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「北朝鮮のミサイルにサリン」軍事評論家も安倍発言に呆れ―集団ヒステリーは北の思うつぼ

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
「北朝鮮の脅威」を強調する安倍首相だが連休中の外遊やゴルフなど緊張感がない。(写真:つのだよしお/アフロ)

一時は米国の先制攻撃による戦争もあり得ると危惧された北朝鮮情勢。だが、在韓・在日の米国人への避難勧告は未だ発令されておらず、米国のトランプ大統領は「条件が整えば金正恩と会ってもいい」と発言。今月9日にはロイター通信が「トランプの強気は単なる威嚇か」との記事を配信したように、ただちに戦争が勃発する情況ではないという見方が広まっている。他方、当初から危機を煽ってきたのが、安倍政権だ。先月13日の外交防衛委員会では、安倍晋三首相は「(毒ガスの)サリンを弾頭に付けて着弾させる能力を既に北朝鮮は保有している可能性がある」と明言した。だが、そもそも弾道ミサイルに化学兵器を乗せて使うということは現実的ではなく、安倍首相は不確かな情報でパニックを引き起こそうとしているのでは、という見方もある。1990年代からミサイルと化学兵器の関係について分析を行ってきた軍事評論家の古是三春さんに、安倍首相の「弾道ミサイルにサリン」発言について、検証してもらった。

〇弾道ミサイルに化学兵器は不向き

古是さんは「弾道ミサイルは、速度、飛行特性、着弾時の状況からBC(バイオ=生物、ケミカル=化学)兵器の応用には向きません」と言う。

古是三春さん
古是三春さん

「弾道ミサイルは、あくまで、核弾頭か通常弾頭(炸薬弾)での運用が基本です。生物兵器(病原菌やそれを介在する生物=ノミやネズミなど)を弾頭に仕込んでも、発射時の大きな圧力で生命体が失われたり、着弾時も同様な問題やそもそも汚染範囲が広がらないなどのことから、弾道ミサイルで相手側に撃ち込むにはあまりに非効率で効果がありません。化学兵器、特に代表的な毒ガス兵器では、汚染範囲が極めて限られる上に、毒性を持つ化学物質は高熱などによって組成変化を起こしやすく、弾道ミサイルでは大気圏外に出てから再び大気圏内に落ちてくる際に発生する高熱の影響で無害化したり、着弾しても極めて限られた範囲でしか空気汚染地域を作れない問題があります。そもそも、毒ガスは大気中の水分やその他の成分で無害化される前提で組成変化されており、発生後20分前後で無害化したり、残留性の高いサリン(1週間程度)でも水をかけるとすぐに無害化しやすいなどのことから、弾道ミサイルでは有効に活用しにくいものです。分かりにくい方は、こう考えるといいです。化学兵器は基本的に殺虫剤と同じ性質のもので、スプレーでゾル(霧)化すれば効果がありますが、薄い風船にいれて液を投げつけても効果のある範囲は狭まってしまうという事実を考えれば、理解できると思います、毒ガス兵器は、かつて旧日本陸軍がやったように小口径の砲弾に少量ずつ充填して、多数を目標に打ち込んでガスを発生させたり、農薬散布用の航空機や無人機で噴霧させて散布させるのが効果的で、ミサイル弾頭にいれて着弾時に爆発させても、あまり効果的な散布ができないのです」(古是さん)

〇不正確な情報で危機煽るべきではない

古是さんは、安倍首相や政府関係者らに事実に基づいた主張をするべきだ、と注文を付ける。

安倍総理をはじめ、政府はそうした事実を明らかにせず、質問主意書への答弁で『化学弾を搭載したミサイルを迎撃ミサイルで撃ち落としても大丈夫』とのまったく無意味なことを述べるから、パニックを広げてしまっているとしか言いようがありません。こうした言動で、日本の人々が集団ヒステリーを起こしたら、それこそ北朝鮮の思うつぼなのです。安倍政権を追及する野党側も全く不勉強なので、しっかり勉強して論戦してほしいですね」(古是さん)。

〇北朝鮮情勢の「緊迫」は安倍政権に有利?

北朝鮮に核開発を断念させること自体は重要な課題ではあるが、冷静に情勢やリスクを見定めるべきであろう。北朝鮮情勢にからみ、イギリスの公共放送BBCは「安倍晋三首相や稲田朋美防衛大臣は、日本国憲法を廃止しようとしている右派のナショナリスト」だと評し「 安倍首相は、日本を再軍事化することへの国民の懸念が広がっていることを知っている。 そういう意味では北朝鮮からの脅威が増大することは彼にとって有益だろう」と分析している(5月1日付のウェブ版)。日本のメディア関係者も、また一般の人々も、安倍首相らがどのような意図で北朝鮮情勢について語るかも、見極めないといけないのかもしれない。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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