軍事ドローンの基礎知識
無人機(無人航空機)はドローンやUAVとも呼ばれますが、実は非常に範囲が広い概念です。例えば無人機の対義語は有人機ですが、動力の付いた有人機はウルトラライトプレーン(数百kg)やセスナ機(1トン)のような小さなものからジャンボジェット機(400トン)のような大きなものまで幅広くあります。同じように無人機も市販ドローン(数百g~数kg)からグローバルホーク(12トン)のような大型機まで幅広くあるのです。
また大きさだけでなく飛行制御方法が何種類もあり、それぞれできることも大きく違ってきます。これらを混同して考えると間違った理解になってしまうので、この記事では基本的な違いを説明してきたいと思います。
- 遠隔操作型ドローン(LOS通信)
- 遠隔操作型ドローン(衛星通信)
- プログラム飛行型ドローン
- 徘徊型ドローン
- ドローン迎撃ドローン
- 自律戦闘型ドローン
ドローンを飛行制御方法で大雑把に分けるとこの6種類となるでしょう。機体搭載カメラの映像を見て操作する遠隔操作型と操縦者が存在せず飛行する自力飛行型の2グループに大きく分けることもできますが、自力飛行型はプログラム飛行型と自律戦闘型では技術的に全く別物と言ってよく、きちんと分けて考えた方が理解も深まります。
1.遠隔操作型ドローン(LOS通信)
市販ドローンの軍事利用
LOSとはライン・オブ・サイト、見通し線の意味です。無線通信で操縦する際に操縦者と機体の間に障害物が無い状態ならば、無線の通信が可能となります。つまり地平線の陰に隠れるような遠距離や山が立ちはだかっている場合だと無線操縦ができなくなります。電波は回折するのである程度の障害物なら問題は無いのですが、森の外から森の中に居るドローンを操作するのは困難になります。民間向けに市販されている重量数百g~数kg、10万円~20万円くらいの価格帯の一般的なドローンは基本的にこの形式です。産業用や警察向けのこれより大きなものだと数百万円から1千万円を超える価格帯のものもあります。
そして無線通信で操縦する情報をやり取りする伝送距離がドローンの行動半径になります。現在の一般的な市販ドローンだと障害物が全く無い理想状態で3~4km。なお電波は高い周波数ほど直進性が高く回折し難くなり、伝送できる情報量は大きくなりますが伝送距離は短くなります。低い周波数は回折しやすいので障害物を周り込みやすく、伝送できる情報量は小さくなりますが伝送距離は長くなります。そこで低い周波数をドローン用に割り当てて伝送距離を10kmほどにする研究が行われています。
つまり現在の市販ドローンを軍事的な目的で利用する場合、平野部で数kmが限界です。森の中を隠れながら飛ぶのはLOSでの通信が要求されるので実質的にできません。障害物が多く干渉する電波も多い都市部では平野部よりも更に操作可能距離が短くなります。将来に伝送距離を伸ばしたモデルが出て来ても現在の2倍程度です。ということは、野戦の最前線で使うことは難しいと言えるでしょう。操縦者と機体が数km以内に居る時点で操縦者が目視で発見される危険性がある上に、不審な電波を通信しているのです。もし敵に電子戦部隊が居たら簡単に位置を特定されてしまいますし、強力な電子妨害を掛けられたらドローンはまともに飛べなくなるでしょう。戦闘状態にある装備の良い正規軍が相手では全く通用しません。
ゆえに市販ドローンを軍事利用するならば装備の悪い武装勢力を相手に使う場合か、装備の良い正規軍を相手にする場合は後方の警戒レベルの低い拠点、あるいは平時に油断したところをテロ攻撃するような使い方になります。平時ならば民間で一般利用されているドローンと紛れることになるので奇襲が期待できます。そこで防御側の対策としては、
- 基地及び周辺をドローン飛行禁止区域に設定
- ドローン警戒システムの設置、迎撃手段の用意
以上の対策が求められます。本格的な防空システムを置いていないような小さな拠点にもドローン警戒システムを置かなければならないコストが発生します。なお市販ドローンは製造会社が紛争地域や軍事施設、民間空港の近辺を飛行できないように設定している場合が多いのですが、それでも使われているところを見ると設定を回避するやり方があるのでしょう。ドローン警戒システムについては4種類の探知方法があります。
- レーダー
- 音響探知
- 電波逆探知
- 光学カメラ
