【ル・マン24時間】トヨタ7号車が逆転に向けポール獲得もライバル接近! 今年のル・マンの見所は?
今年も24時間の熱い戦いが始まった。6月15日(土)〜16日(日)に開催される「第87回ル・マン24時間レース」は12日(水)13日(木)に公式予選を行い、トヨタ7号車(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス)が総合のポールポジションを獲得。2番手にはトヨタ8号車(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/フェルナンド・アロンソ)が続き、トヨタがフロントロウを独占した。史上最多となる62台が出走する2019年のル・マンの主な見所をご紹介しよう。
アロンソがトヨタと最後のレース
総合優勝を争うLMP1クラスは「トヨタ」だけが自動車メーカーとして参戦し、昨年は悲願のル・マン優勝を達成した。その後もWEC(世界耐久選手権)の2018-19シーズンのレースで勝利を重ね、「トヨタ」はメーカー選手権のマニュファクチャラーズタイトルを第8戦・スパ6時間レースで獲得。最終戦となる今回のル・マンではトヨタ8号車とトヨタ7号車が最も重要なドライバーズタイトルをかけて争うことになる。
これまでの獲得ポイントは8号車(ブエミ/中嶋/アロンソ)が160点。追う7号車(コンウェイ/小林/ロペス)は今回のポールポジション獲得で1点を加算し130点となり、両者には30点の開きがある。7号車は前戦・スパ6時間でハイブリッドシステムのセンサートラブルで後退したことが大きく響き、ル・マン決勝での最大獲得ポイントは38点であるため、8号車が総合7位以内で完走すれば7号車の逆転チャンピオンは叶わない。
タイトルを狙う8号車を元F1ワールドチャンピオンのフェルナンド・アロンソがドライブするが、アロンソのトヨタでの参戦は今回のル・マンが最後。アロンソは来季のF1復帰またはインディカーへのフル参戦を示唆しており、来シーズンからは元ポルシェのドライバー、ブレンドン・ハートレーがトヨタに加入することになっている。アロンソにとってはフェアウェルレースであり、2006年のF1以来13年ぶりのワールドチャンピオン獲得のチャンス。37歳という年齢を考えると世界王者の勲章を手にするラストチャンスになる可能性が高いので、まずはしっかり完走することが先決。トヨタは何かトラブルが起こってもハイブリッドのモーターでピットまで自走で戻る「ゲットホームモード」を備えている。
トヨタとプライベーターの差が接近
自動車メーカーのワークスが「トヨタ」しかおらず、ライバル不在感の強い今季のWECだが、オーガナイザーはレース毎にEoT(性能調整)を行い、トヨタワークスとプライベーターの差を埋めるようにしている。しかし、結果を見れば今季はトヨタが全7勝。落とした1勝はレース後の車両規定違反で失格となったシルバーストーン6時間のみで、常にトヨタが独走のレースであることは変わらない。
しかしながら、スプリントレース化している通常の6時間レースとは違い、ル・マンは魔物が棲むと言われるほど様々なトラブルやアクシデントが強豪チームを襲うレースである。トヨタにトラブルが起こらないとは限らない。
また、ル・マンはアクセル全開区間の多い公道中心のサーキットである。ユノディエールと呼ばれる長い直線を繋いだ区間はトップスピードが重要。クラス違いのマシンをストレート中でパッシングするためには最高速も大事な要素となるが、トヨタの最高速は性能調整で全く伸びていない。予選までの最高速ランキングではLMP1のライバル「SMPレーシング」(BR1/AER)が347.8kmを記録しているのに対して、トヨタは334.9km。トヨタはLMP2クラスのマシンとほとんど変わらない最高速にとどまっているが、そこはハイブリッドの立ち上がり加速で補っていく。
ライバルのプライベーターでトヨタに近いポテンシャルを持つ「SMPレーシング」(BR1/AER)と「レベリオンレーシング」(R13/ギブソン)は予選のラップタイムだけで行くと上記の2チーム4台とトヨタ2台の上位6台は1.3秒以内に入っている。昨年の上位6台の差が約6秒だったことを考えると、トヨタとプライベーターの差は大きく縮まっていることが分かるだろう。
