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「中国人研究者が“研究所流出説”を報告書に入れないよう圧力をかけた」WHO調査団リーダー 欧米報道

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
今年初め、WHO調査団を率いて武漢で新型コロナの起源調査を行ったエンバレク博士。(写真:ロイター/アフロ)

 中国は、13日、WHO(世界保健機関)が呼びかけている新型コロナウイルスの起源に関する追加調査を拒否、今年1月に武漢で調査を行ったWHO調査団が発表した報告書を放棄することに反対の意思表明をした。

 3月30日に発表されたその報告書には、新型コロナは研究所から漏れ出て広がったとする仮説、いわゆる「研究所流出説」が含まれてはいるものの、その「研究所流出説」については「極めて可能性は低い」と結論づけられている。

 しかし、その結論に至るまでは中国側からの圧力があったようだ。米有力紙ワシントンポストをはじめ、欧米のメディアが報じている。

中国人研究者からの圧力

 WHO調査団のリーダーを務めたのはデンマークのピーター・ベン・エンバレク博士だったが、同氏はデンマークのテレビ局TV2が制作したドキュメンタリー番組「ザ・ウイルス・ミステリー」(12日放送)の中で、「研究所流出説」に関する圧力についてこう話しているという。

「最初、彼ら(中国人研究者たち)は、報告書に研究所について一切入れたがらなかった。我々は、入れたいと主張した。ウイルスの起源に関する問題の一部だからだ」

 なかなか意見の一致を見なかったWHO調査団と中国人研究者たち。

 最終的にどうなったのか?

 エンバレク博士によると、議論の末、中国人研究者たちは「研究所流出説」についてさらなる具体調査をすることを報告書でレコメンドしないという条件で、報告書の中で「研究所流出説」について論じてもいいと折れたという。

 また、報告書では、「研究所流出説」は「極めて考えにくい」とされているが、「そのフレーズを使うことにしたのは、中国側が要求したからか?」という質問に対して、エンバレク博士は「最後に、我々はそのカテゴリーに入れることを選択した。その通りだ」と話している。

 つまり、「極めて考えにくい」というのは、WHO調査団が中国側に妥協して出した結論だったということになる。

 そして、3月に発表された報告書では、妥協のままに「研究所流出説」は「極めて考えにくい」とされ、さらなる調査をすることもレコメンドしていない。

研究所流出はありえる

 もっとも、エンバレク博士は、「研究所流出説」は「極めて考えにくい」という結論にしたことについて、それは「可能性がない」という意味ではないとも言及しているという。「あるいはありえる」というのだ。

 同氏が「あるいはありえる」と考えたのは、研究所従業員が洞窟でコウモリのサンプルを採取中に感染し、ウイルスを研究所に持ち帰って、そこから流出して広がった可能性があると考えているからだ。その場合、最初の感染はコウモリから人への直接感染であり、報告書の中では「考えられる」というカテゴリーに入れられている「動物から人に感染した仮説」とも言えるという。

 エンバレク博士は研究所流出について「あるいはありえる」と考えていたものの、報告書では「極めて考えにくい」という結論にしたことについて、WHO顧問のジェイミー・メツル氏はこう訴えている。

「国際専門家調査団は、中国政府を喜ばせるために、新型コロナの起源に関する彼らの分析を変更することに同意する前に、中国を去るべきだった。彼らは妥協することに同意し、中国政府のプロパガンダの道具になった」

中国CDCの研究所を懸念

 エンバレク博士はまた、番組の中で、「私がさらに懸念しているのは別の研究所だ。海鮮市場の隣にある研究所だ」と初期の感染者が現れた海鮮市場から1600フィートのところにある中国のCDCが運営する研究所について懸念を示している。

 その研究所について同氏が運営側に「いつできたのか?」きいたところ、彼らは「2019年12月からあり、12月2日にその研究所に引っ越した」と話したという 。

「その時期にすべてが始まっている。研究所の引越しをしたら、研究所の日々のルーティンワークは混乱する。コウモリに関する彼らの直近の論文は2013年のものだが、だからといって、2013年以降にコウモリの研究をしていなかったとは限らない」

エラーを隠したい人もいる

 また、ドキュメンタリー番組を流したTV2のウェブサイトで、エンバレク博士が、エラーを認めることを許していない、完璧を重視する中国では、エラーを隠したい人もいるのではないかと指摘している点も興味深い。

「そんな出来事の裏には人間のエラーがあるのかもしれないが、彼らはそれを認めたくないのだ。システムは絶対に間違いを犯さないことを重視していて、すべては完璧でなければならない。何かを隠したい人もいるかもしれない。ひょっとしたらね」

翻訳ミスなのか?

 ところで、エンバレク博士は、この番組でした発言についてコメントを求められているが、インタビューはデンマーク語から英語にする段階で翻訳ミスされたと言い、コメント拒否している。

 WHOのスポークスマンも「翻訳ミスされた。インタビューは何ヶ月も前に収録されたものだ。新しい要素も、すべての仮説を考慮するというスタンスの変更もない」と話しているが、どこがどう翻訳ミスされたかについては言及していない。

 WHO事務局長のテドロス氏は先日、こう明かしていた。

「早い段階で、武漢ウイルス研究所がパンデミックの起源だという選択肢を外そうとする圧力があった」

 結局のところ、エンバレク博士の発言はテドロス氏が言及した圧力を裏づける発言ではないか。

 バイデン大統領は、新型コロナの起源の追加調査に90日間の調査期間を設定しているが、その期限はあと1週間に迫っている。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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