通勤中に雪で転けて怪我したら労災事故 事故がもっとも多いのは積雪の「二日目」
1月6日から7日にかけて、首都圏を巻き込んで雪が降った。気象庁は東京23区に対して、2018年以来4年ぶりに大雪警報を出して警戒を呼びかけ、積雪が10センチ前後に達する恐れもあるとされた。
首都圏の人からすれば、具体的に何に警戒しなければいけないのかはわかりづらいだろう。安全を優先して休職や遅刻を認める企業も多くないと予想される中、社会人は特に出勤時や業務中の事故を懸念すべきだ。こうした、積雪に関連した通勤中や勤務中の事故は「労働災害」の扱いになる可能性が高い。もちろん、事故にあわないにこしたことはないが、起きた場合のことも知っておいて損はないだろう。
そこで本記事では、第一に、労災事故予防のために労働者や会社が気をつけるべきこと、第二に、もし労災事故に遭ってしまった場合に労働者が注意するポイントについて解説してみよう。
4年前の1月の積雪時は、都内で200件の転倒労災事故
降雪時の典型的な労災事故は、転倒だ。北海道労働局のホームページには以下のような事例が紹介されている。
こうした被害は雪国だけのことではない。気象庁が前回、東京23区に大雪警報を出した2018年1月22日前後の被害を振り返ってみよう。
その日、都内は23センチの積雪が記録される大雪に見舞われた。その結果、東京都内の毎月の転倒労災事故(4日以上の休業を要したもの)は通常200件前後で推移していたところ、この1月は435人に及んでおり、この月だけ突出して200件もの転倒が上積みされている。大雪の影響であることは言うまでもない。今回も同様に、都内で積雪による転倒事故の増加があることは確実だろう。十分に気をつけてほしい。
また意外に思われるかもしれないが、同年1月で転倒災害が一番起きたのは、積雪当日や翌日ではなく、2日後の1月24日で、83件だった(1月22日が48件、23日が41件)。実は雪が溶け始めてからの路面凍結による転倒災害のほうが危険であることがうかがえる。
東京都労働局は、冬の転倒災害予防のために注意すべきポイントとして、以下のような内容を挙げている。労働者が気をつけるべきこともあるが、労働者の安全を守るべき会社には、より十分な対応が求められるといえよう。
交通労災事故にも気をつけよう
路面凍結などにより、転倒だけでなく、業務中の交通事故が起きる可能性もある。上記の北海道労働局のホームページから事例を紹介しよう。
北海道の場合だからと甘く見ず、首都圏であっても、できることを検討しておくべきだろう。そもそも首都圏では、冬用タイヤに変えないまま、路面凍結のリスクのある道路を社用車で走るよう命じられる可能性すらある。バイクによるフードデリバリーのような業務は、特に注意が必要なものの一つだろう。同ホームページでは、冬季の交通労働災害について、下記の通り対策を列挙している。
もし、上記で示されているような安全対策が十分にできないにもかかわらず、上司から危険な業務を命じられていると感じたら、ぜひそのやりとりを録音するなどして、記録しておいてほしい。業務を断ったことを理由に不利益な扱いを受けた場合や、業務に応じて労災事故に遭ってしまった場合に、役に立つ可能性があるからだ。
通勤中の転倒や交通事故も労災になる
転倒や交通事故などの業務中の労災(業務災害)に加えて、通勤中の事故でも労災(通勤災害)となることも知っておきたい。福島労働局の統計では、2015年度の通勤災害550件のうち150件が、雪や凍結を原因とするものだったという。そのうち徒歩によるものが85件と半数以上を占めており、自動車によるものが42件、自転車が14件、バイクが9件となっている。油断しやすい徒歩が、一番件数が多いのである。
ただし、通勤災害には注意点がある。後述するような労災の給付を受けるには、労災保険法上の「通勤」の要件を満たしている必要があるのだ。
例を挙げると、移動を「合理的な経路及び方法」によって行っていない場合は、通勤災害として認められない。合理的な理由なく、著しい遠回りをしていて事故を起こした場合などがそれに当たる。
さらに、「移動の経路を逸脱し、又は中断した場合」として、トイレに行ったり、飲み物を買ったりというものであれば日常生活上必要な行為として認められるものの、就業や通勤と関係ない目的で経路をそれたり、通勤と関係ない行為を行ったりしていた場合は、やはり通勤として認められなくなってしまう。注意してほしい。
労災事故に遭ってしまったら……
労災事故に遭ってしまった場合は、労災保険制度を利用できる。労働基準監督署に労災事故に遭ったことを申請すれば、治療費の全額に当たる療養給付と、賃金の8割に当たる休業給付が払われる。基本的には会社に申請すれば、手続きをしてくれるはずだ。さらに改めて申請を行うことによって、後遺症が残る場合には、障害給付が支給され、万が一、被害者が亡くなった場合は、遺族に遺族給付が支給される仕組みになっている。
ただ、残念ながら会社側がこうした労災を申請させようとしないケースは非常に多い。労災の協力を拒否したり、有給休暇を無理矢理使わせて休ませたり、健康保険で対処させようとしてきたりといった事件は、一向に後を絶たない。
会社に労災手続きを拒否された場合は、会社に断られたと労基署に伝えれば、労働者自身で申請することができる。しかし、実際には「会社の協力をもらってきてください」と労基署に追い払われてしまったという労働相談も私たちには寄せられている。
また、会社が十分な予防対策を取っていなかった場合、会社側の責任を追求して、慰謝料や逸失利益といった損害賠償請求を会社に行うことができる(ただ、通勤災害の場合はかなり難しいだろう)。
労災申請や損害賠償について悩んだ場合は、労災を専門で扱っている労働組合、弁護士などの専門家にぜひ相談してみてほしい。
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