しかし、そこはワークスドライバーを擁し、高い解析技術を持つトヨタだけに、レースではトヨタの2台がリードすることになるだろう。ただ、トラブル発生時、小さなミステイクが起こってしまった時に、ライバルの接近はトヨタにとって大きな脅威であり、マージンは決して多くない。ライバル勢がどこまでトヨタにプレッシャーをかけられるかがドラマを誘発する重要なキーとなるだろう。
フォード、BMWがワークス活動終了
総合優勝の争いはもちろんだが、WECの規定で開催される「ル・マン24時間レース」はプロトタイプカーのLMP1、LMP2クラスに加えて、GTE-Pro、GTE-AmクラスのGTカーが混走するところが面白い。
特に自動車メーカーがワークスチームを送り込むGTE-ProクラスはBoP(性能調整)がうまく作用しており、どのレースでも最後まで接戦の激戦バトルが見られる。GTE-Proにはフェラーリ、フォード、ポルシェ、アストンマーチン、BMW、そして米国IMSAからシボレーが参戦する。ル・マンで一番盛り上がっているのはGTE-Proクラスの戦いになっているのは事実だが、今大会をもってフォードとBMWがGTE-Proクラスのワークス参戦から撤退することになった。
フォードは2016年から2代目となる「フォードGT」を参戦させ、初年度にいきなりクラス優勝を達成。今回も米国IMSAからの2台を含む4台体制で最後の優勝を狙う。その成り立ちからGTクラスに参戦するプロトタイプカーとも言えるマシンだが、4シーズン目となると優位性は姿を消し、今季は優勝1回のみ。コース上での接触などミスも多く、結果には繋がっていないが、ワークス最後のレースとなるだけにドライバーたちは例年以上に気の抜けないレースになりそうだ。
そしてBMWは超大柄なサルーンカー「BMW M8」で今季から参戦したが、まだ未勝利。圧倒的な速さでレースをリードすることはなく、粘り強く戦わざるを得ない我慢のレースが続いていたが、僅か1シーズンでWECからの撤退を決定した。GT3のカテゴリーではM6が高いポテンシャルを見せていたBMWだが、ダウンフォースの増加を狙ってさらに大柄なマシンM8を投入したものの、その挑戦は厳しいものだった。耐えて、最後に美酒を味わえるかどうかはドライバーの頑張り次第だ。
なお、GTE-Proクラスのポールポジションは95号車「Aston Martin Racing」(ティーム/ソレンセン/ターナー)が獲得している。面白さを増していたGTE-Proクラスだが、来季からの年間エントリーは6台に減少。6メーカー入り乱れるル・マンは今回で見納めだ。
3人の日本人アマチュアが参戦
非プロドライバーの「ジェントルマンドライバー」の参戦を義務付けているGTE-Amクラスには今回、3人の日本人ドライバーが参戦する。今季フル参戦している70号車「MR Racing」(フェラーリ488)の石川資章(いしかわ・もとあき)、昨年SUPER GTにも参戦し、アジアンルマンで参戦権を得た「CarGuy Racing」(フェラーリ488)の木村武史(きむら・たけし)、そして88号車「Dempsy Proton Racing」(ポルシェ911)で58歳にして参戦する星野敏(ほしの・さとし)の3人である。
その中で星野が参戦する88号車「Dempsy Proton Racing」が公式予選でなんとクラス首位を獲得。最速タイムを記録した予選アタックを担当したのはポルシェワークスドライバーのマッテオ・カイローリだが、星野は夢のル・マンをポールポジションからスタートする。
また、クラス8番手からスタートする木村の「CarGuy Racing」は日本国籍のチームとなり、同じチームからはフォーミュラニッポンにも参戦経験がある日本育ちのケイ・コッツォリーノが参戦。フェラーリのワークスドライバーたちと遜色のないタイムを刻んでおり、初挑戦の「CarGuy Racing」はクラス優勝の可能性が高まってきている要注目チームである。
「第87回ル・マン24時間レース」はフランス現地時間の6月15日(土)午後3時(日本時間午後10時)にスタート。
日本では「J SPORTS」で24時間のテレビ中継が行われる。