いてきた頃より趣味で登山や街道歩き等を始めました。歩く旅は大変だというイメージがありますが、歩く事で解る楽しみもあります。実際に歩く旅をして、歩く楽しさをお伝えしたいと思っています。

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