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ガルシア対ジュダー戦から見えたこと

杉浦大介スポーツライター

Photo By Kotaro Ohashi

4月27日 ブルックリン バークレイズセンター

WBA、WBC世界スーパーライト級タイトル戦

王者

ダニー・ガルシア(26戦全勝(16KO))

12ラウンド判定(115-112、114-112、116-111)

挑戦者

ザブ・ジュダー(42勝8敗(29KO))

ガルシアの真価証明はお預け

3−0という判定が示す通り、ガルシアの勝利が明白だったことは間違いない。

第5ラウンドには右を決めてジュダーをぐらつかせ、8ラウンドには再びの右でダウンも奪った。この2発以外にも中盤にはジュダーに何度も強打を浴びせ、KO勝利は時間の問題に思えた。ここで35歳の挑戦者をフィニッシュできていれば、ガルシアは“テストをパスした”と賞讃されていたはずだ。

しかし、10回以降にジュダーにまさかの猛反撃を許し、逆にぐらつかされるシーンもあった。勇敢に打ち合うことで逃げ切ったものの、3人のジャッジは10〜12ラウンドはすべてジュダー優勢と採点。画竜点睛を欠き、25歳の王者は苦戦の印象を残したまま終了ゴングを迎えることになった。

「凄い試合だった。ブルックリン出身の選手を相手のホームタウンで下すことができた。(ジュダーは)プライドをかけて臨んで来るはずだから、絶対に諦めないことは分かっていた。彼は巧妙なベテランで、パワーもあった。これまで戦った中で最も強い選手だった」

試合後にそう語ったガルシアだが、メイウェザー、コットといったエリートファイターたちは圧勝した相手に追い上げを許したことで、“真価の証明”はまたお預けになった感がある。いや、むしろ「やはり過大評価」と指摘する関係者が増えるかもしれない。

パンチを効果的に当てられる距離に身を置くのが得意で、オフェンス面では見た目以上の上手さ、強さを備えた選手ではある。ただ、ディフェンスには明白な穴が存在するだけに、ガルシアの今後に改めて不安を覚えたファンも多かったことだろう。

王者の今後

「スポーツ・イラストレイテッド」誌の電子版は、ジュダー戦の前から「フロイド・メイウェザーがガルシアを近未来の対戦相手としてマークしている」と伝えていた。

まだ経験不足で、発展途上ながら無敗のレコードを有しているといった点で、ガルシアはいかにもメイウェザーが好みそうな相手。5月5日のロバート・ゲレーロ戦をクリアしたとして、メイウェザーがその直後に最も商品価値の高いサウル・“カネロ”・アルバレス戦に向かうとは考え難く、だとすればガルシアに声がかかることもあり得るかもしれない。

しかし、ガルシア側にとっては最強王者への挑戦は余りにも時期尚早だろう。まずは事前からのプラン通り、5月18日にアトランティックシティで行なわれるIBF王者レイモント・ピーターソン対WBC暫定王者ルーカス・マティセ戦の勝者と“スーパーライト級決勝戦”を行なうのが最も理に叶ったシナリオと言える。

「ガルシアは素晴らしいファイターだから失礼なことは言いたくないけど、ルーカス・マティセ(のパワー)は違い過ぎるよ」

ガルシア、マティセの両方と対戦経験があるジュダーは、2人の比較を問われてそうコメントしていた。

実際に最近は“スーパーライト級最強”と評されることが多くなったマティセが勝ち上がって来れば、直接対決実現した際、ガルシアが不利と予想されることが濃厚。この童顔のスナイパーにとって、キャリアを左右する正真正銘の大一番となる。

また、アミア・カーン、ケンドール・ホルトといった実力者を連破して勢いに乗るピーターソンがマティセの壁も突破した場合にも、ガルシア戦は興味深いマッチアップとなる。フィラデルフィア出身のガルシア、ワシントンDCに本拠を置くピーターソンの対戦に、アメリカ東海岸は大いに盛り上がることだろう。

ジュダーも生き残る

負けるときは一方的なことが多いジュダーだが、ガルシア戦では10ラウンド以上に猛反撃をみせた。逆転は叶わなかったものの、地元のファンに奇跡を期待させたことの意味は大きい。

勝ち負け以上に、客を喜ばす試合をすれば再びチャンスが得られるのがアメリカのボクシング界。ワンサイドな展開のまま負けていたらすべて終焉だったかもしれないが、終盤の健闘のおかげでジュダーの商品価値もサバイブした。そういった意味で、最後の数ラウンドの攻勢は「キャリアを救った」と言っても大げさではない。 

「彼は終わっていないよ。まだハイレベルで戦える」

試合前に散々舌戦を交わしたアンヘル・ガルシア(ダニーの父でありメインのトレーナー)もそう語り、老雄の力を認めていた。

35歳になってもスター性は変わらず、ジュダーの登場する興行は常に好視聴率を叩きだしているという。ガルシア戦でもブルックリンに13,048人ものファンを動員したのは、地元出身のスターであるジュダーの人気によるところが大きかったに違いない。

現時点でどのプロモーターとも契約していないフリーエージェントだけに、トップランク、ゴールデンボーイ・プロモーションズのどちらの所属選手とも試合が組めるのも魅力。前述のピーターソン、もしくはトップランク傘下のブランドン・リオス、マイク・アルバラードなど、様々なマッチメイクが考えられる(注/マティセ、カーンとはすでに対戦経験があるだけに、新鮮味に欠ける再戦の挙行は疑問視される)。

あるいは6月にWBA世界ウェルター級王者ポーリー・マリナージに挑むエイドリアン・ブローナーと激突という路線に進めば、黒人層を中心に今秋のブルックリンで大きな話題を呼ぶ興行となるはずだ。

ここまでに名前を挙げたどの強豪と対戦しても、勝ち切るまでの力はジュダーにはもう残っていないのかもしれない。だが、少なくともそれらを興味深いイベントにするだけの底力、スターパワーを保っていることは、ガルシア戦で証明できたと言って良いのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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