IS人質事件で北欧デンマークはどう対応したか 実話の映画
しんどい気持ちになる映画だった。
デンマーク映画『13 maneder』は「13か月」という意味。監督はNiels Arden Oplev氏とAnders W. Berthelsen 氏。
すでに公開されているデンマークやノルウェーでは現地メディアに高く評価されている。タイトルは別名「Daniel」、「Ser du manen, Daniel」(英語で「Do you see the moon, Daniel?」)。
23歳のデンマーク人フォトグラファーであるダニエルが、2013・2014年にISの人質としてシリアで過ごした398日間が描かれている。実話を基にした映画だ。
ストーリーには西洋出身の他の人質との交流も含まれている。その中には殺害された米国人ジャーナリストのジェームズ・フォーリー氏もいた。
フォーリー氏は解放直前の人質のひとりに、家族への伝言を暗記してもらって残していた。それがデンマーク人のダニエルだった。
これは実話であり、日本語でもニュースを見つけることができる。
デンマーク人が送った人質生活の様子を取材・執筆した本『ISの人質 13カ月の拘束、そして生還』(光文社新書)を基に映画は作られた。
この事件はデンマーク現地でもニュースとなっていた(「13か月間シリアで人質となっていたデンマーク人が開放される」(デンマーク公共局2014年6月19日)。
裕福だとされる欧米出身の白人が人質に捕らわれた時、拘束された者たちの身には何が起こっているのか。
彼らを救おうと必死になる家族、人質解放のために動くエージェンシー、政府の対応、ISが根付く国で恐怖に怯えて暮らす人々、理解できない怪物として登場するテロリスト、人の精神を破壊するISのやり方。様々な角度で人々の恐怖が描かれている。
絶望で気がおかしくなりそうな中、それでも自分を保とうとする人質同士の交流には心を打たれるシーンも多い。
身代金要求を拒否するデンマーク政府の姿勢、莫大なお金を集めようと翻弄するデンマークに住む家族の心情もリアルに描写されている。
テロリストの身代金の要求には断固として従わないデンマーク政府。その対応は、自国民の命を引き換えにした支払いには応じないノルウェー政府の態度を思い出させるものだった。
ノルウェー映画『The Congo Murders』(Mordene i Kongo/2018)では、罪に問われたノルウェー人元兵士2人を理由に、賠償の支払いを求めるコンゴ民主共和国側と、支払いを拒絶するノルウェー政府のやり取りが描かれている。こちらも実話を基にした映画だが、デンマークの事例とは別の倫理が問われるテーマを多く含んでいる。
合理的な北欧政治と、薄情だと落胆する家族。どちらのケースでも国際政治の理解を深めることはできるだろう。
一方で、日本で起こるような自己責任論、謝罪を求める風潮、誹謗中傷は映画作品には描かれておらず、実際に北欧社会でこのような風向きが起きることはまずない。
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想像した以上に暴力的なシーンが続くので、私は時にスクリーンから目をそらしていた。
それでも、現実に起きていることはもっと残酷だ。そのためこの映画の世界観や描写はまだまだ「優しすぎ」て(ノルウェー公共局)、「驚くような内容ではなく」(デンマーク公共局)、現実に起こっている恐怖を伝えきれていないとも北欧現地のメディアでは伝えられている。
映画が放つメッセージは、物語の最後のテロップに詰まっているとも感じた。
「デンマークに難民としてやって来る人々は、これ以上の恐怖を味わっている」と。
本作は2021年に日本でも公開が予定されている。
Text: Asaki Abumi
※一部のデンマーク語とノルウェー語の特殊な表記、当記事では反映ができないので英語アルファベットとなっています