「愛され」を求めるあまり、メンタル崩壊寸前のあなたに
いよいよ公開されたアカデミー賞作品賞の受賞作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。話題にはなってるけど、いまいち何の映画かわかりませんねー。まずはトレイラー見てみましょう。 はい、こちら。
見てもイマイチわかりませんねー。ヒーローもの?にしちゃ、バードマンってずいぶんキモイし、主役はかなりおっさんだし、てかふたりが同じフレームにインしてるし、舞台っぽいし、コメディっぽいし、どういう映画?って人も多いかと思います。ということで、今回はこちらをご紹介します。イケメンはいません。あえて言うならふたりのオッさんのパンイチが見られます。あんまり興味ないですね、知ってました。
さて物語。主人公のリーガンは、かつて『バードマン』というヒーローもので一世を風靡した映画俳優ですが、今やすっかり落ち目で金も仕事もない崖っぷち。なけなしの私財を投じて一念発起、自身の脚本・演出・出演の大真面目な作品のブロードウェイ上演を決めますが、初日は目前なのにいろんなことがしっちゃかめっちゃかで、リーガンは精神的に追い詰められまくり。でも一方で実は初日が来るのが怖くもあります。ブロードウェイは厳しい世界ですから、二流の映画スターなんて下手すりゃ辛辣な批評でボッコボコにされかねないわけです。
さらに彼の中のもう一人の自分が「バードマン」の姿で現れ、「こんなクソ芝居やってる場合か?お前はバードマンだろ?お前以下のヘボ俳優がヒーローもので稼ぎまくってるぜ」と、耳元で嘲笑います。全身ウロコみたいなボディスーツが不気味で、正義の匂い全くナシです。
この状況にさらに追い打ちをかけるのが、降板した俳優の代役に決まったマイク(エドワード・ノートン)。有名な舞台俳優をキャストできた!と喜んだのもつかの間、初日前のプレビュー公演では台本無視して人のセリフ取るわ、真っ裸になるわ、ベッドに寝てるだけのシーンで相手女優を襲おうとするわで、とにかくとんでもないトラブルメーカーです。
いいおっさんふたりが「子供か!」っていう言い争いから取っ組み合いしたり、エドワード・ノートンが意味不明にずっとパンイチだったりと、このあたり爆笑に次ぐ爆笑です。
そんな中で初日を迎え、「ヒーロー映画出身の二流俳優」でなく「実力派俳優」として称賛されることを夢見るリーガンのメンタル崩壊が始まってゆきます。
さてこの映画のキモは、リーガンが上演する演目『愛を語るときに我々が語ること』にあります。原作はレイモンド・カーヴァーの同名小説で、失った恋人を愛するあまり殺そうとし、ついには自殺を図る(がそれさえも失敗する)男が登場し、リーガンはそれを演じています。映画は「僕らがこんなに欲しがっている“愛”って、いったい何?」というテーマをこの劇中劇に語らせています。
リーガンが猛烈求めている「愛」は、もちろん「称賛を得ること」。でもリーガンをものすごく軽蔑している娘は「TwitterもFacebookもやらないパパなんて、すぐに忘れられる」と辛らつな言葉を投げつけます。娘にとっての「愛」のバロメーターはSNSの「いいね!」の数だったりするわけです。
イヤ、お嬢ちゃんね、SNSの人気なんて幻想だから――とか思うけど、こうやって記事をあげりゃあオバちゃんだって「いいね!」の数が気になっちゃうんだから不思議ですよねえ。多くの人が一銭の金にもならんのに「いいね!」が欲しくて、ネタが乾くのも構わず「美味しそうに見える寿司の写真」を何度も撮るし、ウケねらいの無法行為の動画とか写真を無思慮にネットにアップしちゃうわけです。
そういう風にハマっちゃうのは、人間はずっと昔からリアルでも同じようなことをやっているから。例えば舞台上でムラムラして女を襲おうとしたマイクですが、この人、実は私生活ではインポなんですね。曰く「舞台の上なら何でもできる」。周囲に受け入れられるキャラを作ったり、好かれるために自分を演じたり、それは普通の人の普通の日常です。時にそれが行き過ぎて、自分を見世物にだってしてしまう人がいるのは、やっぱり世の中に自分を顧みてもらいたいから。それを「いいね!」の数で数値化し「愛され」を幻想できるネット時代は、「愛」が何なのかよりわかりにくい時代なのかもしれません。
つい物語ばっかり話しちゃうのですが、この映画は映像もすごいものがあります。2時間ほぼ1カット(風)なんですね。どの場面もずっと長回しで撮って、時間の経過や場面の転換を部屋を移動するような形ですべてCGで繋いで、1カット風にしているんです。
これ実はかなり大変なこと。いろんなタイミング合わせなきゃならんし、演者だってNG出しちゃった日にゃシーンの頭からやり直しですから。でもカットの多い映画のように緊張感が途切れず、一気見しちゃうこと間違いなし。カメラはほとんど小さな劇場を出ませんから、迷宮みたいに感じられることでしょう。
さてその迷宮の中で、満身創痍のリーガンは「愛」を得ることができるのか。この突き抜けた、不思議な、そして感動的なラストを皆さんはどう見るでしょうか。破天荒なメキシコの監督の「ハリウッドお約束のイージーな結末なんて犬に食わせとけ!」って言う感じが、個人的には超好み!ぜひぜひご覧頂きたいですー。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
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