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2021年、J1リーグMVP、ベストイレブンを独自選考。「新人王」は香川、鎌田に続く代表10番候補

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:アフロスポーツ)

 12月4日、J1リーグは全日程を終えた。

 2021年シーズンも、川崎フロンターレが連覇を遂げている。とりわけ、前半戦は強さの頂点に達した。どのチームも太刀打ちができないほどだった。

 そこでリーグMVP、ベストイレブンを選ぶとすれば――。

ベストイレブンは川崎中心

 まずベストイレブンは、どんなに角度を変えても連覇を達成した川崎の選手が中心になるだろう。

       レアンドロ・ダミアン(川崎)

               上田綺世(鹿島)

 前田大然(横浜FM)                  

                       家長昭博(川崎)

      イニエスタ(神戸)      田中碧(川崎→)

吉田豊(名古屋)                     山根視来(川崎)

       谷口彰浩(川崎)    ジェジエウ(川崎)   

          ランゲラック(名古屋)

 レアンドロ・ダミアンは前線での存在感が比類なかった。圧倒的なパワーを見せたが、特筆すべきは川崎の戦術にフィットした点だろう。むしろ、後半戦は彼自身が濃厚に戦術をけん引していた。

 川崎で次に突出していた選手は、センターバックでコンビを組んだジェジエウ、谷口彰浩だろう。ゴール前の守備で力強さを見せた。そのインテンシティで勝ったことが、今シーズンの川崎の強さだった。左センターバックはサガン鳥栖のエドゥアルド、ヴィッセル神戸のトーマス・フェルマーレン、右センターバックはチアゴ・マルチンスと迷ったが…。

 後半戦の川崎は、敵味方のペナルティエリアの勝負で上回っていた。

 また、右サイドで圧倒的キープ力を見せ、プレーリズムを作っていたのが家長昭博だった。左足のキックは、今もJリーグ屈指だろう。周りを生かす術に長け、円熟味を増した。

 家長の恩恵を受けたのが、右サイドバックの山根視来だろう。シーズン後半に浦和レッズに入団した酒井宏樹も格の違いを見せたが、シーズンを通して攻撃のアクションで山根は図抜けていた。代表での出場時間を増やしているのも不思議ではない。

 一方、田中碧は夏に欧州移籍を決めたが、たとえシーズン半分でも川崎サッカーをけん引し、特別に選出した。名古屋グランパスのMF稲垣祥も好プレーを見せたが、昨シーズンも筆者は各紙で田中をダントツのリーグMVPに選び、別格のプレーヤーと言える。率直に言って、彼がいた川崎と去った川崎は別のチームに見えるほどだ。

 ポリバレントな旗手怜央も選びたかったが、ポジションごとに選考すると難しかった。例えばMFは田中の次点は鹿島アントラーズの左利きボランチ、ディエゴ・ピトゥカだし、アタックラインだとやや弱く、左サイドバックとしてはあくまでバックアッパーで…。

川崎に一矢を報いたのは名古屋勢か

 名古屋グランパスは堅守でルヴァンカップ優勝を果たしたが、バックラインから二人を選出した。マッシモ・フィッカデンティ監督が守備の規律を整えた点も大きかったと言えるだろう。

 堅いディフェンスの中心にいたのが、GKランゲラックだった。守備範囲が広いわけでも、キックに長けるわけでもないが、ゴールラインに沿ったゴールキーピングは世界標準。サガン鳥栖の朴一圭は対照的に面を使ったセービングで広いエリアで守るモダンさを感じさせたが、最後はチームとしての成績を加味した。

 吉田豊もイタリア人監督の守備充実によって、自己ベストに近いシーズンだった。攻守にわたって実直でアグレッシブ。代表招集はなく、もう少し評価されていい左サイドバックだ。

 川崎と優勝を競った横浜F・マリノスからは、レアンドロ・ダミアンと並ぶ23ゴールで得点王を受賞した前田大然を選出した。ゴールへのアプローチは野性味満点。猛然と裏へ抜けるスピードだけでなく、クロスに入る迫力が際立った。

 横浜はシーズン後半からケヴィン・マスカット監督が就任後は竜頭蛇尾で、パワースピードに頼った戦いに終始し、シーズンを通して活躍した選手が意外に少なかった。岩田智輝はベストイレブンに値したし、マルコス・ジュニオールもサッカーセンスは見せつけ、水沼宏太もサブでの出場がほとんどながら、高精度のクロスでJ1で1、2を争うアシストを記録したが…。

 鹿島アントラーズの上田綺世は、動き出しの良さが光った。味方と連携するインテリジェンスが抜群。14得点を記録したが、五輪出場やけがで出場時間は多くはなく、潜在能力はこんなものではない。FWの次点は夏にヴィッセル神戸からセルティックに移籍した古橋亨梧で、シーズン半分ながらリーグ3位の15得点している。

 最後に、ヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタを選出した。23試合出場にとどまったが、ピッチに立てば一線を画していた。サッカーを生み出せる選手で、彼がJリーグのピッチに立っているのは奇跡だ。

ルーキー、荒木の可能性

 MVPは優勝チームから選ぶべきで、得点王にも輝いたレアンドロ・ダミアンで決まりだろう。他の選手が思い浮かばない。今シーズン後半の川崎は、ゴール前でのウェイトが大きく占め、ストライカーとしての差を見せた。昨シーズン、田中がMVPにふさわしかったことを考えると、チームとしての変化の象徴とも言えるだろう。

 最後にこれからのJリーグを背負うベストヤングプレーヤー賞を選ぶなら、鹿島の荒木遼太郎がふさわしい。十代で二けた得点を記録。何より、結果で才能を示した。ボールを受け、さばき、運び、作り、通し、仕掛け、そしてゴールネットを揺らす。ライン間でプレーする能力に優れ、神出鬼没、高い技量を見せた。創造性を感じさせるアタッカーで、香川真司、鎌田大地の次の代表トップ下候補と言えるだろう。

 個人的には、サガン鳥栖の中野伸哉をもっと見たかった。彼はサッカーセンスの塊。次代の代表左サイドバックを10年以上、担う逸材だけに…。

 有力な日本人選手の欧州移籍が相次ぎ、コロナ禍で外国人選手獲得も思うように運ばず、ややJリーグ全体がパワーダウンしている。ただ、夏以降は欧州で長くプレーしていた日本人が続々と戻ってきた。2022年シーズンはベテランと若手が融合し、より一層のレベルアップが図られることを期待したい。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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