ロシア軍の爆撃でシリアの森林火災が拡大したとするホワイト・ヘルメットの主張は真実か?
ホワイト・ヘルメットの主張
シリアのアル=カーイダとして知られるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)と行動を共にするホワイト・ヘルメットは9月10日、フェイスブックの公式アカウントを通じて、次のように主張した。
また「シリアで続く森林火災:政府軍ヘリコプター、イランの大型航空機、ホワイト・ヘルメットが消火にあたる」で述べた通り、この書き込みが行われる前日の9月9日、シャーム解放機構のアブー・ハーリド・シャーミー軍事報道官は報道声明を出し、反体制派の支配下にあるいわゆる「解放区」の西端に位置するラタキア県北東部のクルド山地方 (サルマー町近郊)とトルコマン山地方 (ハッファ市近郊)で、最近になって火災が多数発生しているとしたうえで、それらがシリア軍の砲撃によるものだと主張していた。
シリア政府の支配下のハマー県北西部やラタキア県北東部で8月31日に発生した森林火災は、9月10日未明に「解放区」内のクルド山地方、イドリブ県のシャイフ・スィンドヤーン村 (サルマーニーヤ村近郊)、ヒルバト・ジャウズ村の灌木地帯に拡がり、ホワイト・ヘルメットが実際に消火作業にあたった。だが、本当にロシア軍やシリア軍の攻撃が事態を悪化させたのだろうか?
ロシア軍の爆撃
ことの経緯を振り返ってみよう。
英国を拠点とする反体制系NGOのシリア人権監視団によると、9月9日、シリア政府の支配下にあるアレッポ県西部のミーズナール村とイドリブ県のトゥライハ村(タフタナーズ村の東)に爆弾を装備した所属不明の無人航空機(ドローン)複数機が飛来し、自爆した。
これに対する対抗措置として、ロシア軍の戦闘機5機がイドリブ市西のシャイフ・ユースフ村やアラブ・サイード村一帯と、クルド山地方のカッバーナ村の丘陵地帯を爆撃した。ロシア軍はまた11日も戦闘機1機がシャイフ・ユースフ村やアラブ・サイード村一帯に対する爆撃を実施した。
ロシア軍が「解放区」に対して爆撃を実施したのは、8月23日以来17日ぶり。
シリア軍も9月9日、10日、そして11日と、シャーム解放機構がトルコの庇護を受ける国民解放戦線(国民軍)とともに主導する「決戦」作戦司令室の活動地域であるザーウィヤ山地方一帯への砲撃を実施した。
爆撃で火災は拡大したのか?
ロシア軍が9月9日と11日に「解放区」を爆撃したこと、そしてシリア軍が同地を連日砲撃しているのは事実である。また9日のロシア軍の爆撃が森林火災発生現場に近いカッバーナ村一帯に行われたことも事実である。
とはいえ、爆撃が行われたのは9日の昼、森林火災が「解放区」に拡大したのは10日未明で、両者を結びつける唯一の決定的証拠は、ホワイト・ヘルメットの主張だけである。また、ホワイト・ヘルメットであれ、シャーム解放機構であれ、これまでロシア軍とシリア軍の攻撃によって森林火災が発生したと非難したことはない。
ロシア軍の爆撃で火災は発生したかもしれない。だが、それを森林火災と結びつけることは、プロパガンダだと言わざるを得ない。