市販ドローンはマルチコプター(複数ローター)の一種であるクアッドローター(4枚ローター)が殆どです。このタイプは4枚のローターの回転数をそれぞれ別個に制御して操縦します。回転翼であるローターは独特なレーダー反射パターンを有するので目立ち、鳥や風船(アルミ蒸着したもの)との区別は容易です。
また4枚のローターは常に別個に制御され回転数が同調しておらず、微妙にずれた回転音は互いに干渉し唸りとなって低周波音となります。この低周波音は遠距離まで届く性質を持っています。以上の2点からクアッドローター機は小さいながらも目立つ存在です。
そして迎撃方法については平時の市街地ではミサイルや機関砲の発射は流れ弾の問題があり気軽には撃てません。広域に仕掛ける電子妨害も民間に大混乱を招くので無理です。そこで・・・
- ドローン迎撃ドローン
- 指向性電子妨害銃
- レーザー砲
ドローン迎撃ドローンは後述の項目でも触れますが、ドローンで体当たりやネットで絡めとり穏便に敵ドローンを阻止する方法です。電子妨害は指向性の強いもので周囲の影響を最低限にします。そしてレーザー砲は高いビルなどにうっかり向けない限り流れ弾が発生しない利点を持つので市街地付近での配備に適しています。小型ドローン相手なら低出力の物でも機能するため技術的なハードルも低く、近い将来に配備することも可能です。
軍事用ドローン(LOS通信型)
LOS通信を用いる軍事用ドローンとしてはトルコのバイラクタルTB2などがあります。固定翼で推進式プロペラを持ち市販ドローンよりも機体が大きく高い高度を飛ぶことで見通し線の距離を長く取れるので、バイラクタルTB2の場合は車両サイズの地上通信システムと最大150kmの通信伝送を可能とします。ただし150km先で地平線の陰に隠れないように見通し線を余裕をもって確保するには機体は少なくとも高度2000m前後を確保する必要があるので、低い高度を隠れて飛ぶような真似はできません。
LOS通信である限りは遠距離になるにつれてより高い高度を確保することが要求されるので、飛行が大きく制限されてしまいます。そこで人工衛星で電波を中継することで遠距離からでも自由に飛ばせるようになるのですが、衛星通信を確保するのに手間と費用が掛かるため、安く済ませたかったり作戦距離が200km前後までの場合はLOS通信型の軍事ドローンが中小国に採用されるケースが多くなってきています。例えば中国製CH-4無人機は衛星通信型とLOS通信型の両方があり、顧客に合わせて販売しています。
2.遠隔操作型ドローン(衛星通信)
遠隔操作型ドローンは衛星通信を使うことで地球の反対側からでも操縦できるようになります。最も有名な軍事用の無人攻撃機MQ-1プレデター(既にアメリカ軍からは退役)、現在のアメリカ軍の主力ドローンであるMQ-9リーパーがこの方式です。大きさも重量が数トンあり価格も数億円から十数億円する機材なので、市販のドローンとは全く別物です。世界最大級のドローンである無人偵察機RQ-4グローバルホークは重量12トンで値段は100億円以上もします。
なお産業用や学術調査用のドローンで衛星通信を採用している物もあります。こちらは重量が数十kgから数百kgの物が多く、値段は数百万円から数千万円台です。
衛星通信により遥か遠い距離から操縦できるようになったとはいえ、無線通信である以上は弱点の多くがそのままになっています。強力な電子妨害を受ければ操縦できなくなる恐れがあるので、プレデターもリーパーも対ゲリラ掃討用であり、装備の良い正規軍相手に正面から攻撃を仕掛けるような使い方は全く考えられていません。また電波の使用帯域の問題から同じ場所で同時操作数をあまり増やすことはできないので、大編隊を組むような使い方も出来ません。強力な敵正規軍相手に正面から攻撃する場合、無線通信で遠隔操作する方式は全く不向きであり、自力飛行する方式が求められることになります。
3.プログラム飛行型ドローン
事前に決められた飛行コースを設定してその通りに飛んで来るプログラム飛行型ドローンは操縦者が介在しません。軍用の演習で使う標的機(ターゲット・ドローン)が元であり何十年も前からある古い技術で、偵察用ドローンなどにも採用されてきました。またイエメンの武装組織フーシ派がサウジアラビアへの攻撃に使用して有名になった自爆ドローン「Qasef」がこの形式ですが、実は新たな脅威などではなく古くからある標的機という機材の転用だったのです。
