大手電力決算で多くが過去最高益更新したもっともな理由と高止まるいびつな構造の両面を分析
大手電力10社の今年9月中間(4月~9月)連結決算が先月末に出そろい、全社が黒字を確保し、東京と沖縄を除く8社(北海道、東北、中部、北陸、関西、中国、四国、九州)が過去最高益を更新しました。
このニュースを聞いてパッと思い浮かぶのは6月から始まった家庭向けの約15%から最大4割の値上げ(中部、関西、九州を除く)。昨年から今年初に電気代の「家計簿ショック」に悲鳴を上げた方のなかには「過去最高益? ふざけるな。カネ返せ」と反発したくもなりましょう。
ただ掘り下げてみると、どうやらそう簡単ではない。そして、以下に紹介する複雑さこそ今後の不安を暗示しているようなのです。
「規制料金」とは過去の「総括原価方式」が残存した「経過措置」
6月に値上げした「家庭向け」の多くは「規制料金」を指します。電力システム改革で16年4月から家庭向けを含めた電力小売自由化が始まったのですが、過去の仕組みも併存しています。それが「規制料金」です。
「過去」とは大手電力が市場を独占していた時代の「総括原価方式」と呼ばれた決定方法を指します。「適正な事業計画に基づく原価」として「営業費」(燃料費、減価償却費、運転費、人件費、広告費など)に「適正な報酬」を乗っけて消費者へ請求する形です。
「報酬」とは「発電所や送電線など電力設備運用のための資金調達によって発生する支払利息や配当など」(資源エネルギー庁)との説明ながら「支払利息や配当」は一般企業は利益から捻出するのが普通なので「絶対に利益が出る仕組み」と悪名高き代物であったのです。
自由化とは文字通り「自由料金」のみにする改革。ゆえに総括原価方式は「経過措置料金」と名を変え20年3月末で廃止するつもりでした。値上げに国の認可が必要だから「規制料金」と呼びます。
それが残存している理由は昨今の状況変化で、こちらの方が自由料金より安くなるいびつな現象が出来したからといえます。なぜでしょうか。
料金に占める圧倒的存在が燃料費
まず「規制料金に占める圧倒的存在が燃料費である」を確認しておきます。日本の電源構成で用いられる化石燃料は順に天然ガス34%▽石炭31%▽石油7%で計72%。大半が輸入に頼っているのはご承知の通りです。これらの値段が昨年から暴騰しました。
日本は島国だから天然ガスをパイプラインで供給できず液化して輸入します。化石燃料のなかでは気候変動への悪影響が小さいので重宝しているのですが、新型コロナウイルス感染症のパンデミック後の地球規模の経済回復で需要が強まって高騰。最も安い石炭は反対に温暖化の元凶とにらまれてオワコン扱いされオーストラリアやインドネシアという主産地への投資が減退しているのが痛い。
ここにロシアのウクライナ侵攻と急激な円安が加わって過去の数倍という調達価格に跳ね上がってしまいました。
燃料費調整制度で大赤字とは?
