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マドンナが抗体検査陽性 その結果の正しい解釈は?

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

先日マドンナさんが新型コロナの抗体検査が陽性であったと報道されました。

特に彼女は症状はなかったということですが、抗体検査が陽性という結果はどのように解釈すればよいのでしょうか?

PCR検査が陽性とどのように違うのでしょうか?

抗体とは?

「抗体」という単語はよく聞かれると思いますが、実際にどんな形をしているかご存知でしょうか。

皆さん、両手を挙げて「Y」を作ってみてください。

はい、それが「抗体」です。

抗体(Wikipediaより)
抗体(Wikipediaより)

抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃する武器の一つです。

免疫グロブリンとも呼ばれ、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類があります。

例えば、デング熱に感染すると1週間くらいでIgMが、もう少し遅れてIgGが体内で作られるので、デング熱の迅速診断キットは、IgMとIgGを測定することで診断できます。

ただし、抗体は感染してすぐには作られませんので、発症してからしばらくは血液中の抗体を測定しても検出されない時期があります。

発症からの日数と抗体陽性率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0897-1より)
発症からの日数と抗体陽性率の推移(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0897-1より)

ウイルスのどの部分の抗体なのかによって微妙に異なりますが、新型コロナウイルスでは発症から概ね2週間くらいで8割の人が、概ね3週間くらいでほぼ全ての人がIgMまたはIgGが陽性になります(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0897-1)。

しかし、この図を見てお分かりのとおり発症して間もなくは抗体を測定しても検出されない方が多いので、新型コロナの抗体検査が陰性であっても発症して2週未満であれば「新型コロナではないとは言えない」ということになります。

抗体とPCR検査の違いは?

一方、発症してすぐに陽性になるのはPCR検査です。

PCR検査はウイルスの遺伝子の一部分を測定しますので、発症してウイルスが増えている状態で検査を行えば陽性となります。

「コロナに罹ったら14日で復職OK」は安全な基準か?でもご紹介しましたが、だいたい鼻咽頭のPCR検査は3週間くらいまで陽性になり続けます。

発症からの日数とPCR検査、抗体検査、ウイルス分離の陽性率(doi:10.1001/jama.2020.8259より)
発症からの日数とPCR検査、抗体検査、ウイルス分離の陽性率(doi:10.1001/jama.2020.8259より)

こちらが新型コロナの発症からの日数とそれぞれの検査の陽性率の推移を見た図になりますが、発症してからしばらくはPCR検査が陽性になりやすく、2週以降はIgM/IgGが陽性になりやすくなります。

発症してからしばらくの間の診断にはPCR検査が向いており、後から感染していたことを知るためには抗体検査が適しているということになります。

抗体検査はどのように役立つのか

では抗体検査はどのように使用するのが適切なのでしょうか。

外来患者の2.7%に新型コロナの抗体 神戸・中央市民病院が1000人調査

例えば、こちらのニュースでは神戸市立医療センター中央市民病院で行われた抗体検査で1000人のうち2.7%が陽性であったと報じられています。

このように、PCR検査などで確定診断された患者以外に、診断されていない(主に無症状〜軽症の)症例がどれくらいあるのかを把握する上では長期間陽性が続く抗体検査が適しています。

つまり個人個人の診断というよりも、感染症の全体像を把握し、公衆衛生上の対策に役立てることができます。

抗体検査の解釈の注意点

結果を解釈する上での注意点もあります。

神戸市での抗体検査の結果をそのまま解釈すると、神戸市民のうち2.7%はすでに新型コロナに感染しているということになります。

しかし、この臨床研究で用いられている抗体検査キットはどれくらい正確なのかに関する情報がまだ十分ではありません。

一応、販売している会社のカタログには感度・特異度について記載はありますが、どの時期の新型コロナ患者の検体を用いられて検証が行われてのは不明であり、このキットの性能評価もまだ定まっていません。

コロナウイルスの中には風邪の原因となるヒトコロナウイルスも4種類ありますが、これらの風邪のウイルスと交差反応が起こり、風邪を引いた人でもこの新型コロナの抗体検査キットが陽性になってしまう可能性もあります。

またこの研究は病院を受診している人が対象になっていますので、一般の人口と比べると陽性率の高い集団を調べている可能性があります。この臨床研究ではその辺りもしっかりと調整されての2.7%という数字ではありますが、偏りが残っている可能性は残ります。

この辺りを差し引いて、抗体検査の結果は評価をする必要があります(ちなみに元の論文にはこの辺の注意点についても書かれています)。

「抗体陽性=もう新型コロナにはかからない」というわけではない

さて、冒頭のマドンナさんの話に戻ります。

こちらの記事によりますと、マドンナさんは4月30日に新型コロナの抗体検査が陽性であったことを明らかにしており、

「てなわけで明日、私はロングドライブを楽しむつもり。窓を全開にして、COVID-19を吸い込んでくるつもりよ。晴れてくれることを願うわ」

出典:マドンナ「コロナ抗体獲得」発言で大炎上も挽回する驚きの一手

という、ちょっとここだけ読んでも意味が分かりにくいと思いますが、おそらく「自分はコロナに感染したから大丈夫」的な発言をされたようです。

そもそも「てなわけで」という訳もすごいなと思いますが(マドンナってそんなキャラでしたっけ?)、それはこの記事を書かれたフライデー側の問題だと思いますので置いておきます。

確かに、麻しんや風しんなどの抗体検査については、抗体価の高さとその感染症に対するかかりにくさが関連することが分かっています。

麻しんの抗体価の高い人は麻しんにはかかりにくく、麻しんの抗体価が低い人は(一般的には)かかりやすいのでワクチン接種が推奨されます。

しかし、新型コロナに関しては、抗体の陽性とかかりやすさとの関係も明らかではありませんし、抗体がどれくらい持続するのかもまだ分かっていません。

抗体が陽性だからと言って二度と感染しないわけではありません。

まあぶっちゃけ窓を全開にして空気を吸い込んでも新型コロナに感染するリスクはほとんどないわけですが、それとこれとは話が別です。

てなわけで(使ってみた)今の時点では、抗体が陽性であった方、あるいは一度新型コロナに罹った方も、手洗いや咳エチケットといった基本的な感染対策を続けた方が良いでしょう。

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感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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