【韓国】出勤時の恐怖 “地下鉄駅エスカレーター逆走”はなぜ起きたのか 「人々がただ泣き叫ぶ」壮絶現場
平日の朝、通勤客でごった返す地下鉄駅のエスカレーターが突如逆行。
次々と人が倒れ込み、14人が負傷を負うという恐怖の事故が韓国で起きた。日本の地上波などでも報じられたニュースだ。
6月8日の午前8時20分頃、韓国ソウル郊外。京畿道城南市の地下鉄盆唐線スネ駅2番出口に設置された上りエスカレーターが現場にいた被害者たちはその恐怖をこう証言している。
「(エスカレーターが)ガタンと止まってから、その時から後ろにすごい速さで下りてきて、靴も全部脱げました」
「下に横たわっている人々は何もできず、ただ叫び声を上げて泣いていました。エスカレーターに乗っていなかった人々が引っ張って助けてくれました」
「ゴトンという音と共に突然エスカレーターが停止し、ガラガラと下りてきて...ギアが故障したような感じでした...」
韓国メディアが公開した映像資料からは、通勤時間帯に多くの市民がエスカレーターを利用していた様子が確認できる。上りエスカレーターが一時停止した後、僅か数秒で後方へ押し戻す様子が映し出されており、乗客たちは次々と転倒。この事故により3人が重傷を負い、残り11人が軽傷を負った。
装置の設置を担当したA社の関係者は翌9日、韓国メディアの取材に対しこんなコメントを残している。
「装置内のモーターと接続された駆動チェーンが切れると、人々の重みによってエスカレーターが加速し、逆走する可能性がある。今回の事故もそのような事情から起きた可能性がある」
コンピュータの誤作動による方向転換ではなく、機械的な破損によって逆行したという見立てだ。
近年、韓国ではエスカレーターの逆走事故が幾度か起きている。
2013年には今回の事故が起きた場所と同じ京畿道城南市の盆唐線野塔駅で逆走し、39人の乗客が転落する事故が発生した。エスカレーターの修理業者がデセラレーターとモーターを接続するピニオンギアを強度が低い部品に交換し、事故の直接的な原因となったことが明らかになった。
2014年には、このような逆走事故を防ぐため、エスカレーターに逆走防止装置(補助ブレーキ)の設置が義務付けられた。しかし、新たに設置されたエレベーターにのみ適用されるこの規定は、既設のエスカレーターに対する規制が不十分であるとの批判を浴びている。さらに問題なのは、この逆走防止装置が必ずしも正常に機能しないことがある点だ。
2017年に京畿道安山市丹原区の安山駅で発生した逆走事故では逆走防止装置が即時に作動し、重傷者は出なかった。しかし2018年に大田市東区の大田駅で6人が負傷したエスカレーター逆走事故では、逆走防止装置が遅れて作動し、意味をなさなかった。
2019年にはソウルの冠岳区にあるソウル大入口駅でエスカレーターが逆走。80人以上の利用者が同時に転倒する事故が発生した。原因はエスカレーターのオイル不足によるものだった。この時も逆走防止装置は作動しなかった。
今回、6月8日に起きたスネ駅のエスカレーターは2009年に設置されたもの。韓国警察は2020年に設置した逆走防止装置が、今回の事故時には正常に機能しなかったと見ている。
なぜなら、今回のスネ駅のエスカレーターについては、先月10日に行われた月次定期検査で「異常なし」と判定されていたのだ。このエスカレーターは、韓国エレベーター安全公団が毎年行っている安全検査でも昨年9月30日に合格通知を受け取っていた。しかし今回、事故が発生したため、前回の安全検査が適切に行われていたかについて疑念が持たれている。
こういった事故を防ぐため、韓国の専門家は「丹念な点検が必要」という指摘を行っている。専門家のイ・ヨンジュソウル市立大消防防災学科教授が「YTN」の取材にこうコメントしている。
「エスカレーターは定期的に何度も検査を受けているため、老朽化状況にはないと考えられる。運行に関する制御を行う制御盤や信号系統などの問題点をさらに調査する必要がある。また検査を受けて異常がないとされても、次の検査周期までに自己管理を行うことが重要」
さらに同教授は、エスカレーター利用者の日常的な習慣も重要であると指摘する。
「エスカレーターに乗る際には手すりを握り、また他の人々と適切な間隔を取ることが必要。そうすることで、何か問題が発生したときに連鎖的な危険事態発生の防止策になりうる」
今回の事故の正式な原因調査は、13日にソウル地方鉄道特別法務警察隊、国立科学捜査研究院、韓国エレベーター安全公団の立ち合いで行われる予定だ。