障がい者の結婚は難しいのか、婚活の現状や未来は? 日本初の「障がい者限定」結婚相談所に聞きました
障がい者限定の結婚相談所組織ができ、パーティーやお見合いで障がい者が婚活していることを知っていますか?
一般の結婚相談所では難しい、とされてきた障がい者の婚活。
障がい者限定の結婚相談所ができた経緯は? 今後はどうなっていくのでしょうか。
創立者、仲人、活動中の会員に障がい者の婚活について聞きました。
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平成30年10月ーー。
斎藤公子さん(30歳、仮名)は名古屋市のホテルで初めての婚活パーティーに参加していました。
「緊張して、ずっとしゃべっていましたね」と振り返る斎藤さんは、身体障がい3級の障がい者。
その日、行われていたのは、障がい者限定の婚活パーティーでした。
斎藤さんは小学生の頃、事故に巻き込まれました。
10分の心肺機能停止で脳機能の回復は99%難しいと診断されたそうですが、できたばかりの新しい治療法で、奇跡的に回復。
ただ、運動機能に障がいが残りました。
2年前まで、斎藤さんには交際していた男性がいましたが、将来への向き合い方に相違を感じ、結婚に至りませんでした。
その後、一般的な結婚相談所に登録したものの、結婚につながる出会いに恵まれませんでした。
現状、一般の結婚相談所で、障がい者の婚活は決して有利ではありません。
「おそらく(本当はそうとは限らないのに)結婚後に(お世話などで)苦労するから、できれば障がい者との結婚は遠慮したい」という心理からでしょう。
日本初! 全国展開の「障がい者限定の結婚相談所」
斎藤さんが参加した障がい者限定の婚活パーティーを主催したのは、日本で初めて全国展開の「障がい者限定の結婚相談所組織」を立ち上げた一般社団法人チャレンジド・マリッジでした。
チャレンジド・マリッジは平成29年に設立され、30年から本格始動。31年1月現在は19の結婚相談所が加盟し、障がい者同士のご縁を結ぶために活動しています。
なぜ今、障がい者限定の結婚相談所が設立されたのでしょうか?
理事長の中川亮さんに聞きました。
ーー設立の経緯は?
中川理事長「私は平成19年に就労支援事業所を立ち上げ、障がい福祉業界の仕事にかかわってきました。
同時に結婚相談所も運営していたのですが、5~6年前から障がいがあるご本人や親御さんから“障がい者専門ですか?”“作ってほしい”との問い合わせや要望を多くいただくようになりました。
考えたら、そういえば障がい者限定の結婚相談所はない。
障がい福祉と結婚相談の、どちらも熟知している自分にしかできないことだと思い、仲人系結婚相談所の本部としてチャレンジド・マリッジを立ち上げました。
障がい者限定結婚相談所の本部として、趣旨に賛同してくれる仲人や結婚相談所を集め、支援をしています」
ーー障がい者が一般の結婚相談所で結婚するのは難しい?
中川理事長「障がい者といっても、身体か精神の障がい者手帳を持つ人(知的障害は対象外)で、等級は関係なく、おひとりでも日常生活ができる方で男性は定職がある方に限定してサポートをするので、本来は難しいことはないはずです。
でも、お見合い前後に障がい者であることがわかると、一般の結婚相談所では敬遠されることもあります。
あと、僕の経験でお話しすると、女性の障がい者のほうが男性と比べてお相手と出会いやすいように思います」
ーーなぜ男性は女性より出会いにくいのですか?
中川理事長「障がいがあると生活力がないのでは?と思われることも多いんです。男性には生活力が求められることも多く、それが理由だと思います。
実際には、40代で障がい年金と合わせて年収600万円とか700万円という、収入が多い人もいます」
ーー障がい者の結婚事情は?
中川理事長「平成30年版障害者白書(内閣府)によると障がい者人口は身体と精神合わせて約828万人。平成25年版障害者白書(内閣府)では身体障がい者の約6割に配偶者がいることがわかります。
障がい者でも出会いの場があり、正しく認知されれば結婚できると考えています」
障がい者同士の婚活は「互いに理解しやすいという点で結びつきやすい」
チャレンジド・マリッジに加盟している結婚相談所では、どのような活動が行われているのでしょうか?