標的機改造の自爆ドローンが攻撃用に使われるようになったのは、GPSを代表とするGNSS(全地球衛星測位システム)の普及が大きな転機です。これまでプログラム飛行は慣性航法装置(INS)を用いて自己位置を計算しながら飛行していましたが、GPSを併用することで精度が格段に向上しました。長距離を飛行しても誤差は少なく、固定目標に限られますが高い精度で命中を期待できるようになったのです。そしてこれは巡航ミサイルでも同じ転機が訪れて、GPS誘導主体の簡易な巡航ミサイルが増えだしています。もはやこうなってしまうと誘導方式でプログラム飛行型の自爆ドローンと巡航ミサイルに差が無くなってしまいました。ゆえにプログラム飛行型の自爆ドローンはドローンと認識せずに「安くて遅い小さな巡航ミサイル」と捉えた方が実態に近いのかもしれません。
巡航ミサイルに対してプログラム飛行型ドローンの利点は値段です。大きさにもよりますが固定翼のプロペラ推進で重量が数十kgから100kg弱のものなら、1機あたり数百万円から1千万円くらいが製造コストになります。これは巡航ミサイルの10分の1以下の製造コストです。逆に弱点は機体がミサイルより小さいので炸薬量の少なさと、プロペラ推進での移動速度の遅さです。特に問題となるのは移動速度で、巡航速度が時速200kmとした場合は1000kmの移動に5時間も掛かってしまいます。ジェットエンジンの巡航ミサイルなら亜音速の一般的なものでも1時間と少しで到着するのと比べると、飛行中に発見されてしまう確率が跳ね上がってしまいます。
そしてプログラム飛行型の自爆ドローンは「安くて遅い小さな巡航ミサイル」である以上、巡航ミサイル対処と同じ機材で発見できます。つまり自爆ドローンは巡航ミサイルと同じく低空を飛ぶので地上のレーダーからは遠距離では地平線の陰に隠れてしまうため、空中に居る早期警戒機で探知して戦闘機を呼び寄せて撃墜する方法です。きちんと空中から警戒していれば、のんびりした速度で5時間も掛けて飛んで来る飛行物体は簡単に気付かれてしまうでしょう。
またプログラム飛行型ドローンは民間でも活躍しています。医療制度が完備されていない発展途上国で遠隔地に医薬品を投下して帰って来る配達ドローンとして、長距離を飛べる固定翼プロペラ推進のプログラム飛行型ドローンは無くてはならない存在となっています。
なおプログラム飛行型を自律型あるいは自律飛行型と紹介される場合がありますが、それは後述の「自律戦闘型」とは全く意味が異なるので注意が必要になります。
4.徘徊型ドローン
徘徊型ドローンは戦場で滞空し、目標を発見次第に突入する攻撃用の自爆ドローンです。人工知能が発達すれば後述の自律戦闘型ドローンに進化できるのですが、現状では敵の使用するレーダー波をパッシブセンサーで探知して突入する自爆ドローンのような単純なものくらいしか実用化されていません。対レーダー自爆ドローンは複雑な人工知能を必要としない単純な制御となっています。最も有名なのはイスラエルIAI社製「ハーピー」「ハロップ」、そして中国がハーピーを模倣製造した「JWS01」、これに台湾が対抗して作った「剣翔」などがあります。これらは全てハーピーとよく似た形状をしています。
ハーピーはデルタ翼(三角翼)の翼端に垂直尾翼を持つプロペラ推進式のドローンで、形状が2019年9月14日に起きたサウジ石油施設攻撃に使われた自爆ドローンと非常によく似ています。そこでハーピーのコピーであるJWS01が中国からイランに渡りプログラム飛行型に改造された可能性が一部で疑われていますが、ただしこれはあまり根拠の無い憶測になります。デルタ翼のドローンはハーピーの系統だけでなく標的機でも見られるので、そちらから派生した可能性もあります。
なお近年イスラエル・エルビット社製「スカイストライカー」自爆無人機が新しく実用化されましたが、これは対レーダー突入型ではなくカメラ映像で目標を認識して突入する方式です。ただし車両や兵士を見付けて突入することが可能ですが、敵味方や第三者を見分けて攻撃するかしないかを決断するような高度な人工知能はやはり無いままなので、遠隔操作をせずに徘徊させる場合は確実に敵のみが居る領域にしか飛ばすことはできません。
5.ドローン迎撃ドローン
ドローンを迎撃するのにドローンを使おうという発想です。これには理由が二つあり、一つは安いドローンに高価なミサイルで迎撃していたら勿体ないというもの。もう一つの理由は市販品ドローンの項目でも触れましたが、市街地に隣接した基地で平時の警戒でミサイルや機関砲を使用した場合は流れ弾の被害が出てしまうので、付随被害を出し難い穏便な迎撃方法としての手段です。
