29日~ニクの日に考察する健康と味覚そして豊かな社会。
グルメ大国日本。実に様々な食が花盛り。
世界遺産日本食を産み出した食の究極もあればB級グルメという分野や大食いバトルまで、じつに日本の食文化は多彩です。わたくしが目を見張ったのは6月中旬にたまたまバラエティ番組で見たモスフードサービスの「にくにくにくバーガー」。番組はメニュー開発過程でボツになったものを出演者が試食し、協議の上で復活させるもの。多数の没メニューに大差をつけて復活したそれはいかなるものか?この番組を受けて実際に期間限定で販売されました。焼肉だれで味付けされた牛バラ肉と直火焼チキンを、炭水化物のバンズに代えてパティ(ハンバーグ状の肉)で挟む、まさに「肉×3バーガー」。毎月29日(ニクの日)発売が決定。果たしてこれは多様な日本の食におけるB級グルメのモンスターでしょうか?わたくしはそうは見ていません。
番組で見たその瞬間に、わたくしが直感したのはバランスです。今、ブーム化している炭水化物ダイエット。炭水化物を減らすことでカロリー摂取を減らすことが可能。まさにそれに見えます。しかしダイエットは超過を減らすことだけをさすわけではありません。足りていないものを摂らねばダイエットではありません。実は日本人、特に高齢者の多くが栄養失調となっています。栄養状態が戦争直後よりも悪いという報告もあり、厚労省もこの数年、高齢者こそ肉食をと呼びかけています。
にくにくにくバーガーはその視点にマッチしています。実食してみるとモスバーガーらしい優しく甘みのあるソースと新鮮なレタスが三種の肉とマッチしてとても美味しく、お腹の底から元気が湧いてくるようでした。飲み物と合わせるとちょっとしたディナーの出費ですが、もはやハンバーガーというカテゴリーが多様化して、ファストフードから高級ステーキレベルまで多様な存在に成長している現在です。
今、食の危機を乗り越える
店頭で大いに興味を持って、モスフードサービス広報IRグループへ取材を申し込みました。ここまで私見として書いたことは確証を得ました。理念と実践を一致させた展開はなかなか難しいものです。それが企業経営です。特に食というものは人生において欠かせないものであり、最後まで一番の友であり楽しみ。裏切りは許されません。
食生活の課題は2000年代に入って国会でも議論が始まっています。特に子供たちの孤食が話題になっていました。それを受けた食育基本法が2005年に成立し、7月に施行。
<モスの食育プログラム>は国会の動きに併せて検討開始され、法制化に先んじる2004年に一部実施、成立する2005年には全国導入を実現。各店舗が近隣の小学校に出張し、食の大切さとテリヤキバーガーを実際に作って主体的に食を考えるプログラムです。受講する小学生とともに先生である社員側も貴重な体験となっているでしょう。2016年度までに37,872人が参加している育成事業。食の課題を解決する努力が今後も楽しみです。
より切実な危機「味覚障害」を超える
食の危機は子供の孤食危機だけでなく、冒頭の高齢者の栄養失調だけでもなく、全年代共通の危機があります。それは味覚障害です。小学校低学年では30%(2014年東京医科歯科大調べ NHK報道資料より)、医療機関受診者は24万人以上(2014年日本口腔咽頭科学会調べより)という数字が公表されています。原因は亜鉛不足、ドライマウス、心因性そして薬物刺激などがあり、偏食習慣、濃厚な味付けや強い甘味の継続摂取が問題視されています。実態として小学生では酸味の認知ができず、乳児期にはあった酸味、苦味による危険感知能力が消えています。成人の場合は濃い味付けによる健康被害。覚せい剤やアルコールにも匹敵する依存症であるという指摘もあります。高齢者および健康弱者では唾液の分泌減少と医薬品摂取、疾病による味覚障害が多くなり、食欲の減少そして咀嚼減少につながっています。
味覚障害は他の心身の障害と同様に、いやそれ以上にケアが求められています。まず酸味、苦味がわからないことで摂取すべき安全を感知することができません。子供がヨーグルトドリンクだと思って飲んでいたら、実は腐敗した牛乳であったなどというのは笑い話ではないのです。腐敗と発酵の違いは似て非なるものです。味覚が損なわれることは好き嫌いの原因でもあります。その先には周囲からの疎外感が生まれ、さらには変な奴だといじめにもつながっている現状があります。味覚障害は健康だけでなく、人間関係にも悪影響を及ぼします。他人から察知しにくいだけに、深刻であるのです。
そこで食の安全先進国フランスから始まった「味覚の一週間」プロジェクトが2000年から日本でもスタートしています。毎年味覚の秋、味覚の授業をメインに全国で実施され、味覚の確認と本当の味覚を知る機会となっています。今年も10月23日(月)~ 10月29日(日)開催されます。
この活動をさらに味覚の育成を計るものに、と事務局サポートの鈴木久美子さんに共鳴し、推進するのはユニバーサルデザイン空間デザイナーの柳瀬幸多朗氏。2015年から三郷市と提携した味覚育成プロジェクトが始まっています。一年を通じて多くの子供たちを支援する柳瀬氏は味覚障害がもたらすいじめなどの現実にもじかに触れてきました。この夏、三郷市市議会議員に当選し、このプロジェクトを議会にも提出しています。味覚の一週間を年間での運営にし、より多くの学校での実施とより深い学習成果と人間形成を実現しようとする挑戦です。また有名シェフだけでなく、地域で意識の高い料理人や食材による地元効果の高い内容にすることで地域コミュニティ、つまりPTA+行政+学校+地域飲食経営者での課題解決を目指しています。このモデルが全国に拡大し、未来を味覚から切り開いて欲しいものです。
シェフのレシピからは5つの味覚をチェックするデザートや味覚を取り戻すために機能するメニューや飲料のアイデアも出てきています。この商品開発もこれからの重要なテーマです。グルメ大国の陰にある障害とその解決。きっと本質を突いていけば、子供も老人も健康で、安定した心身をもって明るく生きられるはずです。いじめなどの差別的課題も解決の光が見いだせるはずです。
今週はいよいよまた29日が来ます。にくにくにくバーガーに限らず、高齢の方が積極的にアルブミン値を上げて欲しいですね。そしてあわせて味覚の確認をしてみてください。どんな?それは肉の味の違いが分かるか、です。牛肉、豚肉、鶏肉の違いが分からない味覚障害になっていないか確認してみましょう。来月だと10月29日は味覚の一週間最終日にもなります。ぜひあなたと世界の健康な味覚を考えつつ、大切な食事を味わってみてください。見た目にも、自分でも意識しにくい味覚という障害を真剣に考える良い機会です。そして美味しさと健康を感謝する機会です。
さて現在のハンバーガー業界は全体に目を見張る多様さと健康志向が見られます。興味深いところですが、わたくしの専門からあまりに外れますので、他のオーサーの執筆に譲りたいと思います。よければ読者の皆様もこの記事のコメント欄でご紹介ください。
*モスフードサービスへの取材はわたくし個人が純粋に聞き取り取材を実施したものであり、利益関係は全くありません。