愛知県豊田市で障がい者限定結婚相談所のハートアプローチを運営する星山いく子さんは、パーティー開催とお見合いセッティングで、障がい者の婚活をサポートしています。
昨年10月に開催した婚活パーティーでは男女12人が集まり、3組がマッチング。
会員同士のお見合いでは、「ろうあの方同士とか、精神障がいの方と車いすの方とか、いろいろな組み合わせ」の障がい者が出会っています。
では、実際に障がい者同士の結婚は成立しやすいのでしょうか。
星山さんは言います。
「互いに理解しやすいという点で結びつきやすいですね。相手を理解することが結婚には大事ですから」
結婚・子育てによって“与えてもらう”障がい者が“与える”立場になる
星山さんは6年前、障がい者や難病の方が雇用契約を結んで働く場である就労継続支援A型事業所を立ち上げました。
多くの障がい者と密接に関わる中で、「障がい者に障“害”はない」と断言できるようになったそうです。
「私自身、じっとしていられないでよく動くのですが、それが自分の個性だと思っています。
障がい者の障がいも個性で、個性を持って謙虚に生きている。健常者でも協調性を欠いているなどで、周囲に対して障“害”となっていることもありますよね。
人はひとりひとり違うのに、ある傾向だけを障がいとし、それがある人を分別して、差別するのは、違うと思うんです」
星山さんが運営していた就労継続支援A型事業所では、障がい者自身も周囲も障がいを個性とし、「障がい者」として扱うことをしなかったそうです。
具体的には対等で平等であるために、権利も義務も平等としたそうです。
時には契約した障がい者が障がいを“盾”にして仕事の成果を制限することがありました。
そういうとき、星山さんは「うちも事業だから働いてもらわないと困るのよ」と、義務の遂行を諭したそうです。
遂行可能な仕事まで「障がいがあるから」と甘えて、やらずに逃げたり、諦めてほしくないーー。
そんな思いを伝え続けたところ、ある20歳代女性は、仕事をしているうちに、硬直した手が動くように。
ある男性は狭いスペースが好きなのであえて狭いスペースで仕事をしてもらったら、驚くようなパフォーマンスだった、というケースもあったそうです。
そんな星山さんが障がい者限定の結婚相談所を立ち上げたのには理由があるといいます。
「障がい者手帳を持つと“与えてもらうもの”が多いんです。税金の減免とか、申請によって障がい者年金とか。だけど結婚し、また子どもを持つと“与える”立場になるんです」
障がい者は税金などの面で優遇されていますが、結婚して子育てするようになると、優遇されるばかりではいられなくなります。
“他者”に対する責任が生じ、より一層の自立が求められるわけです。
それこそが、障がい者も健常者も隔たりなく生きる世界に必要で、幸せへの第一歩だという信念を持って、星山さんは婚活応援をしています。
障がい者限定結婚相談所の目指す未来とは
今は「バリアフリー」でも、近い将来「ユニバーサルデザイン」にーー
「バリアフリー」とともに、最近よく聞く言葉に「ユニバーサルデザイン」があります。
バリアフリーは、障がい者や高齢者といった特定の人のために使いにくさを減らすもの。
ユニバーサルデザインは国籍の違いや個人差に配慮して多様なユーザーが使いやすいようにするもの。
結果的に同じ形状になったとしても、そこに至るまでの考え方は全く違います。
中川理事長はチャレンジド・マリッジを設立するにあたり、「障がい者を弱者と思ったことはありません。人と人は、年齢が違ったり、性別が違ったりする。障がいがあるかないかも、そういう違いのひとつです」といいます。
その理念は、多様なユーザーのためのユニバーサルデザイン的な考えに基づいているのです。
ただ、障がい者“限定”の結婚相談所であるので、やはり特定な人に対するバリアフリー的なアプローチに見えるかもしれません。
あえて「今はそれでいい」と筆者は思います。
なぜなら、「中高年」や「オタク」の婚活が歩んできた経緯と似ているように思うからです。
少し前まで、中高年やオタクは結婚相談所での婚活が不利だと言われてきました。
その中で、一部に「オタク専門の結婚相談所」や筆者のように「中高年に強い仲人」が現れ、「堂々と婚活できるんだよ」と諭し、道を拓きました。
結果、オタク男女や中高年男女が、今では当たり前に結婚相談所に登録し、婚活しています。
最初はバリアフリー的に“限定”したアプローチだったとしても、時がたてばユニバーサルデザインに変わることもあるのです。
障がい者限定の結婚相談所ができたことで、障がい者も健常者も関係なく婚活する未来が訪れるかもしれません。
パートナーと生きる未来を目指してーー
10月の障がい者限定婚活パーティーの後、前出の斎藤さんはチャレンジド・マリッジに会員登録しました。
「障がい者になって難しいと思っていた大学進学も、就職も転職も、大変だったけれどできたんです。
だから私、思えばかなう、と信じています。
結婚もしたいと思えばできる! 新婚旅行は、ハワイかベトナムに行きたいですね」
パートナーと生きる未来、一緒に行く旅行。それに向けて、婚活すると決めた斎藤さん。
その目はキラキラと、希望に満ちていました。
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