「東京ばな奈」の商標登録について
「”東京ばな奈”はなぜ東京なのにバナナ? ”奈”だけ漢字な理由は?」という記事を読みました。東京土産の大定番「東京ばな奈」について「“奈”だけ漢字なのはなぜ?」という質問に対してメーカーから「愛着を持ってもらうため、女の子の名前をイメージしてつけました。」との回答が返ってきています。これが広報としての公式回答なのだと思いますが、弁理士としては「商標登録するためですよね」と推測せざるを得ません。
一般に、地名+(商品の)普通名称の組み合わせは記述的であるとして登録できません(商標法3条1項3号)。ゆえに、菓子を指定商品にして「東京バナナ」あるいは「東京ばなな」を商標登録することは非常に困難です。消費者は「東京で作られたバナナが入っている菓子」というそのまんまの意味であると認識し、商標としての出所表示機能を果たさないと判断されるからです。東京はバナナの産地ではないのでそうは思わないのではという反論は現在の特許庁の運用では通用しにくいです。
例外としては、長年の使用により有名になっており識別性を獲得している場合、および、地域団体商標(松阪牛等)のケースがありますが、前者はハードルが高く、後者は地域の事業組合等が対象なのでそもそも今回の話とは関係ありません。
「東京ばな奈」のメーカー(株式会社グレープストーン)による最初の「東京ばな奈」の商標登録(4239432号)は1999年2月に行われています。審査段階では特に拒絶理由が通知されることもなく一発登録されているのですが、2015年に福島県の菓子メーカーから無効審判が請求されています。理由は、まさに上記に書いたもので、「ばな奈」と書いても消費者は「バナナ」と認識するので、「東京で作られたバナナ入り菓子」以外の菓子に対して使用すると商品の質の誤認混同を招く(商標法4条1項16号)というものです(除斥期間(一種の時効)の制度により商標登録から5年経過後は3条1項3号違反で無効にすることはできないのでこのような主張になっています)。
特許庁の判断は、「東京ばな奈」で一体の造語であり、消費者は「東京」+「バナナ」と認識することはないので、無効ではなく登録を維持するというものでした(ゆえに、仮に登録から5年以内に3条1項3号違反を問われていても無効にされることはなかったでしょう。)
また、2010年には、別の菓子メーカーによる「東京バナナクランチ」なる商標登録出願が、上記の「東京ばな奈」等との類似を理由に拒絶になっています(不服審判でも覆せませんでした)。
要するに、「東京ばな奈」は無事商標登録でき、他社からの無効審判に勝利でき、他社の類似商標の登録も防止できたということになり、商標登録を考慮したネーミング戦略としては絶妙のものだったということになります。
とは言え、「東京ばな奈」も勝利パターンだけというわけではありません。だいぶ昔にはなりますが、「大阪プチバナナ」「大阪プチバナナ もーらった!!」なる菓子を販売している大阪の菓子メーカーと揉めたことがありました。明らかに「東京ばな奈」「東京ばな奈 ”見ぃつけたっ”」のインスパイアですが、商標として確実に類似するとまでは言えず、エグいところを攻めてくるなあと言う印象です。
2005年に、「東京ばな奈」側は、「大阪プチバナナ」の商標登録に異議申立しています。一度は取消になったのですが、「大阪プチバナナ」側は審決取消訴訟を提起して、知財高裁が取消決定を取り消し、登録維持に成功しています(やはり類似・非類似が結構ぎりぎりの線だったことがわかります)。著名商品の便乗品が存在するのはお土産業界あるあるだと思うので「東京ばな奈」側としては諦めるしかないのかなと思います。