ドローン迎撃ドローンは地上のレーダーなどのセンサーで発見した目標にドローンを向かわせて搭載カメラで捕捉し体当たりなどで迎撃します。つまり誘導方式は赤外線カメラを搭載したミサイルと全く同じです。ミサイルと異なるのは前もって警戒飛行して滞空し続けて待ち構えておくことが可能な点です。ドローンの種類によっては迎撃後の再利用も可能です。
市販ドローンに多いマルチコプター型に対しては同じマルチコプター型のドローンを用いて、体当たりやネットで絡め取って無力化する平時の市街地近辺での警備に向いた方式が考案されています。しかし軍事用の固定翼プロペラ推進型の自爆ドローンに対してはマルチコプター型では速度が劣り迎撃できないので、こちらも固定翼プロペラ推進ドローンで迎撃しようと開発が行われていたのですが、アメリカ軍で採用されたドローン迎撃システムは途中で方針が変わりました。
アメリカのレイセオン社で開発された使い捨てドローン「コヨーテ」は、ブロック1で大きな主翼を持つプロペラ推進だったものが、ブロック2では主翼が無くなり長細い安定翼が付きジェットエンジンとなり「非常に低価格なミサイル」へとコンセプトが変更されています。ミサイル型となりましたが高速目標の対処を考えなくてよいのでコストダウンができました。コヨーテ・ブロック2とレーダーシステムを組み合わせたものをアメリカ陸軍は「Howler」、アメリカ海兵隊は「GBAD」として正式採用、戦場での使用を想定しているので弾頭部の炸薬の近接爆破で敵ドローンを迎撃します。ドローン迎撃ドローンというより、ほぼ迎撃ミサイルです。
「Howler」はパトリオット地対空ミサイルとシステムが統合され、目標が巡航ミサイル・弾道ミサイル・航空機ならばパトリオットを使用し、ドローンが相手ならコヨーテを使用して、迎撃コストの節約を図ります。目標の種類を速度や大きさ、レーダー反射パターンなどで正確に識別し適切な迎撃手段を割り振ります。
6.自律戦闘型ドローン
自律戦闘型ドローンは「自律型致死兵器システム(LAWS: Lethal Autonomous Weapon Systems)」とも呼ばれる、人工知能(AI)による自己判断で敵を攻撃する自動戦闘ロボットです。将来の戦場を一変させる存在と言われ、まだ実用化されてもいないうちに配備を規制しようという動きが世界各国で高まっています。人間の判断が介在せずに殺人を行う倫理面の問題、そして敵味方の識別はともかく第三者の民間人を識別して攻撃しないという高度な判断が本当にできるのかという疑問。最も開発が進んでいるアメリカ軍でさえ「無人システム統合ロードマップ」による予定では自律戦闘型の実用化は数十年後とされ、まだどのようなものになるか不透明な存在です。
完成すれば敵正規軍を真正面から攻撃できる性能になります。自己判断で行動するので電子妨害に強く、通信の周波数帯域の問題も無いので幾らでも同時投入数が増やせます。自動戦闘ロボットの群れが互いに協力しながら戦闘を行うスウォーム戦術を実行できるようになり、戦場はロボット兵器で溢れることになるでしょう。戦争の形態が根本から変わってしまいます。
電子妨害に弱い遠隔操作型ドローンや旧式兵器に過ぎないプログラム飛行型ドローンは実のところ大した脅威ではありません。本当に真の意味で脅威となるのは未だ見ぬ自律戦闘型ドローンなのです。
スウォーム(群体)戦術
誤解されることが多いのですが、ドローンのスウォーム戦術とは単に多くの機体で攻撃を行うことではありません。スウォーム戦術とは群体が個体同士でデータリンクを行いながら連携して攻撃することを言います。つまり個々が勝手に戦うのではなく、集団として一つの意志を持って行動し統率され複雑な作戦を行うことが要求されます。高度な人工知能による自律行動能力があってこそ達成できる戦術です。
例えばプログラム飛行型ドローンは操縦者が居ないので無線操縦の周波数の帯域といった問題を考えなくてよいので幾らでも同時に飛ばせる数を増やせますが、それは巡航ミサイルも同じです。しかし巡航ミサイルで同時に数十発を撃ち込むことは別に珍しいことではありませんし、誰もスウォーム戦術とは呼びません。ゆえに標的機改造で単純な飛行しかできないプログラム飛行型の自爆ドローンが数十機で攻撃を仕掛けたとしても、それは新戦術でも何でもないのです。古来からある単純な戦術、多数機での一斉攻撃に過ぎません。つまり2019年9月14日に起きたサウジ石油施設への数十機の自爆ドローン攻撃は、スウォーム戦術とは呼ばないのです。
【関連記事】自律型無人戦闘兵器と群体戦術の実用化の時期
※2020年9月30日、バイラクタルTB2とスカイストライカーの紹介を追記。