ここに規制料金のみ置かれる燃料費調整制度が電力会社を苦しめたのです。本来は調達価格を電気料金へ自動的に反映していい決まりですが、上限が設定されています。先述の燃料費爆上がりで昨年2月頃その上限に達してしまいました。超える分は電力会社がかぶるしかなく規制料金を提供する大手は大赤字。と同時に上限がない自由料金の方が高くなる現象も発生したのです。
青ざめた各社は昨年末から認可の主体である経済産業省に3・4割の値上げを申請。本当はやりたくなかったのをやむなくという感じでした。というのも認可する政府も国民に不人気な決定をしたくないから経営の改善やら人件費などコスト削減などへ厳しい手を突っ込んでくるのが確実だから。案の定、あれこれ言われた挙げ句に再査定を命じられ10ポイント以上圧縮されてやっと6月に認められました。
最大の理由はタイムラグ
では一転しての過去最高益続出はなぜ起きたのでしょうか。最大の理由はタイムラグです。4月~9月は大赤字真っ最中の時より燃料価格が落ち着いてきました。しかし下落分を価格へ反映させるのは数カ月後。したがって4月~9月の料金は結果的に高かったものの、すぐ下げようもないため(「規制」料金だから)利益がふくらんだだけです。
どうやら通期でも黒字は見通せそう。それも国民にとって悪いわけでもありません。赤字続きで設備の維持・更新さえままならない状態は、それはそれで不安ですよね。
政府が1月から行っている標準世帯で月額2800円の電気代補助も当面延長されると決まりました。しばらくは家計簿ショックから免れそうです。
肝になる不祥事が続発する体質の改善
と、何となく大手電力を擁護するような解説となりました。加えれば、しばしば指摘される「給料が高すぎる」も電気料金全体とほとんど相関しません。最低賃金まで下げても安くはならないでしょう。
では何の課題もないかというと決してそうではありません。やはり肝になるのは6月からの値上げを認可する過程で検証された不祥事が続発する体質の改善です。
電力自由化は大手独占を改めて新規参入を促し(新電力)、競争を通じて料金を下げて国民の福祉を増大させるのが目的。この発想自体を「絵空事だ」と批判する声もあり、傾聴すべき意見でもあるのですが、少なくとも大手電力自身が理念に背くような行動をしてはならないのは当然といえます。
「のぞき見」させる気をそそる「法的分離」方式
なかでも市場に招き入れる新電力の顧客情報を不正に閲覧して公平な競争を阻害した件は理念にもとるのみならず料金にもかかわるだけに見逃せません。
この「のぞき見」が起きる理由は次の通りです。
20年4月、改革の総仕上げとして始まった「発送電分離」。これまで大手が独占してきた送配電会社を中立化させて大手も新電力も同一条件で使えるようにし、新規参入が増えて競争も進むというのが当初のもくろみ。ところが、いざ始まると「法的分離」に止まりました。
つまり大手は法的には送配電会社を本体から切り離す(会社分割)も沖縄を除いて本体が100%株主。16年スタートの家庭向けを含めた電力小売自由化用の小売電気事業者もほぼ同じように設置したのです。なお、この「小売電気事業者」に新電力も含まれます。
発送電が分離されたので「小売電気事業者」は送配電会社へ送配電網の使用料(託送料金)を払ってサービスを提供します。ところがこの送配電会社の大半が大手電力の資本下にあるため「どこの新電力がいかなるサービスを提供するのか」という内部情報を大手は知り得るという寸法です。もちろん不正とはいえ、環境がその気をそそる。何しろライバルの機密を裸にできるのですから。
国の介入による料金圧縮は新電力にとって廉売されるのと一緒
しかも大手の「小売電気事業者」は同一資本の送配電会社へ託送料を払うだけだからグループ内でおカネが行き来するのみで懐が痛まない半面、新電力は純粋な負担増となります。
そもそも新電力の多くは自前の発電所を持っていないか、保有していても安定供給できるほどに電源を確保できないケースも多く、日本卸電力取引所から調達する(=買い手)のが普通です。では売り手はというと結局は大手電力に頼らざるを得ません。そして何を売るかというと電気となります。
つまり同じ市場から買った同じ商品を売るのが新電力で調達した電源の元をたどると大手電力というわけです。燃料費が上がれば卸売価格も当然高騰。大手でさえ悲鳴を上げている状況下で幾重にもハンディを負った新電力が太刀打ちするのは容易でありません。
しかも、これまで述べてきたように規制料金が残存していて、一見良さそうな国の介入による料金圧縮も、新電力にとっては廉売されているのと一緒で太刀打ちできない状況を一層深めるのです。
せめて発送電の所有権まで分離して真に中立な公共財にすべきとの意見が消費者庁あたりから出てはいるものの憲法が定める財産権の保障を犯すとの批判も強く実現に至っていません。