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イスラエル首相、逮捕恐れアウシュビッツ解放80周年式典を欠席か―ポーランドが筋を通した理由

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ネタニヤフ首相(中央)とプーチン大統領(右) 2020年エルサレムでの式典にて(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ナチスドイツがユダヤ人やその他のマイノリティ、同性愛者、障がい者等を大量殺戮したアウシュビッツ強制収容所が解放されてから、来月27日で80年を迎えるが、同収容所跡のあるポーランドを訪問することを恐れ、イスラエルのネタニヤフ首相は、解放記念式典を欠席する見通しだという。ポーランド現地紙「ジェチポスポリタ」(12月20日付)が報じた。この間、パレスチナ自治区ガザでの市民の虐殺への国際社会から批判に対し、イスラエル側は「反ユダヤ主義だ!」と"逆ギレ"してきたのだが、ユダヤ人にとって極めて重要なアウシュビッツ解放式典に、ネタニヤフ首相が戦争犯罪人であるが故に参加できないという、何とも皮肉なことになりそうだ。

〇ポーランド「国際刑事裁判所に従う」

 ジェチポスポリタ紙は、イスラエル当局はネタニヤフ首相の式典出席について、ポーランド側に何の連絡もしておらず、ネタニヤフ首相が式典を欠席する可能性が高いと報じている。これに先立ち、今年11月21日、国際刑事裁判所(ICC)は、ネタニヤフ首相とガラント前国防相に対し、ガザでの戦争犯罪と人道に対する罪の容疑で逮捕状を発行した(関連情報)。ポーランドはローマ規定(ICC条約)に署名した124カ国(含む日本)の一つであり、これらの国々には、自国の領土にネタニヤフ首相とガラント前国防相が足を踏み入れた場合に、彼らを逮捕する義務が生じているのだ。そして、仮にネタニヤフ首相らがポーランドを訪問した場合の対応について、同国のバルトシェフスキ外務副大臣は、「私たちは国際刑事裁判所の決定を尊重する義務がある」と述べているのだという。

 過去のユダヤ人迫害の負目もあってか、欧州ではネタニヤフ首相らの逮捕状に対し、態度を明確にしていない国々も少なくないが、今回、ポーランドが毅然とした対応を取るとしていることについて、ジェチポスポリタ紙によれば、ポーランド外交筋は「我々はロシアのプーチン大統領が国際刑事裁判所に出廷することを期待している。したがって、我々は国際刑事裁判所の決定に従わなくてはならない」と語っているのだという。

 国際刑事裁判所は、ロシアのプーチン大統領に対し、ウクライナ侵攻において、同国の子ども達をロシアに連れ去る大領領令を出したことが戦争犯罪にあたるとして、逮捕状を発行している。そして、ポーランドは、当時はソビエト連邦であったロシアに侵略された過去の経緯(1939年のポーランド侵攻)等から、ウクライナ支援に積極的である。米国やドイツなどが、ウクライナ侵攻でロシアを批判し制裁を科す一方、イスラエルのガザ攻撃は支持し軍事支援や兵器移転を行うという深刻な矛盾を生じさせている中、ポーランドの対応は極めて筋が通っていると言えよう。 

ロシア軍の攻撃を受けたウクライナ北東部ハルキウ市外地 筆者撮影
ロシア軍の攻撃を受けたウクライナ北東部ハルキウ市外地 筆者撮影

〇ユダヤ人でもパレスチナ人でもジェノサイドは許されない

 今回のポーランドの対応はイスラエル、とりわけ同国の右派政治家達にとっては大きな打撃だ。ネタニヤフ首相らは、世界のユダヤ人の間でもイスラエルによるガザ攻撃等のパレスチナでの虐殺や占領に対し否定的な声が高まっているにもかかわらず、ガザ攻撃等への国際社会の批判を、「反ユダヤ主義」とレッテル貼りすることで封じようとしてきた。筋違いの暴論であるが、こうしたレッテル貼りは、特にドイツなど欧州の国々に対し極めて効果的であった。だが、戦争犯罪や人道に対する罪は、国や民族に関係なく、普遍的な国際法や国際人道法の重大な違反である。つまり、ナチスドイツによるユダヤ人迫害・大虐殺も、イスラエルによるガザ攻撃も、戦争犯罪や人道に対する罪という点において同質なのである。それを極めて象徴的なかたちで示したのが、ネタニヤフ首相らが戦争犯罪や人道に対する罪で逮捕状を発行されているが故に、アウシュビッツ解放80周年式典に参加できないということなのだ。

 

〇日本の姿勢も問われる

 今回のポーランドの対応は、また、日本の外交姿勢を問うものである。日本は米国やドイツ等程、露骨なイスラエル支持ではないが、ネタニヤフ首相らの逮捕状に対しては、曖昧な態度を取っている。だが、ロシアに対し制裁を科す一方で、イスラエルを支援する米国やドイツ等の一部の欧州の国々のダブルスタンダードは、「法の支配」を揺るがし、国際秩序を脅かしている。イスラエル軍の攻撃によるガザでの犠牲者数は4万5000人を超え、その大半が女性や子どもといった非戦闘員だ。また、国連等によるガザへの人道支援もイスラエル当局によって妨害を受け、このまま食料や水、医薬品が深刻な欠乏が続けば、空爆等の攻撃による被害を上回るような被害をもたらすとも懸念されている。日本としても、ポーランドにならい、イスラエルに対して、より踏み込んだ対応をすべきであろう。

(了)

*本稿を執筆するにあたり、翻訳家の斎藤ラミスまやさんの発信を参考にさせていただいた。この場を借りて謝意を表したい。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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